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LNT仮説の欺瞞、放射線の科学的認識の誤りを指摘
放射能恐怖を煽った学者らの妄想ははたして現実となったのか

2015年3月24日、衆議院第一議員会館で、SAMRAI2014「第一回放射線の正しい知識を普及する研究会」(主催:放射線の正しい知識を普及する会・放射線議員連盟)が開催された。当日は、科学者技術者、国会議員、官僚、一般など240人が参加、5人の科学者による放射線の最新の研究報告やこれまでの誤った放射線への認識をいかに正していくべきかなど熱い討論が交わされた。

3.11以降、妄想科学をまき散らしてきた大マスコミ

2011年3月の東日本大震災による放射能禍から丸4年が経つ。内部被曝で子供達がバタバタ倒れる、2015年3月には日本人は日本に住めなくなる。TV、週刊誌でそう放言し、恐怖を煽った学者やジャーナリストがいた。しかし、現実ははたして彼らの妄想通リになっただろうか。

当時から、大マスコミは、そうしたオカルト科学は取り上げても、正当な科学的知見は異端視するかのような扱いをしていた。今回も、産経以外、朝日をはじめとした大マスコミは取材に来ていなかったという。相変わらず、読者受けのする放射能幻想で記事を創り、都合の悪いエビデンス(科学的根拠)は全て”隠ぺい”ということなのか。

冒頭、「放射線の影響を科学的に検証する議員連盟」の代表で衆議院議員の平沼赳夫氏が「日本はアレルギーを起こしてしまって、1ミリベクレル以上はもうだめだということになっている。そういう中で放射線というものの正しい知識を持ちコントロールしていくことが大切」と挨拶。

当日、登壇したのは、日本から放射線防護の第一人者である高田純氏(札幌医科大学教授)、服部禎男氏(元電力中央研究所理事)、中村仁信氏(大阪大学名誉教授)。

2013年、日本に「放射線の正しい知識を普及する会(SRI:Society for Radiation Information)」が発足し、同時期に、米国フィラデルフィアでも放射線関連科学者による組織、SARI:Society for Accurate Radiation Information)が設立されたが、このSARIの有力メンバーである、モハン・ドス博士(フォックス・チェイス癌センター准教授、医療物理士)、ウェイド・アリソン博士(元オックスフォード大学教授)らも当日参加、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告の基となっているLNT仮説の問題点を指摘した。

科学的に破綻したLNT仮説で福島の住民を退去

福島の住民の20km圏内の帰還の足枷となっているのが、LNT(Linear Non-Threshold)仮説である。これは、放射線は高線量であれ低線量であれ有害で、脱毛や白血球の減少、白内障などはしきい値(安全領域の線量)があるが、発がんや遺伝子的影響についてはしきい値はない、有害性は直線的に比例するものと仮定する、というもので、「しきい値なし直線仮説」とも呼ばれている。

このLNT仮説は、1927年にH.J.マラーが雄ショウジョウバエにX線を照射し、突然変異リスクを調べた実験に基づいているが、ここで用いたショウジョウバエの雄の精子は、DNA修復力を持たない細胞であったことが後に判明している。

また、1930 年に、C.P. Oliver もショウジョウバエの雄の精子を用いた実験を行っているが、この実験でも、精子のほとんどが成熟精子でDNA 修復能のない特殊な細胞であることが明らかになっている。

その後、H.J.マラーは、1946年に他の遺伝子学上の業績とともにノーベル生理学・医学賞を受賞、1959年には、国際放射線防護委員会(ICRP)がこのLNT仮説を採択している。

DNAの修復能の無いショウジョウバエと違い、DNAの修復能を有するヒトにLNT仮説を当てはめるというのも無謀な話だが、チェルノブイリの原発事故の際には、LNT仮説を妄信した数万人の妊娠が人工流産をしたといわれ、20世紀最大の科学的スキャンダル、と専門家らから糾弾されていた。

放射線の有害性、放射線ホルミシスもあり非直線性

ICRPでは放射線の安全基準値を平常時1mSv年未満としているが、当時の菅政権は、原発事故の収束後1〜20mSv/年、事故後の緊急時20〜100mSv/年のICRPの勧告に則り、避難区域内・外を20mSv/年で区切り、住民に退去・避難を促した。

LNT仮説に基づき、放射線の累積が20mSvを超える地域が「計画的避難区域」と定められ、現在も20km圏内への帰還はできない状況にある。高田氏によると、震災4年目で、20km圏内の多くが10mSv以下で、1mSv以下の地区もある。セシウム137と134が半分づつ放出されたが、134は物理的半減期が2年のため、両方の合計線量は3年で半分になると考えられる。そのため、社会インフラの早急の復旧と帰還の加速が現政権の責務であるという。

こうした非科学的なLNT仮説に基づく施策でもたらされる損失は計り知れない。LNT仮説については、「これに反する証拠と放射線ホルミシスに対する証拠が蓄積されている」(モハン・ドス氏)。最近のデータでも、とくに0.3-0.7Gy(30-700mSV)における線量範囲でがんの死亡率は予想よりも低くなるという非直線性が示されており、もはやLNT仮説は当てはまらないことが判っている。

LNT仮説は、原子爆弾の高線量放射線の有害性のデータを低線量領域にも外挿したものだが、実際のところ「1.5Gy(1.5Sv)の瞬時の全身線量でがんリスクを増加させたが、同じ線量でも5週間にわたり、10回分割照射するとがんを治癒させる効果が得られている」(同)という。

この原爆投下による被曝について、ウェイド・アリソン博士も、広島及び長崎の被曝はガンマ線と中性子の瞬間線量で、死者の約99%が爆風と火災によるものだった。平均線量は160mSvだったが、50年間のフォローアップで、100〜200mSvを下回る線量でがんが増加した証拠はないという。

また中村氏も、原爆での瞬時被曝を含めても、100mSv以下で過剰な発がんは認められていない。これはICRPをはじめとする防護関係機関、学会等でも一致しているとした。

この他に、10mGy(Sv)程度を月に数回、3〜5年間、乳腺に受け、700mGy(Sv)を超えた思春期女性に乳がんが増え、頻度は線量に依存している。しかしどの線量においても中高年女性では乳がんは増えておらず、むしろ減っていると中村氏。

長期の被曝では、インドのケララ州や中国の広東省江陽県などは高自然放射線地域で、生涯実効線量は400〜600mSvになるが、過剰ながん死も遺伝的異常も認められていないという。

チェルノブイリの被曝の森、多くの動物にがんも奇形もない

チェルノブイリとの違いについて、チェルノブイリは、黒鉛炉の爆発により、4Sv以上の高線量で、30人が急性死亡した。福島は、軽水炉でゆっくりとした炉心溶解による建屋内での水素爆発であった。線量は1Sv未満、急性放射線障害は一人もいない、放射線による死亡事故も無かったと高田氏。

また、チェルノブイリの被曝の森は、現在も立ち入り禁止となっているが、ここでの動物の長期低線量率被曝を調べると、事故後、この森に棲み着いた野ネズミや多くの動物には、がんも奇形もないと中村氏。野ネズミの遺伝子を調べると突然変異の数はむしろ少ないという。

ただ、アフリカから飛んできたツバメにはがんが発生しているが、これは激しい運動と放射線の両方の影響と考えられる。一方で、この森(毎時10μSv)に45日間放置されたネズミが高い活性酸素処理能力を有したことが明らかになっているという。

現在、ICRPは通常時での年間被曝線量を1mSv、食品安全委員会は生涯累積線量を100mSvと打ち出すなど、さまざまな食品に放射性物質の規制がかけられている。

LNT仮説という、誤った科学的認識による放射線の過剰規制で、いまだ福島の復興もままならない。日本における放射線研究の先駆者である故・近藤宗平氏(大阪大学名誉教授)は英国放射線科医の生涯被曝線量と死亡率のデータなどから、年間30mSv、生涯累積線量600mSvを安全限度としている。この安全限度について、中村氏は一般人では500mSvを提唱したいという。

SAMRAI2014では、放射線に対する社会的混乱の終息のために、以下のことを日本政府へ提案したいとした。

  1. 福島県民の低線量率放射線の事実と住民に健康リスクがないことの科学理解を、国内外 へ普及するために、日本政府は最大限努力する。
  2. 全ての国民、そして特に福島県で強制避難している人たちに正しい放射線の情報と科学 が届くように、科学講習が受けられる環境を整えること。
  3. 政治的判断で強制された食品中の放射能の基準を、前原子力安全委員会の指標による基 準に戻すこと。
  4. 福島20km 圏内の放射線の線量の現実的な評価をするために、専門科学者および、ある いは放射線管理官が個人線量計を装着した形で、住民のように住宅に滞在したり暮ら すことが許可されるべきである。
  5. 福島第一原子力発電所20km 圏内のブラックボックス化した状況をあらため、浪江町で 継続する和牛の飼育試験の民間プロジェクト等の帰還へ前向きな取り組みを国として も認識し、支援すること。
  6. 福島第一原子力発電所20km 圏内の地震津波で破壊されたインフラの早期な復旧を実 現し、帰還希望者の受け皿を整えること。
  7. 日本の原子力施設は適切な改善がなされた後、可能なかぎり迅速に再稼働されるべき である。

【SAMRAI2014報告】
5人の科学報告と会議の結論と日本政府への提案
http://rpic.jp/topics/images/docs_00078_1.pdf
http://rpic.jp/topics/images/docs_00078_5.pdf


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