私は、食品を微視的ではなくて、巨視的に考えたいのです。美味しいものを食べると幸せになり、気持ちも良くなり、他の面でもいいことがあり、もちろん身体にも良いし、長生きもでき、いつまでも動けてボケなくていいといった総合的な観点からみたいと思っています。
学問的なデータを得た後は、例えば、ナショナルプロジェクトのようなもので、どういうものをどういうふうに摂ればいいのか、というような実践の方法を提示していかなければいけないと思っています。
そうした学問体系を作るために、ゲノム情報を使います。
食品の中の因子が生体に有効性があるとしたら何故だろう、というのを、皆さん細胞にふりかけてということでみているのですが、私共はこれをラットやマウスや牛に食べさせてみて遺伝子の変化を計測するという方法で行います。
まず、哺乳類で人間に非常によく似ているラットとかマウスとかそういったものを使ってある程度の結果が出ましたら、今度は人間の尿、唾液、血液、頭髪、皮膚でみれるかもしれません。ともかく動物でもう一回、何故効いているのかというところをみましょうということでやっています。
編集部 :今後、企業が参画した場合、どのような手順で行われますか。
阿部:私共は産学コンソシアムのような形でやっています。企業の方々にはオリジナルの素材をもってきていただき、それを上述の方法で解析します。もちろんこちらで研究していただいても結構です。主体的に企業の方々にオリジナルの商品で実験をしていただき、そのデータを元にディスカッションしましょうということです。
その場合、全ゲノムがのったチップを使い、これで食品の機能を計測します。
トクホの次の大きな市場が期待
企業の方々は食品の機能性をいろいろ研究してトクホをとっています。が、次世代、次々世代の機能性食品というのが大きな市場としてあるわけです。
だとしたら次は開発のスクリーニングの方法です。今までは何処かで原料を見つけてきて、疫学的に良いらしいということで、例えば、沖縄の人は長生きをするのはなぜだろうと、沖縄にある野菜を全て調べようという方々もいれば、豚がいいんじゃないかということで豚を、あるいはミネラルが良いということで海藻をやっていました。
ただ、それをどう評価するかということです。その中の成分が、例えば100成分あったとして、どの系統で自分達はやっていくかということです。豚でも、蛋白なのか、脂肪なのかということです。その時にヒト試験をボランティアを募ってやろうとすると大変な労力を要します。
スクリーニングから最終的なところまで何らかの評価系が皆さん欲しいわけです。私共では、このチップで遺伝子情報を使うことによって数値化すれば、きちっとした学問になると考えています。
私共の評価系を用いて、5年以内にそれを出したいというのが現在一緒に研究している企業の方々の目標です。
編集部 :企業の参加ニーズは大変なものがあると思いますが。
阿部:問い合わせが殺到していますが、一つの実験に半年くらいかかります。ですから、半年、1年くらい待ってくださいとお願いしているような状況です。まずイルシー(日本国際生命科学協会)に加盟していただいて、それから私共のところに来ていただくということでお願いしています。
多くの企業がいろいろな方向から、例えば、血糖値だけでも1社だけでなく5社くらいが、たんぱく質でも、糖でも、脂質でも効くといったオリジナルの商品を開発していらっしゃいますが、そこで、こういった遺伝子が効いているらしいという基礎知見を共有できますと、使用するチップも共同購入できますので、値段もかなり割安になると思います。
編集部 :予防医療の意識が高まっています。中でも、「食」の機能性に関心が集っていますが、同時に安全性についても敏感になっていますね。
阿部:安全性については、「これは安全ですよ」という最終結論はこの方法では言えません。ただ、危険な場合は、身体の神経系がSOSを出した時には、こういった遺伝子の発現があります、というようなことがわかってきています。遺伝子サイドから見た毒性チェックについても、当然知っておくことは大切です。
編集部 :米国では遺伝子解析による創薬が盛んですが、食品開発への取り組みについては。
阿部:創薬ということに関してはものすごく熱心ですが、食品についてはまだそういうことをやっていないようです。
食べ物というのはプラス面とマイナス面の両方があります。いろいろなものの負のリスクを取らないような食べ方をしなければいけません。
ちゃんとしたデータをとろうと思うと10年かかります。環境の良くない土地でできた物は食べてはいけないといいますが、何故かという答えがありませんでした。そのために数値化したデータを短期間で出すのがまず第一と思っています。