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米国における「健康食品」機能性表示の変遷(2)

健康食品の機能性表示についての検討が進められているが、これについては米国のダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)の表示を参考にするという。米国では1994年に栄養補助食品健康教育法(DSHEA:DietarySupplement Health and Education Act)が成立し、サプリメント表示の緩和から市場は毎年2桁台の伸びを示す。まさに我が世の春を謳歌していた栄養補助食品業界だが、その伸張も5年ほどで頭打ちとなる。一体、その原因は何だったのか。おそらく日本も同様の道を辿るであろう、市場拡大の前にたちはだかる壁とは。

米国サプリメント業界震撼、売上げ1ハーブサプリメントの凋落

1994年にDSHEAが成立、栄養補助食品の表示規制緩和で米国サプリメント業界は好景気に湧いた。 そこに時代の寵児ともいえるような、ハーブサプリメントが登場した。
1997年、そのサプリメントの売上げは前年対比20.000%(推定売上約83,5百万ドル)という驚異的なものだった。翌1998年も、前年対比61.4%(推定売上約135,2百万ドル)と伸張は続いた。

当時、米国での鬱病人口の増加を背景に、爆発的な人気を博したその抗鬱ハーブは、国民的ハーブともてはやされた。しかし、2000年、医薬品との併用による相互作用、いわゆる薬剤阻害作用が大々的に報じられ、マーケットは停滞した。

そのサプリメントの凋落とともに、米国サプリメント業界も冷え込みをみせ始めた。DSHEAの恩恵を受け、一気に急拡大したサプリメント市場。そして活況から低迷へ。そのサプリメントの浮沈はまさに米国サプリメント業界の推移を象徴するものだった。

そのサプリメントの名は、セント・ジョンズ・ワート(和名:西洋オトギリ草)。
2000年2月、有名医学誌『Lancet』が、セント・ジョンズ・ワートを医薬品と併用した際、薬物阻害作用があると報じた。日本でも5月、当時の厚生省が、セント・ジョンズ・ワートの使用で、薬物代謝酵素が誘導され、抗HIV薬、強心薬、免疫抑制薬、気管支拡張薬、血液凝固防止薬、経口避妊薬などの効果が減少すると警告を発した。

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セント・ジョンズ・ワート、ドイツの抗欝剤市場の50%を占める

当時のセント・ジョンズ・ワートに対する報道は薬物阻害作用ばかりか有用性までも疑問視するようなものだった。が、本当にセント・ジョンズ・ワートの抗鬱効果は疑わしいものだったのか。
セント・ジョンズ・ワートは2400年前から使用され、「薬の父」ヒポクラテスもこれを多く処方していたといわれる。セント・ジョンズ・ワートのラテン名はHypericum perforatum。Hyperは「超越」、icum=eikonは「不可解なもの」、perforatumは穿孔の意。英語名のセント・ジョンズは洗礼者ヨハネ(ジョン)を指す。ワート(=Wort)とは「植物」の意。和名はオトギリソウ(弟切草)。

米国で、セント・ジョンズ・ワートの使用実績は多くはないが、欧州ではセント・ジョンズ・ワートの研究は早くから行われ、英国、スイス、チェコ、ポーランド、ルーマニア、旧ソ連などでは、政府承認の薬局方で扱われていた。

とりわけ、ドイツでは1980年代半ばからセント・ジョンズ・ワートの研究が盛んに行われ、副作用が少ないことから、医師の処方する抗欝剤では最多で、ドイツ抗欝剤市場の50%を占めるまでになっていた。

サプリメント利用者急増で、浮上してきた医薬品との相互作用

1994年のDSHEA成立後、サプリメント表示や販売の規制緩和で米国栄養補助食品市場は急伸していくが、セント・ジョンズ・ワートは天然の抗鬱剤として絶大な人気を誇り、マーケットを牽引する商材となっていた。サプリメント市場は、セント・ジョンズ・ワートを筆頭に、エキナセア、イチョウ葉、朝鮮人参、ニンニクといった売れ筋サプリメントで拡大の一途にあった。

サプリメントの利用者は増える一方だった。そうした最中、医療界から横槍が入った。サプリメント利用者の大半が並行して医療にかかっている。となると、薬剤との相互作用が問題となる。それを彼らが指摘し始めた。

そこはまだ手つかずのブラックボックスであった。サプリメント市場の急拡大を横目でみていた医師会。健全な医療推進のためか、それともサプリメント叩きのためか、薬剤との相互作用の本格的な検証を迫った。

そこでまっ先に俎上に乗せられたのが、圧倒的な人気を誇っていた、セント・ジョンズ・ワートだった。その相互作用の検証途上で、確かに、ある種の薬剤との相互作用が認められた。例えば、ニューヨーク州立大学の研究グループが、健康体被験者10人にがん治療剤Gleevecを投与し、2週間後にセント・ジョン・ズワートを与え、被験者の血液サンプルを調べたところ、Gleevecの濃度が3分の1に低下していたことが分かった(Pharmacotherapy誌)。

また、健康体被験者93人に心臓病治療剤digoxinを21日間与えた研究では、セント・ジョンズ・ワート投与グループの血中digoxin濃度がかなり低下することが分かった(Clinical Pharmacology and Therapeutics誌)。さらに先に挙げたような、抗HIV薬、強心薬、免疫抑制薬、気管支拡張薬、血液凝固防止薬、経口避妊薬といった薬剤との相互作用が次々に明らかになっていった。

報道ではそうしたセント・ジョンズ・ワートと薬剤との相互作用ばかりを強調した。結果、米国で人気1ハーブの信頼性は著しく毀損されてしまった。

ガーリックにジンジャー、売れ筋ハーブの薬剤阻害作用が次々に指摘

相互作用の検証はセント・ジョンズ・ワートだけにとどまらなかった。ガーリックやイチョウ葉、コンドロイチンといった売れ筋のサプリメントにも及んだ。ガーリックについては、メリーランドの研究グループが、HIV感染患者10人のプロテーゼ阻害剤であるsaquinavirの血中濃度を調べた。被験者にプロテーゼ阻害剤を39日与え、その間、1日2回ガーリックタブレットを与えたところ、ガーリックを与えている間、血中のsaquinavir濃度が50%に落ちたという(Clinical Infections Diseases誌)。

また、ジンジャー(生姜)はトロンボキサン合成酵素を阻害、クランベリーはワルファリン(血液凝固防止薬)分解に使われる酵素であるP450の働きを阻害、ガーリックやイチョウ葉、朝鮮人参は手術前に飲むと、深刻な出血を起こす危険性がある、など売れ筋サプリメントと薬剤との相互作用が次々に指摘された。

薬剤との相互作用、94%は重篤なものではない

もちろん、サプリメント業界もこうした薬剤との相互作用ばかりを挙げ、あたかもサプリメントの有効性に疑問符を投げかけるかのようなマスコミの印象操作を見過ごすわけにはいかなかった。

その相互作用がどの程度のものか、はたして重篤なものか、その度合いの検証に乗り出した。結果、ピッツバーグ大学の研究グループが、米国で市販されているサプリメントと処方箋薬との相互作用の発生状況と重篤度を調べた研究では、コンドロイチン、補酵素Q10、エキナセア、ガーリック、イチョウ葉、朝鮮人参、グルコサミン、ノコギリヤシ、セント・ジョ ンズ・ワート、ビタミンなどを対象としたが、相互作用の94%は重篤なものではないことが分かった(Archives of Internal Medicine誌2004.4)。

セント・ジョンズ・ワート報道の背景にあったもの

話をセント・ジョンズ・ワートに戻そう。
薬剤との相互作用ばかりが強調され、マーケットの縮小を余儀なくされたが、実際の効果についてはどうだったのか。

抗鬱効果については、軽度から中度の鬱症状において、ハーブの世界的な評価委員会として知られるドイツのコミッションEがセント・ジョンズ・ワートの有効性を認めている。実際にドイツでのセント・ジョンズ・ワートの市場規模そのものがそれを証明している。

ドイツGiessen大学の3250人を対象とした、LI160(セント・ジョンズ・ワートのアルコール抽出エキス)を使用した研究では、被験者の80%に抗鬱、精神安定、鎮静が見られ、軽い副作用が起きた被験者は2.4%のみであった。ドイツBonn大学の研究では、季節の影響による鬱病にも効果が見られた(ドイツPsychiatry Neurol誌)。

また、軽度から中度の鬱病患者1757人を対象に、LI160を用いた23の比較調査による大掛かりな分析では、LI160は偽薬と比べ非常に優れた効果が認められ、一般抗鬱剤との比較においても同様の効果が認められた。副作用を訴えた患者の率は一般抗鬱剤52.8%に対し、LI160は18.3%であった(British Medical Journal誌)。
また、一般の抗鬱剤に見られる副作用、性的不能、頭痛、アルコール反応の悪化等がセント・ジョンズ・ワートではほとんどみられなかったという。

セント・ジョンズ・ワートには、こうした軽度から中度の鬱病への有用性報告が多く出ている。ところが、そうしたことはあまり報道されず、重度の鬱病患者には効き目がないことや薬剤阻害ばかりが過度に強調された。

そうしたメディア報道の背景には、検証研究で一部資金援助を行っていたのが鬱病の治療剤「Zoloft」を製造している大手製薬会社Pfizerであったため、という指摘が一部でなされている。

当時、セント・ジョンズ・ワートと「Zoloft」による治療費を比較した場合、20倍もの開きがあり、安上がりのセント・ジョンズ・ワートの人気のあおりを受け「Zoloft」の売上げが低迷していたともいわれている。

「健康食品」機能性表示で鮮明化、VS医薬品という構図

セント・ジョンズ・ワートを例に、米国でのサプリメント表示緩和後の米国サプリメント市況を紹介したが、日本もこれと同様の道を辿ることが予測される。サプリメントの機能性表示により利用者が増加、市場は活況も、その後に待ち受ける医療界からの代替医療への締め付け、VS医薬品という構図、これがはっきりと姿を現すことであろう。極端な例では、ホメオパシーのネガティブキャーペーンが記憶に新しい。

2013年12月15日(日)、東京海洋大学で、「高齢者のいきいき生活のために」をテーマに、市民公開講座(主催:一般社団法人日本臨床栄養協会)が開催され、独立行政法人国立健康・栄養研究所 情報センター長の梅垣 敬三氏が健康食品の正しい利用法について講演した。

この中で、梅垣氏は、「優れた健康食品や機能性食品もある。科学的根拠が出そろっている製品もあるが、消費者が安全で効果的に利用できる環境はまだ整備されていない」とし、健康食品の過剰摂取や医薬品との相互作用の問題を挙げた。

とくに相互作用については、多くの高齢者が何らかの医薬品を日常的に摂取しているが、医薬品と健康食品の相互作用、つまり医薬品が効かなくなってしまったり、効き過ぎてしまうことについては、ほとんどわかっていない。医薬品と違い健康食品は複数の成分から複雑に製造されていて、しかもそれがメーカーごとに異なるため、相互作用について研究することは非常に難しい、とした。

日本で2015年3月に健康食品の新表示制度が導入される。はたして、「健康食品」の機能性表示で、日本の健食市場はかつて米国が経験したような好景気に湧くのか、それとも医療界からの締め付けで減速へと向かうのか、確実にいえることは米国サプリメント業界が直面した、VS医薬品という壁に日本の健食業界も必ず直面するであろうということである。

はたして、セント・ジョンズ・ワートのように、医薬品との相互作用を盾に、医療界からの健康食品叩きが熾烈化するかどうか。
医療界にとって、相互作用の指摘はサプリメント叩きの伝家の宝刀のようなものだ。しかし、この宝刀、すでに米国において多くの売れ筋サプリメントの検証でかなり切れ味が悪くなっている。もはやサプリメント叩きの最終手段にはなり得ないであろう。大手マスコミを抱き込んだ意図的なネガティブキャンペーンもしかり。消費者の欲する情報はネットにあふれている。

機能性表示で、健康食品が限りなく医療という領域に踏み込んだ時、より鮮明化するであろう、「健康食品VS医薬品」という構図、消費者はいよいよ二者択一を迫られることになる。


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