編集部 :アメリカでは代替医療を求める機運が高まっていますね。日本でもそうした影響からか、代替医療に関心が集まっていますが。
漢方は正式な医療にするため医学的根拠(EBM)積み重ねてきた
丁:アメリカで今、相補・代替医療や伝統伝承医療、CAM(Comprimentary and Alternative Medicine)が盛んですが、アメリカで流行っているからといって、日本もアメリカと同じやり方でやろうとすることには疑問です。
医療というのは他の分野と違って国境という障壁があります。医療全体が、いわゆる国家管理産業分野です。そこに預かる人は国家資格を要求されますが、今のCAMにはそうしたことが抜けています。
私の専門の漢方は、日本では昔は民間療法で、在野の医学であり、医学の主流からは認められませんでした。これを100年以上かけ、志のある人達が正式な医療にするために血のにじむような努力をしてきました。今でいう医学的根拠、EBMを積み重ねてきました。
漢方は医学部教育の必須科目に
一昨年から日本の医学部教育の中で、正式に漢方を教えることになりました。
それまで、漢方は大学で教えるということに関しては自由で、教えているところもあれば、全く教えないところもあるといった状況でした。
それが、医学部のカリキュラムの内容を検討してみると、日本の80の医科大学の教育内容がバラバラであるということがわかりました。国家試験がありますから、それに受かりさえすれば良いんだということで、カリキュラムも統一されていませんでした。
新しい方針では、3分の2は全て共通のこと(コア)を教え、後の3分1は自由にカリキュラムを構成していい、ということになり、そのコアの中に漢方が入るようになりました。卒業までに和漢薬について概説できるところまで学ばなければいけなくなり、そのための教科書もできました。このようにして、漢方は医学部で、必ず教えなければいけないものになったのです。
編集部 :アメリカの正統派西洋医療からすると漢方は代替医療とみなされるわけですが。
アメリカへのアジアからの生薬の有用性に関する情報は間接的な伝わり方でしかない
丁:例えば、日本と事情が違うのは、アメリカでは薬局方を制定するのは国の仕事ではありません。政府が民間の会社に委託し
そこで薬局方が作られています。費用は安く済みますが、委託した人たちに知識が足りないケースや、責任の所在が
はっきりしない場合があります。
私や他の漢方の先生がアメリカへ行って、日本の薬局方や規格基準はこういうふうになっていると
いろんな資料をみせますと、向こうもびっくりしてアメリカの厚生省(FDA)と連絡をとり、日本のシステムを
勉強し始めたような状況で、最近では、中国系とか日本の知識がわかる人達を社員にしてアメリカの薬局方を
編纂し直しているというのが実情です。
WHO(世界保健機構)にしても、世界を8つの地域に分けてそれぞれ分割統治のようにやっていて、
日本は西アジア事務局に属しますが、事務局はマニラにあって、
日本、韓国、中国、他のアジアの国々がWHOの組織の一員として参加していますが、そこの地域はアメリカとは一旦
ジュネーブを介さないと交流できないようになっています。
そういうシステムのため、有用な知識が蓄積されていてもそれがアメリカのほうに
なかなか反映されません。アメリカは、それもまずかったと反省していて、今WHOを介してもアメリカと西アジア事務局が直に情報交流をやるようになっています。ですから、アメリカもこれから生薬のQC(クオリティコントロール)
がもっと進歩すると思います。
いろいろな面で、アメリカは、日本に学ぶべきであると思いますし、まず、日本の漢方を見習ってQC(クオリティコントロール)からはじめて、
最終的には臨床試験を積み上げるという方向でやっていただきたい。
編集部 :今後、日本の医療も代替医療を柔軟に取り入れていくような方向に向かうと思われますか。
丁:それには保険医療の問題があります。混合医療というものが
認められる方向にいくと、代替医療を取り入れた統合医療がどんどん進んでいくと思います。
ただ混合診療をやたらに認めていいかというのは判断の難しいところです。
世界のいろいろな国々をみてみますと、日本の保険医療システムというのはよくできています。
このまま今の形が維持できれば一番いいのですが、赤字財政で維持できなくなっているというのが実情です。
今の保険医療は昭和30年代に確立し、今日まで非常にいい方向できたことは間違いありません。
日本の中だけで見ていると非常に矛盾だらけで良くない印象を受けますが世界的にみてこれより良いシステムというのは
どこにもありません。明らかに日本が世界最高レベルです。韓国でも台湾でも国民皆保険になっていますが
、日本のレベルまで早くもっていくことを目標にしています。アメリカはというと未保険者が多く、国民が完全に保険でカバーされていません。
編集部 :アメリカでは多くの未保険者が代替療法を利用しているようなイメージがありますが。
アメリカで代替療法を利用しているのは未保険者よりむしろ、裕福な上流階級の人々
丁:未保険者がとくに代替療法を利用しているというわけではありません。ハーバード大学のアイゼンバーグ教授
が、93年に発表したレポートでアメリカでは3人に一人が代替療法を利用していると報告しました。実は、アメリカ
でもハイソサエティの上層階級の人達がやっていたという内容の報告でした。