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毎日野菜5皿分(350g)と果物200gを〜「野菜フォーラム」開催

12月1日、草月ホール(東京都港区)で「毎日野菜5皿分(350g)と果物200gを」をテーマに、「野菜フォーラム」が開催された。第一部では、「現代人の食物栄養学〜野菜」と題して、五明紀春氏(女子栄養大学教授)が講演。第二部では、中村丁次氏(神奈川県立保健福祉大学教授)、太田裕美さん(歌手)、松田美智子さん(料理研究家)らが参加し、パネルディスカッションが行われた。

1人当たりの野菜消費量、日米で逆転

平成7年頃を境に、日本人の1人当たりの野菜の消費量が米国のそれを下回るようになった。総務省「家計調査」によると、家庭における生鮮野菜の購入量は、この15年間で約5%減少しているという。
野菜の摂取量の減少は、とくに若年層の間で著しい。子供達が嫌いな食べ物の上位10品目のうち8品目は野菜が占めており、当然、1日の目標摂取量の350gにも達していない。とはいえ、調査によると7割の人々が野菜を十分に摂っていると認識しているという状況だ。

下図のグラフからもわかるように、もともと野菜の消費量では、日本が米国を上回っていた。1985年(昭和60年)に、日本は平均寿命で世界のトップに立つ。男性75.91歳、女性81.77歳、ここから日本の長寿神話が始まる。この頃はまだ、野菜の消費量で日本は米国に大きく差をつけていた。

しかし、その後、米国はマクガバンレポート(*注1)など下地にした栄養政策の転換から、野菜の摂取増を奨励し、'90年代に入った頃から野菜の消費量が急速に伸び、4-5年ほどの間に遂に日本を越してしまうという逆転現象がおきた。

そして、もう一つ、後述するが、近年これに付随するかのような、健康上問題となる、興味深い逆転現象が日米の子供たちの間で起きていた。

野菜、活性酸素の重要な制御に関わる

その前に、なぜ野菜の摂取が必要なのか-----。
その一つに活性酸素対策がある。我々は呼吸により酸素を取り入れる際、1〜2%が活性酸素となる。活性酸素は身体の重要な防衛機能を果たすが、身体で過剰に発生すると、逆に身体を損傷させ、老化や動脈硬化、がんなどの各種疾患を引き起こす原因となる。
そのため、健康を管理する上で活性酸素のコントロールが重要になってくる。「野菜は活性酸素の重要な制御に関わる。レドックス・バランス(還元と酸化)を保ち、活性酸素が過剰に暴走しないように抑え込む」と五明氏はいう。
植物は自らを活性酸素の害から守るために、それに対抗するビタミンや抗酸化物質を多く有している。

「植物はいつも直射日光を浴びていて、逃げも隠れも出来ない。動物だと日陰に移動できるが、植物は紫外線を浴び放題。紫外線を浴びると活性酸素が余計発生しやすくなる。そのため、植物は動物より活性酸素を防御するシステムをはるかに発達させている。昔の人たちはそういう意味で、活性酸素の対抗力である、野菜のいろいろな成分や機能を食生活に活用しようと、野菜をたくさん食べた」(同)。

'90年代に入り、米国で野菜・果物の摂取増を目指した「5 A DAY」運動展開

抗酸化物質を多く含み、健康管理に重要な役割を果たす野菜だが、憂慮されるのが近年日本で野菜の摂取量が減少傾向にあることだ。
平成7年頃より、野菜の消費量の逆転現象が日米間で生じたが、一体米国では野菜の摂取増のためにどのような推進策をとったのか----。

米国では'90年代に入って、死因のトップであるガンの克服に向け、米国立ガン研究所を中心に、健康・医療の公共機関や民間の食品の製造業者らが協力し、健康維持のために野菜・果物の摂取増を目指す「5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)」という運動を展開した。

これは、低脂肪・高食物繊維食を食習慣に定着させることを目標に、野菜や果物を1日に5皿分以上摂ることを目指したもので、子供達に、スーパーマーケットでの買い物体験や野菜の栽培収穫体験ツアーを実施するなど地道な広報活動を行った。
その後、マスメディアによる宣伝効果も功を奏し、「5 A DAY」の認知度は1991年(平成3年)は8%であったが、1998年(平成10年)は39%へとアップ。また、1人1日当たりの野菜・果物の摂取量も1994年(平成6年)は3.8皿であったが、1999年(平成11年)には4.4皿へと確実に増えていった。(※「野菜フォーラム」資料より)

日米のティーンエイジャーのコレステロール値も逆転

こうした米国の「5 A DAY」運動は、着実に成果を挙げ、野菜の消費量で日米間の逆転現象を起こすまでに至ったが、これに関連して、もう一つの逆転現象が明らかになってきた。
日米の若年層のコレステロール値の逆転である----。
それまで、米国のティーンエイジャーは高脂肪摂取に伴なう高コレステロールが健康に有害であると懸念されていた。しかし、'90年代からの食生活改善運動ともいえる「5 A DAY」プログラムで、野菜や果物に加え、穀類や食物繊維の重要性など、食生活全般の見直しが迫られた。

脂肪の過剰摂取を控え、穀物や食物繊維の多いシリアル(フレーク)食品を多く摂ることが強調され、14、5年ほど前からシリアル食品がアメリカ人の朝食の半分以上を占めるようになってきた。

こうしたことから、コレステロール値についても米国より日本の若年層のほうが高いというような傾向がみられるようになっていった。

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活性酸素がコレステロールと結びついて過酸化脂質を産生し、さまざまな疾患を引き起こす

ただし、ここで問題となるのは、コレステロールの質で、コレステロールが全て「悪」というわけもない。血管に溜まる一部のLDL(悪玉)コレステロールが問題で、むしろHDL(善玉)コレステロールは多いほうが良い。コレステロール全体では少なすぎても良くない、ある程度なければいけないということが明らかになっている。

LDL(悪玉)コレステロールが活性酸素と結びつくと酸化LDL(悪玉)コレステロールになる。その結果、血管壁が破れやすくなり、血栓が生じるなどの障害が生じる。また、活性酸素はこうしたコレステロールと結合して過酸化脂質を産生し、細胞を損傷させ、さまざまな疾患を引き起こすようになる。

昨年日本でも、「5 A DAYプログラム」参考に野菜・果物の消費啓発活動行う協会団体設立

食生活全般の見直しにより、とくに将来を担う若年層への栄養政策で米国は着実な成果を挙げてきたが、日本はどうか。
日本でも、近年の若年層の野菜離れを危惧し、「5 A DAYプログラム」に習い、昨年7月にファイブ・ア・デイ協会が設立。また医学、栄養学等の学識経験者等を中心とした「野菜等健康食生活協議会」が設立し、野菜・果物の消費啓発活動に本格的に乗り出した。今後、野菜・果物のもつ機能性に関する研究成果の広報活動など啓発に努めるとしている。

野菜の各種疾患への予防効果についての研究報告はこれまでにも数多く出ている。一昨年、「野菜はがんをどこまで予防できるか」をテーマに、「野菜フォーラム2001 がんと野菜」が開催されたが、ここでも世界の代表的な疫学調査研究が幾つか報告された。

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電子レンジや調理過程で、野菜に含まれる抗酸化物質が損失

野菜や果物の疾病予防機能については、含まれる抗酸化物質の活性酸素抑制によるところが大きい。しかしながら、最近ある問題が明らかになっている。電子レンジや調理過程における抗酸化物質の損失である。
例えば、ブロッコリーやキャベツといったアブラナ科野菜は、米国でも「がん予防が期待される成分」が含まれるとして注目されているが、スペインで行われた研究で、ブロッコリーを電子レンジにかけるとそれらに含まれる抗酸化物質のフラボノイドが97%失われることがわかったという(Journal of the Science of Food and Agriculture'03/11月号)。ブロッコリー以外の野菜についてもこうした抗酸化物質の損失が同様に推測されている。

電子レンジだけではない。通常の調理過程でも、フラボノイドが60%ほど破壊されることが明らかになっている。また、栄養成分は熱に弱い。湯がくことで、抗酸化物質の20〜30%が失われる。ちなみに、抗酸化ビタミンの代表格であるビタミンCは30%ほど失われるといわれる(それ以前に、近年ハウス栽培により野菜のビタミンC含有が露地物と比べ少なくなっている)。

この他、農薬など化学肥料や殺虫剤の使用で、フラボノイドがかなり損失することも明らかになっている。農薬などの化学肥料については、抗酸化物質の損失ばかりではない。体内で活性酸素を余計増やしかねないということも懸念されるところ。


*注1)マクガバンレポート:肉食を中心とした高脂肪・高カロリー食の米国では、長年糖尿病に代表される現代病の蔓延に悩まされていた。そのため、その原因を探るべく、1975年(昭和50年)、米国議会上院に、かつて大統領候補にもなったジョージ・マクガバン議員を委員長に「栄養問題特別委員会」を組織。「食と健康」に関する世界的規模の徹底調査にとりかかり、2年後、膨大な報告書をまとめあげた。
この中で、糖尿病患者は米国で500万人に達することが報告され、「糖尿病は栄養のアンバランスによる代謝病」であると定義された。米国議会上院の調査能力は世界に比肩するものがないといわれるほど緻密かつ高度なことで知られるが、報告書では、「食」内容の改善こそ、糖尿病克服のキメ手であるとされた。

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