バックナンバー > '00/1月記事
糖尿病や卒中などのリスク、"日頃の適度な運動"で減少

健康を維持するためには、栄養成分の摂取とともに、”日頃からの適度な運動”が重要なファクターとなっている。 日本では、ここ数年ダンベル体操やウォーキングなどによる適度な運動が肥満や糖尿病の改善に役立つとしてブームになっているが、こうした手軽にできる運動の疾病予防効果とはどのようなものなのか。最近の特に女性を対象とした世界の調査結果を報告する。

1日1時間または少なくとも30分の運動で糖尿病のリスク減少

  • 1日1時間または少なくとも30分、足早に歩く運動をすれば成人型糖尿病のリスクが減少(ハーバード大の研究チームが、40〜65才までの女性70,102人を対象とした心臓病と癌の調査データを1986年から8年間分析)
  • 日頃の運動で、中年以降の女性の卒中による死亡率が50%減少(ノルウェーの研究グループが、研究開始時において卒中経験のない50歳以上の女性 14,000人を対象に10年間追跡調査)
  • 運動量の最も多い女性は最も少ない女性に比べ胆石手術を受ける率が31%少ない(ハーバード大の研究チームが、40〜65歳までの女性60,290人を対象にした1986年から10年間の調査を分析)

1月29日、「生活習慣病と食物繊維」をテーマに公開講演会(主催:日本食物繊維研究会)が開催された。その中で「ダンベル体操」の発案者として知られる鈴木正茂教授(筑波大学体育科学)がダンベル体操による疾病予防についてふれ、「1日15分の短時間運動だが、基礎代謝の増大、糖と脂質のエネルギー代謝の増大をもたらす」とし、肥満や糖尿病への改善に有効であると述べた。また肥満や糖尿病の改善における運動の重要性については「運動を主役に、食事を補佐役とするのが合理的」とした。

最近の研究でも、糖尿病の改善のために運動の重要性を指摘する調査結果が報告されている。ハーバード大の研究チームは、40〜65才までの女性70,102人を対象とした心臓病と癌の調査データ(Nurses' Health Study )を1986年から8年間を分析した結果、出来れば1日1時間または少なくとも30分、足早に歩く運動をすれば成人型糖尿病のリスクが減少すると発表している(Journal of the American Medical Association'99 10/20号)。

それによると、調査当初健康体であった対象者のうち、1,419人が調査期間中に糖尿病と診断されたが、運動量が多い人ほど糖尿病のリスクが少なく、運動時間でみると週21.7時間以上の女性は週2時間の女性と比べ、リスクが46%も少ないことが判ったという。

運動時間を増やせばそれだけ糖尿病のリスクも減少するということだ。では運動時間と運動量との関係はどうなのか。
調査によると、例えば、週4.7時間から10.4時間に増やせば、リスクは25%減少し、週2.1時間から4.6時間に増やせば、23%減少するという結果が出たという。また運動量については、ジョギング、ランニング、テニス、エアロビックなどの激しい運動はリスク低下に繋がったが、強度変化の大きい水泳と自転車はリスクの減少に変化はみられなかったという。

こうした結果に対し、研究チームは「運動をすることで体重が減り、また糖分がエネルギーに分解されるため、糖尿病になり難くなる」としており、出来れば1日1時間または少なくとも30分足早に歩く運動を毎日することが望ましいと指摘している。

日頃の運動で女性の卒中による死亡のリスクが半減

また日頃の運動が、中年以降の女性の卒中による死亡率を50%減少させるという調査結果も出ている(Stroke誌2000 1月号)。
調査はノルウェーの研究グループが行ったもので、研究開始時において卒中経験のない50歳以上の女性 14,000人を対象とし、中年以降の女性の運動と卒中による死亡との関連について10年間の追跡調査を分析した。

それによると、50歳以上の女性のどの年齢層においても、運動量が増えるに従い、卒中による死亡のリスクが減少することが判明し、頻度、激しさの度合、期間などの数値から運動量を計った結果、最も運動量の多い女性は卒中による死亡のリスクが約50%も低いことが認められたという。
運動量の多い女性ほど、身体が若く、体脂肪が少なく、血圧も低い。また、心臓病や糖尿病の症状も少なく、血圧降下剤の服用も少ない。また運動が、糖尿病の症状を軽減し、善玉コレステロールのレベルを高めることも判明したという。
これまでの研究においても、日常の運動が、体重、血圧、コレステロール等、卒中を誘発する要因の調整に役立つことは明らかであったが、今回の調査でもそれが裏付けられた格好となった。

運動は女性の胆石手術の必要性を減少

運動が胆石のリスク軽減に役立つことも明らかになっている。
1986年より、40〜65歳までの60,290人の女性を対象に10年間調査したハーバード大の研究チームの分析結果によると、運動量の最も多い女性は最も少ない女性に比べ胆石手術を受ける率が31%少ないことが判明したという(the New England Journal of Medicine '99 9/9日号)。

胆石は、胆汁、コレステロール、カルシウム、その他が胆嚢内に結集して固まったもので、無痛の場合もあるが、激痛が起きた場合は手術の必要がある。
調査によると、週に2〜3時間程度の軽い運動であってもリスクが約20%減少することが判ったという。また、オフィスや車の運転などで座っている時間が週41〜60時間にもなる女性は、週6時間未満の女性と比較すると41%も胆嚢摘出手術を受ける率が高いという。
こうした結果に対して、「運動により内臓を急速に動かすことで胆石が形成されるのを防止するのではないか、また胆石形成に関与する脂肪酸、トリグリセリドのレベルをも減少させるのではないか」と研究チームは推測している。
この他、食物繊維、ビタミンC、カフェインなども胆石のリスクを減少させるという結果も出ているという。

5%から10%の少しの減量でも健康状態に好影響

運動についてはまず減量ということが期待できるが、これによる疾病予防の意味合いも大きい。マサチューセッツの研究チームが、大幅な減量でなくとも、たとえ5%から10%の減量であっても長く維持すれば健康に大変効果的であるという調査結果を報告している。

それによると、軽度、中度、重度の肥満症の35〜64才の男女の肥満度指数、高血圧、高コレステロール血症、成人型糖尿病、冠動脈心臓病、卒中のリスクについて調査した結果、10%の減量を保持するだけで肥満症1000件の内、心臓病のリスクは12〜38件、卒中は1〜13件軽減され、高血圧症になる年数が4.1年から2.9年に減少、高コレステロール血症と糖尿病の年数もそれぞれ0.3年、0.5年減少し、平均寿命は男性2〜7ヶ月、女性2〜5ヶ月伸びたという。

糖尿病や肥満、高血圧など、いわゆる生活習慣病といわれる疾病に対しては、やはり”日頃からの適度な運動”を生活習慣にすることが効を奏するようだ。

ヘルスネットメディア

Copyright(C)GRAPHIC ARTS CO.,LTD. All rights reserved.