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現代医療、薬草(ハーブ)・漢方療法の問題点、21世紀医療の行方

米国3大病院の一つといわれるスクリップス クリニック医療グループの元プレジデントのロバート M ナカムラ氏が来日し、平成11年8月28日開催の「第3回JACT大会'99」(主催 日本代替・相補・伝統医療連合会議)で米国の医療界の現状について講演を行った。オルタナティブ・メディスン(代替医療)が米国で流行る背景、薬草(ハーブ)・漢方療法が抱える問題点、東西医療の長所を生かした「統合医療」の必要性などを語った。

米医療界にオルタナティブ・メディスンの風

米国医療界が変りつつある。西洋医療に替わるもうひとつの医療、オルタナティブ・メディスン(代替医療)を治療に取り入れようとする医療従事者が年々増えている。
講演の中で、ナカムラ氏はオルタナティブ・メディスンの代表格であるカイロプラクティック、鍼、薬草(ハーブ)・漢方療法の現況を次のように語った。

「米国で薬草が非常に売れている。97年は59%セールスが増加した。その頃32億ドル市場だったが、今は40億ドルになっている。米国でよく使われてる代替医療はカイロプラクティック、鍼、自然療法で、医師のもとで治療を受けながらやっている人が多い。州によっては保険でカバーしている」。

自然なものでも、合成されたものでも、100%安全なものはない

特に薬草製品については、鬱病に効果があるとされるセント・ジョンズワートなどの人気がここ数年高まっているが、こうした背景について、「米国では慢性疾患を抱えている人が多く、西洋医療の治療に満足していない。専門的な治療は高価だということもある。

自然なものであれ、合成されたものであれ、100%安全なものはないが、そういう意味では薬剤より薬草のほうが何倍も安全」とナカムラ氏。

現実に、トロント大学の調査報告では、処方された薬による死亡は米国の死因の上位を占めているという。「60歳を過ぎてドクターが8種類、10種類の薬を処方するようになったら薬で死ぬ危険が高い。薬を沢山もらわないこと」(同)という。

"自然、有機"という言葉は、由来を意味し、優れているとか、劣っているとか示すものではない

では、今米国で売れている薬草製品に問題がないか---というと、そういうわけでもない。こちらは、有効性・安全性の面での立証が求められている。「セント・ジョンズワートはドイツでも鬱病にいいと人気だが、米国で市販されている商品の9種類の分析を行ったところ、有効成分に差があった。

ロサンゼルス・タイムズ社でも同じようなことをおこなったが10品中7品に中身の有効成分が表示された量に足りないということがあった」(同)と、表示のあいまいさを指摘。

一方、米国で人気の漢方薬も次のような問題点があるという。「漢方薬は日本でも米国でも人気だが、カリフォルニアで漢方薬の調査をしたところ、毒物とされる重金属の鉛、ヒソ、水銀の含有が非常に高かった」(同)。

251製品を調べたところ、24製品に鉛、36製品にヒソ、35製品に水銀が含まれており、それらは米国の薬局法で定められた毒性の限界を超えていたという。

こうした薬草に対し、ナカムラ氏は、「自然、有機という言葉は米国で人気のある言葉だが、これは、どこから来たということを示すだけで、優れているとか、劣っているとか表す言葉ではない。鉛とかヒソとか水銀であるとか、これらも自然にあるものであるということを忘れないで欲しい」とし、「今後、科学的な処方を取り入れて安全性、有効性を確かめなければいけない」と、警鐘を鳴らした。

治療の内容より、患者が治ることが先決。「統合医療」が時流に

現在、米国では薬草にしろ漢方薬にしろ、さまざまな問題を抱えながらも追い風を受け、好調に推移している。しかし、西洋医療サイドではこれをどうみるか。ナカムラ氏は言う。「西洋医学に携わる人たちは薬草治療に対して、臨床試験で安全性を証明する必要性があるし、特定の疾患の治療に有効であることを示さなければいけないと主張している」。

また「西洋医学の人達は代替医学が効果があるというのはプラセボ効果であって、それだけで30%から40%も改善されることがあるといっている」(同)。

オルタナティブ・メディスンについては常に効果の再現性・普遍性が不明確とされ、これまで批判の矛先が向けられてきた。しかしながら、この点について、ナカムラ氏は、「患者が信じて良くなるのであれば、治療の内容はあまり関係ないのではないか」と柔軟な見解を示す。

今日、米国で製薬会社が新薬を開発する際、安全性の証明など、さまざまな臨床試験に少なくとも3億5千万ドルかかるといわれる。しかも投資の見返りは難しい。そうした焦燥感が製薬企業をオルタナティブ・メディスンへと向わせる要因にもなっている。

現在、米国で150以上の製薬企業が医薬品の代替薬(薬草製品、栄養補助食品など)の開発に乗り出しているといわれる。その市場を日本に求めているとも聞く。黒船襲来が間近に迫っている。

ともあれ、時代の大きな流れは、「東西医療の優れた点を融合させた統合医療へと明らかに向いつつある」(同)模様だ。さらにナカムラ氏は21世紀医療の未来図を次のように語った。

遺伝子情報による個々人の分析医学が主流に

「医療の将来を考えると、先ず予防医学。コンピューター技術の発展によって、個々人の遺伝子情報をつかみ、疾患リスクの予測と予防といった分子医療がなされると思う。遺伝子情報により、個々人がどういう薬に特定の反応を示すか知ることができるようになる。遺伝子情報をバイオチップによって知ることができるようになると特別な疾病の素因、予防と進行度を知ることができる」(同)。そうした分子医療においては、予防医学が最優先され、「栄養」が大きな一角を占めるようになるという。

日本の食事は米国の食事よりはるかに優れている

その栄養について、「日本の食事はアメリカの食事よりはるかに優れている」とナカムラ氏。「糖尿病、肥満、骨粗しょう症のような疾患は今日のライフスタイルから来るということがいわれている。こうした疾患は精製された炭水化物や糖分の摂りすぎ、食物繊維の不足からくる」(同)。そのため、食物繊維が豊富な玄米など未精製の穀類、魚、豆類の日頃からの摂取をナカムラ氏は奨める。

また注意事項として、1)肉は避ける、2)塩は精製塩より海水から作った塩を用いる、3)タバコは吸わない、4)飲酒はビールは2缶弱、ワインはグラス1杯、など挙げる。ナカムラ氏の説く現代医療の問題点と未来図、ポイントは、日頃の「食」管理に尽きるようだ。

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