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ビタミンA適正量公表(NIH)も、依然根強い慎重論

7月22日に、米国立衛生研究所(NIH)は、妊婦への1日のビタミンAの適性量を公表したばかりだが、相変わらずその後も新聞紙上などで是非論が展開されている。ビタミンAの誘導体であるβカロチンについても、フィンランドと米国で行なわれた栄養介入試験で逆に肺がんの罹患率が高まるという研究結果もでており、依然、慎重論が根強い。

1日10,000IU以上の摂取は奇形児生誕の可能性


妊娠中にビタミンAを1日に8,000−10,000IU摂取すると胎児に発生する障害が低下する…・National Institute of Healthがこうした調査報告を発表したのが今年の7月。これはNational Institute of Child Health and Human Developmentのジェームス・ミルス研究者らが行った調査で、神経管障害児を出産した548人の妊婦など、1,500人あまりを対象に産後1-5ケ月に電話アンケートを行い、結論付けたもの。
ビタミンAの有用性については、1950年代頃より着目されていたといわれる。 1970年代に入って米国ジョンズホプキンス大学のソマー博士らのグループが低開発国の乳幼児に与え、効果を確認。乳幼児の死亡率が3分の1に減少したとも報告されている。

しかし、その後、1日10,000IU以上の摂取で奇形児生誕の可能性が示唆、また肝細胞の壊死を促進するなどの有害作用があるとされ、1日、25,000IU以上の摂取は避けるよう専門家たちは勧告してきた。そのため、米国の企業の多くは1980年代後半より10,000IU/カプセルで製品化するよう自主規制を行ってきた。

再度、「ビタミンAの過剰摂取は健康に悪影響」と専門家

ビタミンAの誘導体であるβカロチンについては、フィンランドと米国における投与試験で「肺がんへの有効な作用はみられない」との否定的な結果となり、関係者に衝撃を与えた。しかしながら、ごく最近の米臨床がん研究協会(デンバー)による2,200人の医師を対象にした投与実験では、「普段、ほとんど野菜、果物を摂らない男性についてはβカロチンの栄養補助食品は有効」とされた。ただし、これについても「普段の食事からじゅうぶんなβカロチンが摂られている場合は逆に害になりかねない」という、見解が付け加えられた。

こうした過去の投与実験の結果もあり、専門家の間ではビタミンAの適正量のついての評価が定まらなかった。NIHの今回の適正量8,000-10,000IUという発表はこれまでのビタミンAの摂取量に終止符が打たれるかとおもわれたが、一方で異議を唱える声も挙がっている。

グロリア・デ・マッサロ博士は昨年ネズミを使った実験で、肺機能が正常化へと向かうことを確認した。しかしながら、「人による臨床実験での確認がまだなされていない」とし、ビタミンAの過剰摂取を戒めるコメントを寄せている。また、前述のウイリアム・ソマー博士も「ビタミンAの取り過ぎは決して健康に良い影響を与えるとは思えない」という慎重論を8月13日付のロサンゼルスタイムズに寄せている。

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