『チャイナ☆スタディ』
葬られた「第二のマクガバン報告」合本版
T・コリン・キャンベル / トーマス・M・キャンベル 著
松田麻美子訳 [ グスコー出版 定価:本体3,000円(税別)]



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2015年版「アメリカ人のための栄養ガイドライン」発表
全穀粒、果物の丸ごと摂食などホールフード食を推奨

2016年1月初旬、2015年版「アメリカ人のための栄養ガイドライン」が発表された。アメリカ人の理想的な「食」の有り方を示したもので、「食」による健康管理で、生活習慣病やさまざまな疾患を防ぎ、高騰する医療費の削減を図ることを目的としている。

政府の栄養政策から学校給食まで幅広く影響

ガイドラインは、さまざまな疾患や生活習慣病の元となる肥満や動脈硬化症などを防ぐための「食」の指針で、5年ごとに改訂され、米国保健社会福祉局より発表される。

医師や科学者などで構成された諮問委員会が、「食」に関わる最新研究をベースに作成にあたり、政府の栄養政策から食品表示、さらに学校給食まで幅広く影響を与えるものとなっている。

ガイドラインの概要については、野菜・果物、穀物、低・無脂肪の乳製品、脂肪の少ない肉などのたんぱく質を含んだ食物、植物ベースのオイルの摂取を推奨。また、飽和脂肪、トランス脂肪酸、砂糖、塩分の摂取を一定以下に制限している。

前回の2010年版では、1日の食事性コレステロールの摂取量を300mg以下と制限していたが、今回はこれが除外されている。

具体的に挙げると、以下のようなことだ。

1)緑黄色、赤色、オレンジ色の野菜やでんぷん質の野菜、マメ科植物などの野菜を摂る
2)果物を丸ごと摂る
3)穀物の摂取、半分は全穀物で摂る
4)低・無脂肪の牛乳、ヨーグルト、チーズ、豆乳を摂る
5)シーフード、低脂肪肉(赤身の肉)、鶏肉、卵、マメ科植物、大豆食品、木の実を摂る
6)カノラ、コーン、オリーブ、ピーナッツ、サフラワー、大豆、サンフラワーなどの植物性オイル、木の実や種、 シーフード、オリーブ、アボカドに自然に含まれる油を摂る

また、摂取制限については、以下のようになっている。

1)添加糖分は、1日の摂取カロリーの10%以下にする
2)飽和脂肪は、1日の摂取カロリーの10%以下にする
3)塩分は、1日2300ミリグラム以下にする

2005年版ガイドラインから、和食に傾倒

現在、アメリカ人の成人の約半数の1億1700万人が、高血圧や糖尿病などの慢性病に悩まされている。また、子どもの約3分の1、成人の約3分の2が太り過ぎか肥満といわれている。

こうしたことは、医療費の高騰に繋がることから、米政府は長年食事や運動による健康管理を呼びかけてきた。栄養ガイドラインでも「食」による具体的な方策が示されてきた。

米国の食事改善指針で大きく流れが変わったのが、2005年版栄養ガイドラインから。同ガイドラインはまさに米国版和食のすすめともいえる内容で、穀物や魚の積極的な摂食を薦めている。

また、ガイドラインで初めて全穀物の摂取を推奨。さらに、野菜・果物や植物繊維の摂取を増やすことを薦めている。 

具体的には、1日に2000カロリーの場合、果物2カップ、野菜2.5 カップ。全穀物は3オンス以上、穀類の総摂取量のうち、少なくとも半分は全穀物で摂るというもの。

コリン・キャンベル博士の「チャイナスタディ」で業界に激震

日本の和食は長寿食として世界的に評価が高い。2005年版ガイドラインでは、大幅に和食の素材を取り入れたが、まさにその年は、アメリカにおける栄養政策のエポックメイキングの年となった。

アメリカで「栄養学のアインシュタイン」と称される、コーネル大学栄養生化学部のT・コリン・キャンベル博士らが中国農村部の食習慣と疾患との関係を調査し、「The China Study(ザ・チャイナ・スタディ)」を公開、全米医学界・製薬業界・食品産業界に激震が走った。

この中で、キャンベル博士は、乳製品や動物性タンパク質の弊害、野菜や果物の摂取の重要性、「食」こそが疾患予防の決め手であることを強調している。

実は、キャンベル博士は、すでに80年代に食事や栄養とガンとの関係についての報告書を発表している。しかし、その内容は、医学・製薬業界、食品業界にとってあまりに不都合なものであった。そのため、当時の栄養政策に反映されることはなかった。

「食」による疾患予防の最終到達点

とはいえ、米政府が長い間、疾患予防の対策に汲々としていたのも事実である。
70年代、肉食を中心とした高脂肪・高カロリー食で、アメリカは糖尿病に代表される現代病の蔓延に悩まされていた。

1975年には、米国議会上院で、かつて大統領候補にもなったジョージ・マクガバン議員を委員長に「栄養問題特別委員会」を組織し、「食と健康」に関する世界的規模の調査に着手。2年後、この「マクガバンレポート」により、栄養政策の見直しを始めた。

当時アメリカで糖尿病患者は500万人に達していたが、このレポートで、「糖尿病は栄養のアンバランスによる代謝病」であると定義され、「食」の改善こそが、糖尿病克服のキメ手であるとされた。

この「マクガバンレポート」に続き、1982年に、キャンベル博士らも「食物・栄養とガン」レポートを発表した。しかしながら、医療業界や食肉業界から痛烈に指弾され、闇に葬られてしまう。

それから20余年の雌伏の時を経て、2005年、キャンベル博士が「The China Study」を公開、瞬く間に全米で大ベストセラーとなる。これによりアメリカ国民はあらためて「食」の改善の必要性を認識することとなった。

アメリカが長い間探し求めてきた、「食」による疾患予防の方策。その最終到達点が、「The China Study」であった。

2015年版「栄養ガイドライン」を超えた、真の栄養学

疾患予防を可能にする「食」の有り方を説くキャンベル博士に、医学・製薬のみならず食品業界からも痛烈な批判の刃が向けられるが、そうした経緯についても「The China Study」で明らかにされている。

この「The China Study」の翻訳本は、2009年12月に、グスコー出版より『葬られた「第二のマクガバン報告」』として、上・中・下の3部作で発刊されている。

中国における大規模疫学調査、肉や牛乳の動物性タンパク質がもたらすガン化、食事改善によりガンや糖尿病、骨粗しょう症から生還した症例、なぜ「チャイナスタディ」を医学・製薬業界が闇に葬ろうとしたのか、そうしたことが記されている。

先述の2015年版栄養ガイドラインはいまだ医薬・食品業界などの影響下にあることは否めない。が、「The China Study」で、キャンベル博士が示した「食」の有り方は、2015年版栄養ガイドラインを超えるものといえる。

真の栄養学は、キャンベル博士の著した「The China Study」にあるといっても過言ではない。

今年1月、「The China Study」の翻訳本『葬られた「第二のマクガバン報告」』(上・中・下)の合本版がグスコー出版より発刊されている。


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