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脱「欧米食」へ、がん予防で注目される「日本食」

12月11日、中央会館(東京都中央区)で(財)がん研究振興財団主催の市民講演会が開催された。この中で、国立がんセンター研究所の津田洋幸氏(化学療法部長)は「がんはどこまで予防できるか--がん予防研究の進歩--」と題して講演。欧米化する日本のがん罹患に対し、日頃の「食」管理による対策を紹介した。

 ▼ 米国では「がん予防」のために穀類、大豆、魚など「日本食」に注目 ▼ 肺がん、喫煙説以外にさまざまな要因浮上

「がんを防ぐための12カ条」、半数以上が食品と関係

昭和56年以降、日本では脳卒中を抜き、がんが死亡原因のトップに立った。男女合わせると胃がんが最も多いが、近年減少傾向にあり、替わって増えてきたのが肺がん。男性では平成5年に胃がんを抜いてトップに立っている。また食の欧米化が進み、大腸がんが急速に増加しているのも気にかかるところ。

津田氏は講演で、特に大腸がん予防のための日頃の「食」管理について説き、大腸がんの抑制が期待されるとして、魚の眼窩に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)、米ぬかなどの食物繊維、非加熱のミルクに含まれる成分のラクトフェリンなどを挙げた。
一方、大腸がんの危険性を高めるものとしてリノール酸を挙げ、必須脂肪酸で生体の維持に欠かせないものだが、代謝過程でアラキドン酸に変り、発がん物質を増やす可能性があることを指摘した。

また、この他、カルシウム、セレニウム、フラボノイド、カテキンなどのがんへの有用性を紹介。「12カ条のがんを防ぐための健康管理の中で半分以上が食品に関係する。食品とがんは密接に関係する」として、日頃の「食」管理の重要性を説いた。「がんを防ぐための12カ条」については以下の通り。

「がんを防ぐための12カ条」

1)バランスのとれた栄養をとる。2)毎日、変化のある食生活をする。3)食べすぎを避け、脂肪は控えめにする。4)飲酒はほどほどにする。5)タバコは吸わない。6)食べ物から適量のビタミンと繊維質のものを多く摂る。7)塩辛いものは少なめにし、熱いものをさましてから飲む。8)焦げた部分は避ける。9)カビの生えたものには注意する。10)日光に当たりすぎない。11)適度にスポーツする。12)体を清潔にする。

津田氏の講演要旨

最近、我が国では肺がん、大腸がん乳がん、前立腺がんが増加している。大腸がん、乳がんの発生は、西洋食にみる高カロリー、高脂肪、低繊維食の摂取習慣とよく相関し、例えば、ハワイに移民した日本人の二世以降の世代に大腸がんが増加している。動物を用いた実験でも、高脂肪、低繊維食は大腸がん、乳がんの発生を促進する。したがって、がんの発生には生活習慣・食餌摂取が深く関与しているといえる。 言い換えれば、がんも予防可能な病気と言える。

がん予防方法は次の二つに整理される。1)発がん物質、発がん促進物質の摂取を可能な限り避ける。2)がん化学予防物質を積極的に摂取する。この場合、高危険度の人(患者)に医薬として投与する場合と、食品(食品添加物)に近い形で日常的に摂取させる場合の二つの方法がある。

米国では「がん予防」のために穀類、大豆、魚など「日本食」に注目

一方、米国における「がん予防」のための注意事項というのはどのようなものであるか。米国Food Nutrition and the Prevention of Cancer:A Global Perspectiveが、4千500件以上の研究を基に「がん予防」のために以下のような「食生活のガイドライン」を発表している。

  1. 野菜・果物、豆類など植物性食品を中心とし、加工食品を除去した食生活をこころがける。
  2. 体重超過や体重減少には注意。成人後の体重の変化は5kg以内に抑える。
  3. 定期的な運動が無理なら、毎日1時間ほどの散歩か、少なくとも1週間に少なくとも総計1時間ほどの運動を心がける。
  4. 1年を通して、数種類の野菜を1日約400〜600g食べられるようにする。
  5. 穀類、豆類、根類などを1日約600〜800g食べる。また、なるべく精糖を避けるようにす る。
  6. アルコールは少量。男性なら1日2杯、女性なら1杯以下。
  7. 赤みの肉類は避けるか、制限すべき。1日80g以下に。できるなら、魚、鳥肉を選ぶ。
  8. 脂肪類、動物性脂肪食品も避けて。植物性オイル、あるいは魚油、種油などを使用。
興味深いのは、穀類、豆類、魚類、野菜の摂取を重要視していることである。「がん予防」のための必須項目として日本人が伝統的に摂ってきた食材が、「欧米食の行きついた先」に見直されていることを我々は改めて認識する必要があろう。

穀類については未精白のものがよく、1日1杯食べることで、がん、心血管系疾患などの死亡率を低下させることができるという 報告もなされている(American Journal of Public Health誌 '99/3月号)。 これは米国Iowa Women’s Health Studyの参加者のうち55歳から69歳までの3万8千740人を 調べた研究によるもので、調査の結果、未精白穀類を摂取するほど病気に罹らない健康な生活が営めるという結論に至ったという。またミネソタ大学研究者グループが、未精白穀類を1日1杯以下から3杯以上の範囲で摂った場合の健康状態を調べているが、高齢者の場合、少なくとも1日1杯食べることで、疾患からの死亡率が15%減少したことがわかったという。

さらに言えば、未精白穀類摂取の重要性を認識している米国では、最近、パンやシリアルに対し、「心臓病やがん予防」のラベル表示を許可している。これはゼネラル・ミル社の製品「Cheerios」などに認められたもので、同社では1989年に 米国National Academy of Sciencesに食物繊維の多い未精白穀類や主要ビタミンとの混合は疾患予防に効果があると主張、ようやくラベル表示にまでこぎつけた(ただし、重量に対し51%以上の未精白穀類が配合されていることが必要)。

大豆を多く摂るアジア諸国、米国に比べて乳がんが少ない

また大豆については、乳がんなど米国で死亡原因の上位を占める疾患がアジア諸国で少ないことから大豆成分のがんなどへの有効性についての研究が米国で盛んに行われるようになった。
豆腐、豆乳などに代表される大豆製品に含まれる植物性エストロゲンにより、子宮がんの危険性が低下するという記事が一昨年のAmerican Journal of Epidemiology誌に掲載されている。それによると、ハワイ・がん研究センターの研究者らが1985年から93年までの子宮がん患者332人とその他の女性500人以上を比較調査したところ、豆類や豆腐などの食品を多く取った女性は子宮がんの罹患率が54%低下したという。

現在、大豆成分の中でも、特にイソフラボンが注目されているが、California Public Health Foundationのデービッド・T・ザヴァ博士によると、大豆イソフラボンは、がんの成長を促進すると考えられている酵素の活動を抑制し、がんの危険性を低下させるという。

また魚については、これまで結腸がんを始めとするさまざまながんを予防に一役買うという報告もされている(American Journal of Clinical Nutrition誌'99/7月号)。これはスペインの研究者グループが、イタリアのがん入院患者1万人とがん 以外の疾患患者8千人の魚の摂取量を比較調査したもので、魚を食べる回数が1週間に1度以下のグルー プ、1週間に1度、週に2度以上の3つのグループに分けて調べたところ、1週間に2度以上のグループはある種のがんの危険性が顕著に低下していることが分かったという。例えば、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がんの危険性が30%から50%減少。その他、喉頭がんで30%、子宮内膜がんで20%、卵巣がんでは30%低下したという。 ただ、リンパ腫、乳がん、肝臓がん、胆嚢がん、膀胱がん、腎臓がん、甲状腺がんではそれほどの影響が見られなかったとも報じている。

肺がん促進、喫煙以外にさまざまな要因浮上 

また、がんの中でも、男性の場合、日本では平成5年以降肺がんがトップに立ったが、これは米国も同様(男女ともがん死亡率のトップ)。主な原因は喫煙にあるとされているが、ディーゼル車のはき出す黒煙も要因の一つに挙げられている。

この他に、高温で油を調理した際に出る煙も原因という報告もある(Epidemiology誌8月号)。これは中国とカナダの研究チームが、上海在住のタバコを吸わない女性を対象に調査をしたもので、以前から中国女性の喫煙者は24%と低いものの肺がん率が高く、部屋に充満する油の煙が肺がんのリスクを高めている原因ではないかと推測されていたという。一般に、中国女性は普通25-100ミリリットルの菜種油または大豆油を摂氏280度に熱して調理するといわれる。

同誌によると、上海がん登録所の肺がんを持つ中国女性504人と、同地域の肺がんを持たない中国女性601人を比較したところ、非精製菜種油を使用している女性は、他の油を使用する女性より84%も肺がんのリスクが高いことが判明。また高温での油の調理は低温より肺がんのリスクが64%高いことも分かったという。さらに台所が別になっていない場合、肺がんリスクが28%高まることも明らかになったという。

野菜の十分な摂取で肺がん罹患の危険性低下 

日米とも罹患率の高まりが懸念される肺がんだが、禁煙などリスクファクター(危険要因)を排除する以外に何か積極的な防衛策はあるのか。これについては、日頃から野菜の摂取を心がけることで罹患の危険性が低下するという報告も出ている(International Journal of Cancer誌'98/11月号)。スウェーデンで行われた非喫煙者を調べた研究で、非喫煙者の男女で肺がん患者124人と健康体235人を比較したものだが、野菜摂取量が高い被験者は肺がんに罹る危険率が30%低かったという。また、非柑橘系果物を多く摂る被験者も同じく40%低かったという。
禁煙したとしても、ディーゼル車による大気汚染などさまざまな肺がんのリスクファクターに包囲されている現代人にとって野菜の積極的な摂取は肺がん対策に大いに役立ちそうだ。

また、ビタミンE濃度が高い喫煙者は、肺がんの危険性が20%低くなるといった報告もされている(Journal of the National Cancer Institute誌'99/10月号)。アメリカ、メリーランド州並びにフィンランドの研究者グループが、フィンランド で行われたがん予防に関する研究資料を分析し、男性の肺がん患者1千144人のビタミンE摂取を調べたところ、ビタミンE摂取の高さと肺がん離間率の低さとは関連するということが判ったという。

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