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炭水化物の長期摂取制限ダイエット、死亡率高める可能性
米国では10年前からアトキンス式ダイエットに警鐘

ご飯やパンなどの糖質(炭水化物)の摂取を制限するダイエットを5年以上続けると死亡率が高くなる--。こうした解析結果を能登洋医長(国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科)らの研究チームが発表した。アメリカでは、低炭水化物ダイエットはアトキンス式ダイエットと呼ばれ、10年ほど前からリスクが指摘されていた。

アトキンス式ダイエット:たんぱく質を多く摂り、炭水化物は控えめに

1月26日付けの朝日新聞によると、能登氏らが糖質制限食に関する492の医学論文中、ヒトの死亡率を調べた9論文を分析したところ、5〜26年の追跡期間中に、糖質を制限した食事で、約1万6千人が死亡していたという。対象にしたのは約27万人の病気のない地域住民や医療スタッフで、グループ分けでは、糖質摂取量の割合が最も少ないグループの死亡率は最も多いグループの1.31倍で統計上の明確な差が出たという。

糖質(炭水化物)を制限したダイエットのリスクはすでに米国で指摘されている。
「ステーキ、ベーコン、チーズ、バターといったたんぱく質を含む食品を多く食べ、果物や穀類のような炭水化物は極力控える」――。
それが2002年、米国で大ブレイクしたアトキンス式ダイエット、故アトキンス博士が長年にわたり提唱していた炭水化物の摂取制限ダイエットである。権威あるニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに、「炭水化物を減らし、良質のたんぱく質を十分に摂る食生活を送れば、副作用なくダイエットできる」という研究報告が掲載され、一気に認知度が高まった。

当時、低炭水化物(ローカーブ:Low-Carb)食品の愛用者は1500万から3000万人といわれた。また、ある調査によると、アメリカ人の3分の2が"ローカーブ"法を試していたという。

アトキンス式ダイエットが火をつけたこのローカーブの流行は、マクドナルドを始めとするファーストフード産業、ソフトドリンク、アルコールドリンク産業なども巻き込んだ。

コカ・コーラボトリングは、通常のコークに比べ炭水化物、カロリーが半分であるコークC2を販売。ビール業界もBud Light、Coors Light、Michelobなどがローカーブに参入。その他、ノンカーブ、ノンシュガーのチョコレートなど、ローカーブ製品を投入しないことには生き残れないほどの勢いとなっていた。

米国で、久々に巻き起こったローカーブというダイエット旋風。低炭水化物食品だけを扱う専門店も軒並みオープンした。低炭水化物のベーグル、キャンディー、クラッカー、サラダドレッシング、シリアル、ビールなどの専門店は、全米で約200店にもおよんだ。

サプリメント業界にも"ローカーブ"の波

また、サプリメント業界も例外でなく、ローカーブの波をかぶっていた。アトキンス式ダイエットのコンセプトは、簡単に言うと「人間のエネルギー源は、炭水化物からのグルコースと脂肪。この1つを削除すれば、もう1つのエネルギーの燃焼効率が良くなり、無駄なエネルギーが無くなる。そのため、炭水化物摂取を抑え、たんぱく質、脂肪からエネルギーを得る」というもの。

サプリメント業界は、高プロテインや脂肪中心の食事で他の栄養素が欠乏気味になる傾向に着目した。特に、ローカーブ・ダイエットでは、パンやパスタなど穀類に含まれるビタミンB群、果物・野菜の糖質を抑えることからビタミンC、ベータカロチンなど抗酸化ビタミンが不足すると考えた。この狙いは的中し、ローカーブ・ダイエッターに特化したビタミン剤は好調な売上げを示した。

肉好きのアメリカ人に大受け

代替療法を専門とする医師として米国の代表的存在だったアトキンス博士が長年にわたり提唱してきた、「たんぱく質を多く摂り、果物や穀類といった炭水化物の類いは極力控える」というダイエット法。アトキンス式ダイエットと呼ばれたこのダイエット法は、「パン、パスタ、ライス、砂糖、ケーキや果物を食べず、代わりに、牛肉、豚肉、チキン、魚、ベーコン、バターなど良質のたんぱく質を含んだ食品をどんどん食べよう」という異色なものだったが、肉好きのアメリカ人には大受けした。

アメリカ人の度肝を抜いたこのダイエット法の教祖的指導者、ロバート・アトキンス博士の著書「Dr. Atkins' New Diet Revolution」の売り上げは上位にランクインした。アトキンス博士は72歳で人生の幕を閉じたが、死因は転倒した際の頭部打撲で「ダイエットとは一切関係ない」といわれている。

体脂肪を燃やし筋肉の増強に役立つたんぱく質

アトキンス博士がとくに問題視していたのが炭水化物。炭水化物は糖に分解されて血液中に入り、血糖になる。すると、血糖を下げるためすい臓からインスリンが分泌される。血糖が急激に上昇すると大量のインスリンが分泌され、過剰状態が続くと行き場のなくなった糖質は脂肪細胞に蓄積されやすくなる。 こうして体脂肪が増えていく。

そのため、博士はインスリンの分泌をできる限り抑えるため炭水化物を控え、代わりに、満腹中枢を充足し食欲を抑え、体脂肪を燃やし筋肉の増強にも役立つたんぱく質をたくさん摂るべきだと提唱した。

アトキンス理論、体脂肪減少で効果が立証

確かに、こうしたアトキンス理論は臨床実験でも効果が立証されている。ノースキャロライナ州のデューク大学で120人の肥満男女を対象に、アトキンス式ダイエットと連邦政府が推薦する米国心臓協会(AHA)の高炭水化物・低たんぱくしつダイエット「ステップ・ワン」を比較した。

その結果、アトキンス式グループの方が6カ月後の体重減少率が高かったうえ、善玉コレステロール値の増加率も高く、悪玉コレステロール値の低下率も高かった。ちなみにアトキンス式グループは平均31ポンド体重が減ったのに対し、ステップ・ワン組は20ポンドだった。

また、シンシナティ大学の研究もポジティブな結果を伝えている。こちらは肥満女性53人を対象に6カ月にわたりアトキンス式と低脂肪・低カロリーの典型的ダイエットを比較。その結果、アトキンス式グループは平均18・7ポンド体重が減ったのに対し、典型的ダイエットは8・6ポンドだった。体脂肪の減少でも、10・5ポンドと4・4ポンドとアトキンス式に軍配が上がった。ただし、血圧とコレステロール値に関しては差がなかった。

短期効果はあるが、長期効果となると疑問

ところで、前出のデューク大学の研究報告は、シカゴで行われたAHAの学術集会で発表されたものだが、その翌日、AHAは、「症例が少なく、追跡期間も短いため、長期的な効果はわからない。AHAがアトキンス式ダイエットを心臓病予防として推奨したわけではない」と緊急声明を出している。

実は、米国でアトキンス式ダイエットに疑問符を投げかけていた専門家たちもまさに、その点を指摘していた。アトキンス式ダイエットは確かに短期間の効果を裏付ける研究報告はあるが、長期的となるとほぼ皆無であった。

そのため、懐疑派は「長年にわたって脂肪分の高い肉やベーコンを食べ続ければ、当然、心臓疾患、糖尿病、脳卒中、ある種の癌に罹るリスクが高くなる」とアトキンス式ダイエットによる各種疾患への罹患リスクを懸念していた。

アトキンス式ダイエットの欠陥は腎臓にかかる負担

また、短期間で体重を急激に落とせるのは、炭水化物を排出しようと利尿効果が高まり、体内から水分が放出されるためで、その分、腎臓にかかる負担が大きくなる。アトキンス式ダイエットの際に十分な水の補給が必要なのはこのためだ。

メンズフィットネス誌3月号では、アトキンス式ダイエットの「高プロテインダイエットは腎臓に悪いのか」という読者の質問に、「健康のため1日にコップ8杯の水」のところを、アトキンス式はプラス32杯、加えて定期的にエクソサイズしていたとしたら、さらに32杯飲んでいれば、腎臓へのダメージはない」と答えている。つまり、もともと腎臓になんらかの問題がある人は、高プロテインダイエットは避けたほうが賢明ということだ。

また、アトキンス式ダイエットで便秘がちになった、口臭がきつくなった、リバウンドが起こりやすいといったネガティブな報告も目立っていた。 「低炭水化物・高たんぱく質ダイエット」には当初からこうしたさまざまな疑問が投げかけられていた。

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