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電磁波による健康被害、世界で実態が明るみに

12月7日、「電磁波過敏症と化学物質過敏症による複合汚染」と題した公開講座(主催:電磁波問題市民研究会)が開催された。「誰でもわかる電磁波問題」(緑風出版)の著者、大久保貞利氏らが電磁波汚染による健康被害の実態などを明らかにした。

WHO(世界保健機関)のブルントラント事務局長、「電磁波過敏症」に

「WHO(世界保健機関)の事務局長であるブルントラント女史が、電磁波過敏症に罹ったとして北欧の新聞は1面トップで扱った」(大久保氏)。女史はノルウェーの前首相で、小児科医出身でもあるため、大変な関心が集まった。しかしながら、日本では、これまでこのことがメディアで報道されることはなかったという。

電磁波による健康被害、「電磁波過敏症」が世界で深刻化している。「電磁波過敏症は化学物質過敏症にすこぶる似ている。電磁波過敏症と化学物質過敏症は8割が重なっている」(大久保氏)。発症をコップの水に例えるとわかりやすい。人によってコップの大きさ(許容量)が違うため、発症時期も異なる。しかし、いったん水(電磁波被爆)がコップからあふれ出すと、微弱なものでも反応するようになる。

「化学物質過敏症」は、日本でも次第に知られるようになってきた。しかし、「電磁波過敏症」についてはまだあまり知られていない。「スウエーデン、デンマークでは電磁波過敏症はES(エレクティカル・センシティビティ)として認知されている。医者もわかってくれるから保険もおりる。日本では医者も家族もわかってくれない。患者は孤立無援。このままいくとスウエーデンは人口の2%が発症する。日本にあてはめると250万人に相当する」(大久保氏)。

4ミリガウスの微弱値でも、小児白血病発症リスクが2倍以上

スウエーデン第2位の携帯電話会社、エリクソン社の有能な技術員だったパー・セガベック氏(スウエーデン人)の話は有名だ。
セガベック氏は、新型の携帯電話の開発に携わる過程で電磁波を浴び、「電磁波過敏症」を発症。微量のマイクロ派でも敏感に反応し、頭痛や吐き気、めまいなど起こすようになり、宇宙服のような異様な電磁波防護服で通勤せざるを得なくなった。しかし、その後、人々に携帯電話が危ないかのような印象を与えかねないとして会社を解雇されたという。

電磁波はあらゆる電気製品から発生する。「電磁波過敏症」は、電磁波の被爆量と被爆時間の掛け算で、ある日突然やってくる。その後、微量の電磁波でも敏感に反応し、頭痛や吐き気などの体調不良を感じるようになる。最近では、白血病やがんのリスクを高めるといったことも報告されている。

世界的にも、人体への電磁波被害は大きな社会問題となりつつある。2001年6月27日、WHOの下部機関である国際がん研究機関(IARC)は、世界10カ国(米、英、仏、独、日、カナダ、スウエーデン、スイス、デンマーク、フィンランド)の21名の専門家らによる評価ワーキンググループが「極低周波磁場はヒトに対し発がんの可能性あり」とし、発ガンリスク2B(発がんの可能性あり)に分類したと発表した。


これまでに世界で報告されている「高周波」「極低周波」をめぐる動き
(電磁波問題市民研究会:資料より)

*「高周波」:携帯電話、電子レンジ、TV・ラジオ波で使用/('97)スイスの保険会社が「保険業界にとって電磁波は驚異」と報告/('02/5)英国スチュワート委員会報告で「子どもの携帯電話使用抑制」/米国で「大規模携帯電話訴訟」/('02/11)ディズニー社、ミッキー・マウスを携帯電話のCMに使うことを禁止/ドイツ・エッセン大学疫学調査で「携帯電話で目のガンが4倍に」/ドイツ、イギリス、イタリア等世界各地で中継塔反対運動起こる。

*「極低周波」:電化製品、送電線で使用/16ミリガウス(最大磁場)被爆で流産リスク6倍に(米・ディー・クン・リー)/('98/6)米国立環境健康科学研究所が危険度2Bに分類/カナダ・水力発電所で電場被爆で白血病リスク8〜10倍に(トロント大)/('00/2)物理学者も10ミリガウスで影響という/スイスの鉄道労働者、脳腫瘍5.1倍(162/3ヘルツ)/('01/3)英国ドール委員会(非電離放射線諮問小委員会)が4ミリガウスで小児白血病2倍/('01/6)国際がん研究機関(IARC)が危険度2Bに分類/('01/10)WHOが「慎重なる回避政策支持」発表。


発ガンリスクのカテゴリーはリスクの高い順から1、2A、2B、3、4と分類され、ちなみに1は発がん性ありとして、アスベスト、ダイオキシン、C型肝炎ウイルスなどが挙がっている。2Bについては、電磁場以外に鉛、クロロフィルム、DDT、PBBなどが挙がっている。

日本でも電磁波による健康被害の実態が明るみになりつつある。
WHOは2005年に向け、電磁波の「高周波」と「極低周波」の領域で新しい環境保健基準を作るために世界54カ国に調査依頼した。これを受け、日本でもはじめて、文部科学庁が1999年度から2001年度の3カ年計画で、約350人の小児白血病患者と約700人の健康な子供を対象に全国規模の免学調査を行った。

その結果、「磁場0.4マイクロステラ(4ミリガウス)で小児白血病発症リスクが2倍以上」であることが明らかとなった。「4ミリガウスというのは蛍光灯から20〜30センチで計測される微弱な値で、これまで電力会社は50ガウスまで安全といっていた。50ガウスは50000ミリガウス。つまり1万2千5百倍安全といっていたがこれが崩れた」(大久保氏)。

最も身近な携帯電話からの電磁波被害、フランスで対処法を勧告

あらゆる電気製品が電磁波を放つため、緊急に対策を講じることが必要とされる。とはいえ、現在最も被爆が懸念されている送電線や変電所、携帯電話・PHS基地局、IT化で広がる無線LAN、さらに鉄道や自動車からの電磁波など、とうてい個人では防ぎようもない。

今年6月、東北大理学研究科・本堂毅助手の日本物理学会誌に投稿した「通勤電車内に充満する携帯電話からの電磁波被爆」についての論文が大きくクローズアップされた。現実に「電磁波過敏症」の発症者は、「電車内で携帯のメールを打たれているだけでも身体に痛みが走る。携帯に電話がかかってくることが寸前に感知できるほど電磁波に敏感になっている」という。電車からの電磁波、そして個々人の持つ携帯やPHSからの電磁波が車内で反射・重複し合い、電車通勤は苦痛以外のなにものでもないという。

こうした「電磁波過敏症」患者の増加を食い止めるために、電磁波問題市民研究会では、11月12日に13,748名分の「省庁あて要望書に関わる署名」を環境省、文部科学省、総務省、内閣府、厚生労働省、産業経済省に提出した。

電磁波対策で立ち遅れる日本だが、フランスでは具体的な対策を打ち出し、国民に勧告している。フランス政府は、とくに頭蓋骨の未発達な16歳未満の子どもに、身体に密着させる、使用頻度の高い携帯電話の使用について、「16歳未満の子どもは携帯電話をなるべく使わないよう、親が子どもに注意すべき。イヤホンを使用し携帯電話を頭部に密着させるのを防ぐようにする。妊産婦は携帯電話を腹部に当てない」といった勧告をした。イヤホンの使用で、電磁波の影響は20分の1に減るといわれる。また、16歳以上の女性についても、生殖器異常が懸念されるため、携帯電話を腹部から離したほうがよいという。


参考文献:「誰でもわかる電磁波問題」(緑風出版:大久保貞利著)
【電磁波問題市民研究会】http://www.jca.apc.org/tcsse/index-j.html

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