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食物が血液や細胞へと生成発展、異端視されてきた「腸造血」理論
〜代替医療はどこまでがん予防・治療に有効なのか

8月26日、27日の両日、東京都立産業貿易センターで「コ・メディカル産業展2008」が開催された。記念セミナーで、酒向医師(セントマーガレット病院・外科)が、「新しい統合医療のための基礎理論(千島・森下学説)」を講演した。

今のがん治療技術は行き詰り、限界にきている

がんは治る病気となったといわれるが、この数十年間、多くのがんの治療成績はほとんど改善しておらず、がんの死亡率もあまり変化していない---。
冒頭、酒向氏は『がん治療の常識・非常識』(講談社ブルーバックス)の掲載文を紹介し、現在のがん治療の低迷と医学界の混迷を指摘した。
「日本はMRAも内視鏡も世界一で、診断技術は進歩したが、がんの治療成績でよくなったのは早期のものだけ。全体の成績は上がっているが、30年前とほとんどかわっていない。今の外科の技術はもう行き止まり。限界にきている。今の技術を駆使してさらにがん治療の成績を上げられるかというともうあげられない」と述べた。

さらに、「がん遺伝子が発見された頃にこれでがんは克服されるだろうといわれたが、未だにがん遺伝子治療は実用化されていない。がん遺伝子治療で治ったというのは今のところゼロ。なにがどうなっているのかわからないというのが本音」と酒向氏。

現代医学の根本理論に誤り

医療技術がいくら進歩してもがん患者が一向に減らないという現状。日本ばかりではない。世界的に、先進諸国が抱える深刻な問題だ。
90年代後半より、米国では正統派西洋医療以外の医療、オルタナティブ・メディスン(代替医療)を求める動きが高まる。現代医療はもはや限界ではないのか。医療サイドのみならず患者サイドからもこうしたが声が叫ばれるようになる。

近代医療の先端を走る米国では代替医療を求める国民の抗しがたい声に、NIH(米国立衛生研究所)など政府系医療機関が西洋医療以外の有効な代替医療の検証に乗り出す。

これまでに効用が確認されている代替医療の代表的なものとしては、漢方、鍼灸、カイロプラクティック、栄養療法、ホメオパシー、アロマテラピー、心理療法などがある。いずれも西洋医療のように高額な費用がかからず、手軽に行えるものがほとんどだ。西洋医療と代替医療の併用を試みる医療機関もここにきて増えている。

穀菜食のマクロビオティック、ベースに「腸造血」理論

代替医療の中でも、日頃のがん予防に役立つとして、サプリメントなどによる栄養療法が人気だが、玄米などの穀類や野菜を中心としたマクロビオティック食やゲルソン療法など食事そのものを改善する食事療法も多くのがん患者に支持されている。米国では、マクロビオティック食がエイズ患者の食事療法に用いられたことも報じられている。こうした食事療法のベースには、「腸造血」理論がある。

「腸造血」理論は、日本では千島喜久男氏や森下敬一氏が唱えた。森下氏は実際に自らのクリニック(お茶の水)で、がん患者らに「腸造血」理論に基づいた食事療法を行っている。しかしながら、「腸造血」理論は現代医学ではいわゆる異端の学説とされている。要約すると、「食物は生きた細胞」であり、食物が赤血球、白血球、さらに細胞へと生成発展していくというもの。
現代栄養学では食物は腸にいくと、分子レベルで吸収され、肝臓に送られるとされている。これに対し、千島・森下らは、大腸に取り込まれた食物は赤血球になり、赤血球からさまざまな細胞へと分化するとしている。また、バクテリアやウイルスも腸内で自然発生すると提唱している。

「腸造血」理論では、食物はヒトの細胞へと生成発展するため、食物の質が非常に大切であるという。そのため新鮮で、生命力のある食物を摂ることを推奨する。「腸造血」理論に基づくマクロビオティック食では、動物性食品を一切排除し、玄米や野菜の摂食を薦めている。マクロビオティック食を支持する人々は日本ばかりでなく海外にも多い。
酒向氏は、医学生時代に「腸造血」理論を知る。「千島氏らの唱えた腸造血という革新的な医学理論、むしろこちらが正しいのではないかと思う」という。

千島・森下らに先駆け、旧ソ連で女性科学者が細胞新生を発見

なぜ、「腸造血」理論が医学界から黙殺され続けてきたのか。
現在の「生命の基本単位は細胞である」という細胞学説は19世紀にドイツでシュワン、シュガイデンという2人の学者が提唱する。同時期、ドイツの有名な学者、ウイルヒョウも「細胞は細胞からしか生じない」と唱え、以後、細胞は細胞分裂からしか生じないという学説が定着する。

「19世紀の後半にルイ・パスツールも自然発生説を否定した。細胞は細胞なくして生まれない、ということが高校の教科書にも載っている。細胞は細胞からしか発生しないのであれば、では一番最初の細胞はどうなったかという話になる」と酒向氏。

千島氏は細胞分裂を否定しているのではなく、「細胞の増殖が細胞分裂の数、頻度だけでは説明がつかない。細胞分裂はあるが主な細胞の増殖の元は細胞新生であろうというふうに説明した。これを論文にして九州大学で提出したが、当時、細胞は細胞からしか生じないと、正当医学者から反対され、論文は10年以上そのままになっていた」(同)という。ちなみに、千島氏に先がけ、旧ソ連、スターリン時代にレべシンスカラという女性の科学者が、細胞新生を発見している。その学説は正しいとされスターリン賞までもらっていたという。

酒向氏は、現在のがん検診の現状について次のように締めくくる。
「現在、がんの診断はホルマリンで細胞が完全に死んだ状態の固定標本でおこなう。これは、『スルメを見て生きているイカを想像する』ようなもの。こうした細胞学説が今でも医学の基礎理論に君臨している」。


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