HOME > バックナンバー > 11/2月記事

厚労省、「Smart Life Project(スマート ライフ プロジェクト)」始動
「運動」「食生活」「禁煙」、健康寿命を延ばすための3つのアクションを提案

厚生労働省は、2月17日より「Smart Life Project(スマート ライフ プロジェクト)」に賛同する企業・団体の登録を開始した。同プロジェクトは、国民の生活習慣を改善し、健康寿命を延ばすことを目的に、賛同する企業や団体の社員・職員に、健康への意識が高まるよう人々への啓発活動を行ってもらうというもの。

「適度な運動」「適切な食生活」「禁煙」で健康寿命を延ばす

年々高騰する国民医療費。昨年11月に厚労省が公表した平成20年度国民医療費は34兆8084億円で対前年の2.0%増、国の税収とほぼ肩を並べるまでに至っている。この先、高齢化による要介護人口の増加など、もはや医療費高騰に歯止めがかかるという未来図は描けそうにない。

厚労省では、健康寿命(日常的に介護を必要としないで自立した生活ができる生存期間)を延ばすことを目的に、「Smart Life Project」を立ち上げ、賛同企業や団体の社員・職員に、国民の健康への予防意識が高まるよう啓発活動を行ってもらう取り組みを始めた。

「Smart Life Project」が提案するのは、「適度な運動」「適切な食生活」「禁煙」といった3つのアクション。「適度な運動」では、毎日10分の運動、「適切な食生活」では、1日350gの野菜の摂食を薦めている。

厚労省は、2月17日より連携企業・団体の登録を開始するともに、企業・団体、メディアとの連携による「Smart Life Project Week」(3月7日〜27日)で、啓発イベントやキャンペーンを行うとしている。

1日350gの野菜の摂食を目標に

「Smart Life Project」の「適切な食生活」では、とくに野菜の摂食を重視している。日本人は1日250gの野菜を摂っているが、あと100gの野菜をプラス、350gの野菜の摂食を目標に掲げている。

1日に350gの野菜の摂食については、日本人の野菜離れの懸念から、日本で2002年7月にファイブ・ア・デイ協会が設立され、野菜・果物の消費啓発活動が行われている。

「ファイブ・ア・デイ」という名称は、米国の「5 A DAYプログラム」運動に由来する。アメリカで90年代に入り、生活習慣病やがん予防のために、米国立ガン研究所を中心に、健康・医療の公共機関や民間の食品の製造業者らが連携し、毎日野菜5皿分(350g)と果物200gの摂食を目標とした運動を行い、疾患予防に成果をあげている。

はたして野菜・果物で十分なビタミンや抗酸化物質が補給できるのか

なぜ、現代人は野菜や果物をもっと摂る必要があるのか---。
野菜の各種疾患への予防効果についての研究報告はこれまでにも数多く出ている。疾患リスクの抑制については、野菜や果物に多く含まれるビタミンや抗酸化物質による活性酸素の除去という役割が大きい。

活性酸素は、農薬や食品添加物、大気汚染、過度の運動などで発生するが、現代人はとかく活性酸素の害に曝されやすい状況にある。
活性酸素は過酸化脂質を産生し、細胞を損傷させ、さまざまな疾患を引き起こす。活性酸素がLDL(悪玉)コレステロールと結びつくと酸化LDL(悪玉)コレステロールになる。その結果、血管壁が破れやすくなり、血栓が生じるなどの障害が生じる。活性酸素による遺伝子損傷でがんに至ることも報告されている。

こうした活性酸素の除去に、野菜・果物に含まれるビタミンや抗酸化物質が貢献しているが、問題は、昔と比べ、促成栽培や土質により野菜・果物のビタミン・ミネラル含有量が減っていることである。さらにやっかいなのは、農薬やダイオキシンなどの化学物質に暴露された野菜・果物だと、余計に活性酸素を発生しやすいということがある。

加熱調理や電子レンジ、野菜のビタミンや抗酸化物質が損失

はたして今の野菜・果物で十分なビタミンや抗酸化物質が補給できるのか、活性酸素対策ができるのか、ということである。さらにいえば、栽培方法や土壌だけの問題ではない。調理の際、塩素入りの水道水でビタミンは損失し、加熱で野菜や果物の酵素は失われる。電子レンジの調理でもほとんどが破壊される。

ブロッコリーやキャベツといったアブラナ科野菜は、米国でも「がん予防が期待される成分」が多く含まれるとして注目されているが、スペインで行われた研究で、ブロッコリーを電子レンジにかけると抗酸化物質のフラボノイドが97%失われることがわかったという(Journal of the Science of Food and Agriculture'03/11月号)。ブロッコリー以外の野菜についてもこうした抗酸化物質の損失が同様に推測されている。

電子レンジだけではなく、通常の調理過程でも、フラボノイドが60%ほど破壊されることが明らかになっている。また、ビタミンや抗酸化物質は熱に弱く、湯がくことで20〜30%が失われる。抗酸化ビタミンの代表格であるビタミンCは30%ほど失われるといわれる。

1日に野菜350gの摂食とはいえ、栽培から調理の過程でビタミンや抗酸化物質のほとんどが消失している。活性酸素対策に十分なビタミンや抗酸化物質が摂れているとはいえないのが実情だ。

 【Health Net Media/ヘルスネットメディア】関連記事
毎日野菜5皿分(350g)と果物200gを〜「野菜フォーラム2003」

抗酸化ビタミン、非喫煙者に有用も喫煙者には有害

となると、やはり栄養補助食品に頼らざるを得ない。しかし、ここである問題が浮上する。抗酸化ビタミンは非喫煙者には有用であるが、喫煙者には有害であることが報告されている。

抗酸化ビタミンとして知られるベータカロチンが肺がんを促進する恐れがあると報じられたことがある(ただし、試験で用いたのは合成品のベータカロチン、非喫煙者ではなく喫煙者を対象)。

ベータカロチンについては、緑黄色野菜に含まれるカロチノイド色素ががん予防に有用との仮説検証から、中国、フィンランド、米国で、三大栄養介入試験といわれる長期試験が行われた。このうち、フィンランドがNational Public Health Instituteと共同で行った50歳から69歳までの男性喫煙者2万9千133人を対象にした栄養介入試験(ATBC研究)では、対象となる被験者が1日に平均20本のタバコを36年間吸っていた。

試験では、無作為に、1)合成ビタミンE50IU、2)合成ベータカロチン20mg、3)ビタミンEとベータカロチン併用、4)偽薬、のグループに分け、試験を行った。その結果、876人が肺がんを発病、564人が死亡したが、そのうち、ビタミンEグループの発病者は2%と低く、ベータカロチングループは16%と高い結果が出た。ただし、毎日の喫煙量が20本以下でアルコールを摂取しない被験者の場合、ベータカロチン投与における評価はできなかったといわれている。

また、1996年発表の米国Beta-Carotene and Retinol Efficacy Trial(CARET)研究では、喫煙者あるいは以前タバコを吸っていた被験者および職場環境にアスベストがある労働者18,000人以上を対象に、半数に偽薬を、残り半数に合成ベータカロチン30mgとビタミンA(25000IU)を与えたところ、ビタミン投与グループは偽薬グループに比べ、肺がん罹患率が28%、死亡率が17%も高くなったという結果が出た。これにより、喫煙とベータカロチン(合成)との組み合わせは、逆に肺がんを促進しかねないとの結論から、試験は満了前で中止となった。

天然のベータカロチン、肺がんを促進する危険性はない

前述の大規模介入試験では、ベータカロチン(合成)のネガティブ報告が出たが、食材からの天然のベータカロチンについては、肺がんを促進する危険性はないことが、Cancer Epidemiology Biomarkers & Prevention(04/1月号)で報告されている。およそ399,765人を対象に、7〜16年間の調査で3,155件の肺がんが新たに診断されたが、分析の結果、天然の食材からのベータカロチン摂取は肺がんの危険性となんら関連性がないことが判ったという。

1996年発表の米国CARET研究での喫煙者と合成ベータカロチンと肺がん促進との関連については、「イタチによる実験で、合成ベータカロチンを多量投与したところ、特に煙草の影響を受けたグループとアスベスト環境にいたグループで、肺がんの危険性が増大した」と、Journal of the National Cancer Institute(99/1月号)が報じている。

また、Nature(99年/4月号)では、「煙草の煙に含まれる発がん性物質との相互作用を行う酵素の生成を合成ベータカロチンが高めている」と報じている。イタリアの研究者およびテキサスの研究グループが合成ベータカロチンを豊富に含んだ餌をラットに与えたところ、肺にある種のがんを誘発させる酵素が増大したという。

喫煙プラス抗酸化ビタミン、疾患リスク高まる

非喫煙者がベータカロチンをはじめとした抗酸化ビタミンを摂ることはなんら問題はない。むしろ活性酸素対策を考えると、現代人はベータカロチン、ビタミンA、C、Eといった抗酸化ビタミンを積極的に摂取する必要がある。問題は、喫煙者が抗酸化ビタミンを摂る場合である。前述のベータカロチンと喫煙者を対象にした試験のように 抗酸化ビタミンに喫煙という「条件」が絡むと、がん死亡率が高まる。抗酸化ビタミンが「有害ビタミン」に変貌する可能性がある。

American Journal of Epidemiology(00/7月号)では、喫煙者と抗酸化ビタミンとの相性が良くないといった内容を報じている。アトランタ連邦防疫センター(CDC)の研究グループが、抗酸化ビタミンといわれるA、C、Eと総合ビタミン剤を組み合わせて摂取すると心疾患、卒中による死亡率は減少するが、喫煙者(男性)の場合、がんによる死亡率が高まる、と報告している。

この研究は、30歳以上の100万人以上の被験者を対象にした7年間にわたるビタミン摂取の調査結果によるもので、総合ビタミン剤と抗酸化ビタミンのA、またはCかEの1種類を組み合せて摂取した被験者の心疾患、卒中による死亡率はビタミン剤を全く摂取しない人に比べ15%低いことが認められたが、喫煙者の場合、総合ビタミン剤または抗酸化ビタミンを摂取した男性は、タバコを吸わない男性よりもがんによる死亡率が高いことが判明したという。さらに、男性の喫煙者がビタミン剤を摂取した場合、ビタミン剤を摂取しない場合と比べ、前立腺がんによる死亡率が高いことも認められたという。

まず、「禁煙」を前提に、「1日350gの野菜+ビタミン・抗酸化物質の摂取」、そして「適度な運動」が、現代人の健康寿命を延ばす適切な健康法といえそうだ。


【 Health Net Media/ヘルスネットメディア 】関連記事
アンチエイジングにダイエット、がんリスク低下まで野菜の多彩な効用('10 8/31)
アンチエイジング、「低カロリー食」と「酸化ストレス」がカギ('09 12/10)
米国で最も信頼される健康栄養学、「ナチュラル・ハイジーン」('08 4/12)
キャベツなどの緑葉色野菜、肺がん予防に有用性('08 3/20)
果物の摂食、循環器病のリスクを低下(07/10)
毎日野菜5皿分(350g)と果物200gを「野菜フォーラム2003」(03/12)
野菜はがんをどこまで予防できるか「野菜フォーラム2001」(01/11)
日本の若年層に忍び寄る糖尿病、動脈硬化〜米国との「食」内容の比較で判ったこと〜(00/1)
大腸がん増加、野菜・果物(食物繊維)摂食の減少以外にも原因(06/10)
食物繊維、結腸がん予防に有用性報告(06/3)

ヘルスネットメディア
.

Copyright(C)GRAPHIC ARTS CO.,LTD. All rights reserved.