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放射能問題、はたしてTV・マスコミは真実を伝えたか
NHK『追跡!真相ファイル 低線量被曝 揺らぐ国際基準』に猛抗議

今、世間ではマインドコントロールという言葉が流行っているが、洗脳メディアの最たるものといえばTVであろう。多くの国民はそれが公正な報道媒体と思っている。しかし、こと放射能問題に関しては偏向報道が続いているようだ。NHKの放射能報道番組に疑惑、捏造といった声が挙がっている。意図的に捏造されたものか、それとも制作サイドが単に無知なだけなのか。いずれにしてもこうした情報操作で国民はマインドコントロールされていく。

NHKの『追跡!真相ファイル』、間違った字幕(翻訳)にBPO提訴も

2011年12月28日、NHKが『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』と題した番組を放映した。『週刊ポスト』(12.3.9号)がこれを、“NKK特番は「疑惑のデパート」”と槍玉に挙げている。
同誌によると、ICRP委員の丹羽太貫・京大名誉教授が、「取材に答えた委員や元委員の発言を意図的に編集し、間違った字幕(翻訳)をつけて流したことを我々は問題視しています。NHK側には、訂正報道を求めて二度目の会合をもちますが、ご理解いただけないのならBPO(放送倫理・番組向上機構)に提訴するしか手だてはない」と、すでにBPO提訴の準備を始めているという。
今年1月には、原子力の専門家112人がこの番組の内容が正しければ、世界に約440基ある原発周辺地域でもがんや脳腫瘍が増加しているはずだ、と抗議文を提出しているという。

後述するが、記事中でクリス・バズビーについても触れている。バズビーは欧州放射線リスク委員会(ECRR)のメンバーで、昨夏来日した際に福島で講演し、「福島原発200キロ圏内で今後50年間で40万人がガンになる」と述べている。ECRRは緑の党の傘下にある反核団体だが、同誌は「バズビー氏は放射能軽減サプリと称し、1パック5800円と高額なカルシウム・マグネシウム混合サプリを販売。内容から見て、市販品なら1000円で同等のものが買える程度のシロモノだ。そのことをすっぱ抜かれると、それ以降、全くメディアに姿を見せなくなった」と叩いている。
また、『週刊新潮』(12.3.8号)では、「低線量被曝と内部被曝の正しい知識」と題した座談会を掲載しているが、同誌でも『追跡!〜』を「NHKの捏造番組」と辛らつに批判している。

DDREF(線量・線量率効果係数)を低線量放射線被曝量と誤って解釈

『追跡!〜』で、とくに問題視されているのがICRPの元委員が話しているDDREF(線量・線量率効果係数)。100mSv以下のような低線量の場合は、広島・長崎のような高線量と比べて生体への影響が小さいため2〜10のDDREFで割り出す。現在のICRPの基準値は、2という係数で低線量被曝リスクが最も高く見積もられている。
ところが、NHKはDDREFを低線量放射線被曝量と取り違え、「ICRPが低線量被曝を過小評価していたため倍に見直そうとしている」というナレーションを流し、さらに原子力開発への配慮でリスクが低く見積もられてきたとまで付け加えた。このNHKの誤った解釈に、先述の丹羽氏や原子力の専門家らが猛反発したというわけである。

こうしたミスリードはNHKばかりではない。煽り派といわれる週刊誌でも粗い報道が問題になっている。『週刊文春』(12.3.1号)では「郡山4歳児と7歳児に甲状腺がんの疑い」と題した記事を掲載しているが、「深刻な異常が見つかった」という大見出しにも関わらず、記事中は「良性」とあり、極めて紛らわしい内容で、取材を受けた札幌別通内科の杉澤憲医師も記事が「誤報」であるとの会見を行った。これに対し、文春側はそれに対する否定会見を開くなど取材の迷走ぶりを露呈している。

NHKも文春も、無理に仕立てた話で放射能恐怖を煽ろうとしたのだろうか。そんな疑念さえ抱かせる大騒動である。

反原発の多数派に迎合した「低レベル」な番組

NHK『追跡!〜』は一体どのような内容であったのか。
番組では、スウェーデンのマーティン・トンデル博士の統計を引き合に出し、低線量でもガンリスクが高まるとし、スウェーデン北部・ベステルボッテンケンにサーメの村に住む人々がチェルノブイリ原発事故以降、この25年でガンが34%増えたというナレーションを流している。

また番組後半では、ICRPの元委員らが登場し、低線量被曝による健康影響はよくわからない、そのため原子力開発サイドの都合のいいようにリスクが半分にとどめられた、などとコメントしている。視聴料の徴収のためなのか、反原発の多数派に迎合したような不公正な構成で、しかもDDREFを逆に取り違えるなど原子力関係者が抗議文を突きつけるのも無理はない。

DDREFの解釈の誤りだけではない。番組全般に多くの問題点がある。
まずトンデル博士の統計は低線量被曝による影響を調べたものだが、これが放射性物質とは関係のない交絡因子を重ねてガンリスクの数値を補正したいわくつきの統計であることはよく知られている。以前、『サンデー毎日』(2011.8.21)もこれを取り上げ、低線量の被曝でもガンリスクが高まると煽っている。まさに情報汚染ともいえる欺瞞の連鎖が延々と続いている。

トンデル博士の統計とは次のようなものだ。
チェルノブイリ事故が発生した1986年4月26日、スウェーデンでは28日から29日にかけて、チェルノブイリから放出されたセシウム137 の5%が降下した。とくにチェルノブイリから約1000キロ離れたスウェーデン北部では事故後の降雨で1平方メートルあたり3万7千ベクレル以上のセシウム137が蓄積したという。これによる住民の被曝量は、最初の1年間で1-2mSv、最大で約4mSv と見積もられた。

トンデル博士はセシウム137の堆積地域を1平方メートルあたり3千ベクレル、3千-2.9万、3万-3.9万、4万-5.9万、6万-7.9万、8万-12万 の6地域に分け、住民114万人のうち、1988年〜1996年までの8年間に発生したガン患者2万2千409人を対象に、それぞれの地域での発ガンリスクや死亡率を割り出した。その結果、3千ベクレル以下を非汚染地域とし発ガンリスクを「1」とすると、6地域は、1、1.05、1.03、1.08、1.10、1.21とセシウム137の堆積度合いに比例して発ガンリスクが高まっていることが分かったという。

ところが、これを仔細に検証すると、実際には、3千と6万-7.9万の地域での発ガン率はほぼ同じで、比例関係にはなっていない。さらに、全死亡率については、4万-5.9万と8万-12万の地域で高いものの全体的には低下しており、むしろセシウム137の堆積量が少ない地域より、多い地域のほうが死亡率が低くなっている。つまり、実際には前述の数値のような比例関係になっていないのである。

これでは、直線仮説が成り立たないと案じたのか、トンデル博士は6万-7.9万の地域に対し、放射性物質とは関係ない発ガンの交絡因子を上乗せし、ガンリスクの数値を高めるという補正を行っている。

なぜ、そうした不自然な補正をしてまで、セシウム137によるガンリスクの上昇を印象付けなければならないのか。このトンデル博士の統計をベースに「今後福島県で、10年間に10万人がガンで死亡する」と主張していたのが、かの欧州放射線リスク委員会(ECRR)である。(参考:buveryの日記)

トンデル統計を真に受けるNHK、広がる情報汚染

番組のナレーションはトンデル博士のデータを示しながら低線量被曝の脅威を次のように語る。
「ガンになった人の被曝量を調べると事故後10年間の積算で10mSv以下であることが分かりました。ICRPがほとんど影響がないとしている低線量でもガンになる人が増えていたのです」

トンデル博士の統計を真に受けたナレーションで、正常な思考力を持ち合わせた人間が聞けば首をかしげたくなるような話である。 トンデル博士の指摘するスウェーデン人の被曝線量1〜4mSvは、世界中いたるところで多くの人々が浴びている線量である。イタリアやイギリスで2〜3mSv/年、アメリカは3〜4mSv/年。このナレーションに従えば、今世界中で増えているガンは、放射性物質が原因、ということになる。まさか、NHKの学術委員たちは、「この世に存在する発ガン要因は放射性物質のみ」とでも考えているのだろうか。とても斬新でユニークな解釈だが、本気でそう考えているとすると尋常ではない。

原発大国アメリカでは、年々ガンが減少傾向にある。放射性物質が減少しているためではない。徹底した禁煙運動や肉や乳製品を避け、野菜を多く摂るなど食事の改善が功を奏しているためである。

番組では、スウェーデン北部・ベステルボッテンケンのサーメの村に住む人々を引き合いに出し、サーメでは、当時の放射線レベルは年間およそ0.2mSv(ICRP基準1mSvの5分の1)程度の低いレベルだったが、チェルノブイリ原発事故以降(1〜4mSv)、この25年でガンが34%増えたという。 サーメの人々は古くからトナカイの肉をよく食べる。そうした「食」による発ガンのリスクファクター(危険因子)には触れず、放射性物質のみが発ガンの原因で、それ以外のリスク要因は存在しないかのような論調で番組は進行していく。

では、チェルノブイリ原発事故が起きた1986年(昭和61年)、日本はどうであったか。ちなみに日本は1985年に平均寿命で世界のトップに立つ。この頃、日本もトンデル博士の指摘するスウェーデン人の被曝線量1〜4mSvに該当する。日本でのガン発生率(図1)の推移をみると、この25年で人口10万人あたり160人から280人で75%の増加となっている。サーメの村の人々のガン発生率の倍以上の増加である。

ガンの内訳をみると、男性では肺ガンがほぼ2倍の伸び。これが全体のガン発生率を押し上げている。また男女とも大腸ガンが35%と増加している(図2)。

統計上のガン人口の増加の最大の要因は、高齢者の増加である。ガンのリスクファクターを挙げると主に喫煙と肉食による弊害である。サーメの村の住民についてもこうした交絡因子を挙げず、ただ チェルノブイリ事故以降ガンが34%増えたといっても、(どのようなガンが増えたかも不明で)何の説得力もない。サーメの村の人々の間で増えているのが肺ガンや大腸ガンであれば、タバコや肉や飲酒を止めればいいだけの話である。

もし村で高齢者が増えていれば、当然ガンの発生率も高まっているはずである。それともサーメの人々は昔からタバコを吸わず、肉も食べず、酒を一滴も飲まない、ストレスなど一切ない、そうした発ガン要因には全くさらされない、村には若者ばかりとでもいうのであろうか。同様のことはベラルーシについてもいえる。

安直な偏向報道で、日本人の愚民化・二極化が進む

TVが日本人を1億総白痴化させる、といったのは社会評論家の故・大宅壮一氏だが、まさか、反原発のマジョリティ(多数派)に迎合するような番組を作るために、スウェーデンまで行っているわけではあるまい。

問題は、こうした準国営放送の安直な偏向報道がYouTubeやツイッターで拡散し、福島の子供の鼻血騒動や白血病増加と同様に、放射能恐怖洗脳に用いられることである。こうした情報汚染で、日本人の愚民化、二極化が進んでいくのである。

また番組では、米国イリノイ州を取材し、放射性トリチウムで脳腫瘍を患ったとされる18歳の女性が登場する。近くの原発の排水が川に流れ、女性の家の庭の井戸水に放射性トリチウムが含まれ、女性は4年前にこの地に引っ越してから脳の障害が生じたという。

これに対し、政府は井戸水による被曝量は年間1μSvと微量で健康を脅かすことはないとしているが、問題は、トリチウムが原因として特定できないこと、因果関係の明確な根拠が見出せないことである。また、原発関連施設で働いていたという老女たちが登場し、ガンが発症したというケースを紹介しているが、年齢によるものか、他の交絡因子によるものか、これも因果関係が不明である。他の要因も併せて考える必要があり、視聴者をミスリードするような思わせぶりな報道は避けるべきである。

本来、NHKが視聴者のために追求しなければいけないことは、ICRPが1927年のマラーのDNA修復機能の無いハエの実験から打ち立てられた直線仮説を用い、科学的根拠のない基準値を勧告していること、この仮説で放射線防護の法律や教科書が作られ世界が動いているという事実である。

いまだ放射能恐怖伝説として語り継がれるイギリス・セラフィールドの白血病発症。これもTV番組で大々的に取り上げられ世界的に知られるようになったが、実際には、1950〜83年の33年間でセラフィールドでの白血病発症者はわずか7人。現在日本では白血病の発症者は年間7,000人以上といわれている。もちろん、その多くが原発周辺地域に住んでいるわけではない。
NHKの『追跡!〜』は意図的に捏造されたものか、それとも作り手が単に無知なだけなのか。いずれにしてもこうした情報操作で「放射能恐怖神話」が作られ、国民がマインドコントロールされていく。


ヘルスネットメディア


「週刊ポスト」(12.3.9号)
「週刊文春」(12.3.1号)
NHK「追跡!真相ファイル
低線量被ばく揺らぐ国際基準」

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