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サプリメントと薬剤との相互作用、重篤なものはナシ

'00年4月、5人にひとりが鬱傾向にあるといわれる米国で圧倒的な売上げを誇っていたあるハーブが避妊薬や抗HIV剤の効果を阻害する、とのマスコミのネガティブ報道で人気が急落した。そのハーブがもつ抗鬱効果についても不信感が広がり、それまで拡大基調にあった米国健康・栄養補助食品市場は一転、ドル箱商品の失速で停滞を余儀なくさせられた。ハーブの名はセント・ジョンズ・ワート(西洋オトギリ草)---。ドイツなど欧州では天然の抗鬱剤として古くから使用実績があり、医薬品に匹敵する効果が認められていた。

ハーブサプリメントと薬剤との相互作用の検証で、まず米国人気1ハーブが槍玉に

2000年4月、米国で天然の抗鬱ハーブとして国民的人気を誇っていたセント・ジョーンズ・ワートに薬剤阻害作用が認められるとして、医学誌「The Lancet」などが大きく取り上げ、ハーブ不信から米国健康・栄養補助食品市場の拡大に陰りがさした。

米国ばかりではない、ストレス緩和に役立つハーブとしてすでに健康・栄養食品に配合しつつあった日本の製品もこれにより出鼻をくじかれる格好となった。

セント・ジョーンズ・ワートは単体での使用で問題があるというわけではなく、一部薬剤と併用した際に薬剤の効き目を減少させるというもので、当時の日本の厚生省もHPで、同ハーブに含まれるCYP3A4イソ酵素が、73種以上の薬品の代謝に関与し、経口避妊薬、抗レトロウィルス剤、抗癲癇薬、カルシウムチャネル阻害薬、シクロスポリン(免疫抑制薬)、フェンタニル(麻薬鎮痛薬)、化学療法薬、抗生物質、抗真菌薬、などと相互作用があり、薬剤の効果を減少させると報じ、これら医薬品との併用について注意を促した。

その後、同ハーブの本来の効能である抗欝効果そのものについても徹底検証が開始されることとなるが、その年の5月にAmerican Psychiatric Associationの年次総会の中でテネシー州の研究グループが、11ヵ所のメディカルセンターからの200人の鬱病患者を対象に8週間、セント・ジョンズ・ワートと偽薬を服用させて比較調査したところ、効果に差がみられなかったという報告を行い、本来の効能についても疑問符を投げかけた。

しかし、その後それを覆すかのように、ドイツの研究グループが、セント・ジョンズ・ワートの有効成分であるハイペリカムは抗欝剤のイミプラミンと同等の効果があり、しかも副作用が少ないと報告している。

セント・ジョンズ・ワート、ドイツなどハーブ先進国では医薬品として承認

セント・ジョンズ・ワートの使用については、米国はまだ日が浅いが、ドイツでは1980年代半ばから盛んに研究が進められ、塗薬のほか、胃腸調整や下痢止め用の油薬、また精神安定剤、睡眠剤、閉経後の神経鎮静剤の内服薬としても承認。副作用が少ないことから、ドイツでは医師の処方する抗欝剤の中でも最も多く使われるといわれ、売上げは他の抗欝剤の25倍、ドイツの抗欝剤市場の50%を占めるともいわれる。
ほかにも、イギリス、スイス、チェコ、ポーランド、ルーマニア、旧ソ連などで内服薬として承認されている。

こうした医薬品とほぼ同等の有効性(重度の鬱症状の改善は難しいとされる)が認められ、当時米国で人気1ハーブだった天然の抗鬱ハーブ、セント・ジョンズ・ワートがなぜ、薬剤との相互作用の問題で大きく取り上げられ、米国健康・栄養補助食品市場の失速をも招くことになったのか。これについては、下記の記事を参照にされたい。

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ともあれ、当時米国で代替医療のブームが最高潮に達し、サプリメント使用者が急速に増えていった時、サプリメントと薬剤を同時使用した際の弊害が生じないかという問題が持ち上がってきた。

いわゆるサプリメントと薬剤との相互作用で、サプリメントが薬剤の効果の増減にどうかかわるのか検証を迫られることとなった。相互作用の問題は、サプリメントに限らない。薬剤間は同様、アルコール、コーラ、ビール、牛乳、タバコなどや有名なものではグレープフルーツジュースが一部薬剤の血中濃度を上げるといった、一般飲食物との間でも薬剤によっては相互作用が生じる。

もちろん、ビタミンやハーブにも一部薬剤との間で相互作用が生じることは既に知られるが、とりわけ、当時米国で圧倒的人気を誇り、利用者も多かったセント・ジョンズ・ワート、ギンコ(イチョウ葉)、ジンセン(高麗人参)、ガーリック(ニンニク)といったハーブに白羽の矢が立てられ、検証の俎上にのせられることとなった。

結果、まずセント・ジョンズ・ワートで前述のような薬剤と併用した際、薬剤の効果を減じる作用があることが判明した。

これを、マスコミがセント・ジョンズ・ワート単体の弊害、副作用ととられがちな報道をし、消費者をミスリードした感がある。セント・ジョンズ・ワート単体使用では、中軽度の鬱症状に有用であり、ドイツはじめ世界各国で医薬品として承認されてはいても、重篤なケースに至ったという報告は今のところない。

コンドロイチン、補酵素Q10、エキナセア、ギンコなど主だったサプリメントと薬剤との相互作用の検証で、重篤なものはみられず

こうした経緯から、セント・ジョンズ・ワートをはじめとする主だったハーブサプリメントの薬剤との相互作用が検証されることになったわけだが、Archives of Internal Medicine最新号によると、米国で人気の主なサプリメントと処方箋薬の併用による相互作用で、現在のところ重篤なものはないという研究報告が掲載されている。

ピッツバーグ大学の研究グループによるもので、米国で市販されているダイエタリーサプリメントと処方箋薬との相互作用の発生状況と重篤度を調べたが、これによると相互作用の94%は重篤なものではないという結果が出たという。

調査の対象サプリメントは、コンドロイチン、補酵素Q10、エキナセア、ガーリック、ギンコ、ジンセン、グルコサミン、ソーパルメット(ノコギリヤシ)、セントジョンズ・ワート、ビタミンなど。サプリメントの使用者は米国の西部地区に多いため、東部から1都市としてピッツバーグ、西部からロサンゼルスを選んで対象にした。処方箋薬使用の患者458人のうち、ピッツバーグでは平均して1患者あたり7処方箋薬を、ロサンゼルスでは1患者あたり6処方箋薬を使用し、全体の43%がサプリメントを併用していたという。

ただし、今回の報告は限られたものであり、医療関係者は引き続き薬剤との相互作用を見守る必要があると警告を与えているという。

セント・ジョンズ・ワート、避妊薬と相互作用

ともあれ、ハーブサプリメントと薬剤との相互作用の問題は、今後さらにサプリメント使用者が増加することを考え合わせると無視できない問題であり、さらなる検証が待たれるところ。

セント・ジョンズ・ワートはリラックスハーブとして競争社会の米国ではニーズが高いため、引き続き薬剤との相互作用の検証は進められる模様だ。
ちなみに最近のものでは、避妊薬の使用が多い米国では、セント・ジョンズ・ワートとの併用に警告を発している。

Association of Reproductive Health Professionals会合で発表されたもので、カリフォルニアの研究グループが、20歳から32歳の女性16人を対象に、4ヶ月間の研究開始時に少量の避妊薬を与え、最初の2ヶ月間に被験者は、プラセボかセントジョンズ・ワートのどちらかを与え、被験者のプロジェステロン値を計測した(プロジェステロン値が一定の濃度に達すると、妊娠の兆候と考えられる)。結果、プラセボグループでは被験者1人が排卵を示すプロジェステロン値を示したが、セント・ジョンズ・ワートグループでは、3人が高い値を示したことが分かったという。

クランベリージュース、ワルファリン(血液凝固防止薬)の効き目を阻害

この他、これまでに報告されているハーブサプリメントと薬剤との相互作用については、女性が罹りやすいといわれる尿路感染症に有効性を発揮するといわれ、日本でも認知度が高まっているクランベリーについても、クランベリージュースがワルファリン(血液凝固防止薬)と相互作用を起こすことが報告されている。

ワルファリンとの相互作用については、ワルファリン分解に使われる酵素、P450の活動を阻害することが考えられている。ちなみに、ギンコ(イチョウ葉)に関しても、ワルファリンの効き目を阻害することが指摘されている。

ガーリック、抗HIV剤の効果を阻害

また、HIV感染患者が薬剤療法中にガーリックを摂取すると、薬剤の効き目を半減することが指摘されている(Clinical Infections Diseases誌)。

メリーランドの研究グループによるもので、HIV感染患者10人のプロテーゼ阻害剤であるsaquinavirの血中濃度を調べ、被験者にはプロテーゼ阻害剤が39日与えられ、その間、1日2回ガーリックタブレットが与えられた。その結果、ガーリックを与えられている間、血中のsaquinavir濃度は50%に落ちたことが分かったという。

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