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環境ホルモンで精子減少、TV報道で波紋

我々の身近にあるダイオキシンをはじめとする72種類の化学物質が環境ホルモン(内分泌かく乱物質)として、健康をおびやかしている。日常用いている食器やカップからも微量ながらも環境ホルモンが溶出、精子減少など生殖機能に影響を与え、少子化傾向に拍車をかけるとしてマスコミも連日警鐘を鳴らす。

環境ホルモンが少子化傾向に拍車

4月4日に放映された「ザ・スクープ」(テレビ朝日)では世界各国の環境ホルモンへの取り組みを紹介したが、日本の対応の甘さが浮き彫りになった。9日に科学技術庁は、厚生省、環境庁とともに環境ホルモンの「生殖」への影響について、今後3年間に総額7〜8億円かけて体系的な調査を行なうと発表したが、もはやデータ収集の段階ではなく、規制への本格的な取り組みが必要な段階にさしかかっている。

先頃、帝京大医学部の押尾茂講師(泌尿器科学)らによる調査で、日本人の20代男性の精子の数が40代前後の男性に比べ半数ほどしかないというショッキングなレポートが明らかにされた。東京近郊に在住の20代男性50人と37-53歳の男性44人の精子数を比較したところ、1mlリットル当たりの平均精子数が40代前後の男性は8,400万個に対し、20代男性のそれは4,600万個ほどしかなかったという。

これまで近年の日本における不妊症の増加、少子化傾向についてさまざまに取り沙汰されてきたが、ここにきて環境ホルモンが大きく関与していることが明確になりつつある。

ここ30年ほどの間に何らかの複合原因で精子が減少

番組では、1992年に精子の減少を過去のデータと比べたデンマーク大学病院のスカケベック教授が登場し、世界的な精子の減少傾向について、「世界各地でまちまちだが、1ml当たりの平均精子数は1億から6,000万に推移している」と述べた。また、こうした傾向について、「ここ30年ほどの間に何らかの複合原因により精子が減少したと考えられる」と結論付けた。

また、精子数が激減しているといわれる日本の1970年代生まれの若者の食生活の実態をリポートし、化学物質に囲まれた生活習慣を明らかにした。この中で環境ホルモン汚染を検証したが、食器に使われるポリカーボネートから環境ホルモンの一種であるビスフェノールAが検出、またスチール缶(内側に金属が錆びないようにコーティングがほどこされている)からは、330ppbのビスフェノールAが検出されたとした。この他、インスタントラーメンのカップ容器、水道水などについても環境ホルモンのフタル酸エステルが検出されたとした。

「仮説の段階」とする厚生省、一体まだ人体実験が必要なのだろうか

こうした現状に対して、厚生省では「環境ホルモンによる(精子への)影響はまだ仮説の段階。緊急に規制を行なう必要はない」としているが、世界の先進国の環境ホルモンへの取り組みに比べ、日本はあまりに遅きに失する感がある。1980年に入って米国のフロリダでワニの生殖器異常が確認されたのを皮切りに、90年以降世界の各地で環境ホルモンによる弊害が確認、人類の存亡に関わるとして緊急対策項目となっている。

日本では、環境ホルモンの人体への影響についての調査は緒についたばかりで、各自治体で独自の調査を行なうといった動きも出始めている。先頃、横浜市では学校給食の食器の安全性について調査に乗り出す方針を明らかにした。学校給食で用いられているポリカーボネート製食器が熱湯を注ぐとビスフェノールAが溶出することが判り、父母たちの不安が高まったためだ。また、東京都でもカップめん用の発砲スチロールなどから環境ホルモンの溶出がないか、独自の検査を行なう方針を打ち出した。

また、4月9日に科学技術庁は厚生省や環境庁とともに、国立環境研究所が中心となり、大学や民間の研究所を交え、--1)環境ホルモンの計測技術と生物に影響を及ぼす濃度評価法の開発、2)異常を引き起こすメカニズムの解明、3)野生生物への影響とヒトの精子の減少の実態調査-の3項目について、今後3ケ年計画で総額7〜8億円を投じ本格的な調査・研究を行なうと発表した。

日本は、これから環境ホルモンの本格的な調査を3年間行ない、「必要ならば規制」をという手順だが、さらに「化学物質をどの程度暴露した時、どのような影響が、何年後に出るか」といったことを科学的に立証するまでには膨大な時間を要する。しかしながらこうした検証で、環境ホルモンと「生殖」との因果関係が明らかになり、規制に本腰を上げた頃にはすでにとりかえしのつかない事態に陥っていることは想像に難くない。

「30年ほど前から何らかの複合要因で精子減少が起きている」(前出・スカケベック教授)が、その最大要因は、ある種の化学物質(環境ホルモン)の相乗毒性によるものとの世界的な認識がなされつつある。30年かけて環境ホルモンの人体への影響が明らかになり、人類の存亡に関わる世界的なテーマになっているというのに、日本では今後もまだ、人体実験が必要というのであろうか。

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