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【 米国における代替医療を総括〜浮上してきた問題点 】

米国では'90年代に入って、国民の西洋医療離れが進行していった。'93年にアイゼンバーグ博士(ハーバード大学)らが調査したところによると、米国民の3人に一人が西洋医療以外の医療(代替医療)を受けていることが明らかとなった。理由としては、まず米国民の15%が無保険者のため西洋医療だと高額の医療費が請求されるということが挙げられる。さらに、その後も米国民の代替医療への傾倒は高まる一方で、米政府もこれを見過ごすことができなくなり、98年にはNIH(米国立衛生研究所)に本格的に代替医療の有効性を調査するセンター「NCCAM:National Center Complymentary and Medicine」が開設した。また13の大学、各研究機関に5,000万ドルの研究予算が割り当られ徹底的な検証が開始された。こうした中で、有効性や問題点が次第に明らかになりつつある。米国における代替医療の現状を総括する。

ごく最近の調査でも、米国民の3分の2が代替医療の利用経験持つことが判明

アメリカ人の3分の2は、少なくとも1種類の代替治療(Alternative Medicine)を 受けたことがある(※代替医療:米国では主流の西洋医療以外の療法を指す。カイロ プラクティック、ハーブ(薬草)療法、栄養療法、漢方、鍼灸、マッサージ、ヨガ、バイオ フィードバック、精神療法などがある)という調査報告が最近公表された。

これはInterSurveyがこのほど、成人1,148人を対象にウェブを通して行ったもので調査で、 それによると、回答者の半数が調査の2週間前にビタミン・サプリメントを摂取したと答え、 23%が何らかのハーブを利用したと回答した。

また、回答の中で総合的に最も効果が高いと考えられている療法は、マッサージ、ヨガ、 鍼で、現代医療より効果があると回答があったのは、カイロプラクティック、マッサージ、 鍼だった。

また、代替治療を利用している割合は、カイロプラクティックを除けば男性より女性に多 かった。全体的な利用度としては、ハーブが38%、カイロプラクティック37%、マッサー ジ35%、瞑想14%で、10%以下は鍼、ヨガ、ホメオパシーなどだった。

代替治療を利用した理由では、友人や家族の推薦が多く62%、現代医療に効果が見ら れないが28%、医師からの推薦22%メディアからの情報が20%などとなっている。さら に、利用しない理由としては、現代医療が効果をあげているからというのが最も多く、続 いて安全性に懸念や保険が支払わないなどが挙がった。

今年だけでも80件の研究に資金援助

12年前、代替治療に興味を示す割合が10%以下だったことを考えると、今や代替治療 は亜流ではなく、本流に取って代わる勢いだということがいえる。こうした状況を見過ごせ なくなった米国立衛生研究所(NIH)は1998年、組織内に補完・代替(CAM)治療セン ター(NCCAM)を設立、研究に本腰を入れ始めた。

NCCAMの目的と使命は、消費者など公衆の利益のためにCAMに関する研究を奨励、 発展、支援することで、そうした質の高い厳正な研究報告をまとめ、医療関係者のみな らず消費者に対しても公開していくことである。

NCCAMは、NIH組織を形成する20以上の研究所の一つで、研究発展、研究援助の 他にトレーニングや教育指導なども行う。 さらに具体的には、 (1)ハーブ療法や栄養サプリメントのような自然製品の安全性並びに有効性を評価 (2)通常の現代薬剤医療とCAM製品との相互作用による影響を査定する研究を支援 (3)NCCAMに対する予算は、前身であるOAM(Office of Alternative Medicine)設立 (1992年)翌年度の200万ドルから増加しつづけ、2000年度会計では6千870万ドルが 計上されている。

現在、9つあるNCCAMの研究センターでは、主に痴呆症、うつ病、骨関節症、痛みなど に関する健康問題がテーマとなっており、今年だけでも80件の研究に資金援助する予 定。

アリゾナ大学では、NCCAMからの援助500万ドルを受けて、小児科疾患へのCAM研究 を行うPediatric Center for Complementary and Alternative Medicine(PCCAM)が オープンしている。PCCAMでは、耳感染の再発に対するエキナセア、脳性小児麻痺へ の整骨療法と鍼療法、腹痛に対するリラグゼーションやイメージ法、カモミール・ ティーの有効性といった3つの臨床研究がすでに開始されている。さらに、小児科医に 対するCAMの教育・指導も行う。

代替治療を取り入れる医療機関は確実に増えている

代替治療への注目度がますます高まる中、代替治療を採用する病院も増えてきている。 約1,000件の病院を対象にした新しい調査では、13%が何らかの代替治療を行ってい る。この数字は、都市部の病院で25%、最低500ベッドを擁する病院では32%の上昇 率だという。例えば、ニューヨークにある6月にオープンしたばかりのBeth Israel Medical Centerには、サイコセラピストや鍼治療医、カイロプラクティック、心身療法、マッサージ セラピーなどを用意している。

また、ピッツバーグ大学メディカルセンターでは、鬱症状の患者にハーブを与えて緩和 を図っている。ロサンゼルスのシーダーズサイナイ病院も心臓病患者のバイパス手術 後に鍼治療やマッサージセラピーを与える。勿論、代替治療はインチキと決め付け歩 み寄る姿勢を持たない医師も多く、支払いカバーをする民間の医療保険もまだ少ない ことから、積極的な導入に立ちふさがる壁は厚いが、代替治療へ目を向けようとする 機関は確実に増えているといえる。

がん治療を受けている患者の8割以上が代替医療を利用

同じ医療現場でも、特にがん治療の分野では代替治療に積極的に取り組んでいこう とする傾向が強い。Journal of Clinical Oncology7月号はテキサス大学がこのほど 行った調査を掲載している。

それによると、がん治療を受けている患者453人を対象にしたが、99%以上はCAM (※Complymentary and Medicine:相補代替医療) について聞いたことがあると答え、 83%は何らかの代替治療を試したことがあると回答した。その中で最も人気があったの は、祈りのような精神的なものやビタミン、ハーブだった。

また、通常のがん治療に効果が見られない時、患者が代替治療に向ける想いは強い。 調査によると、代替治療の使用によって生活の質が上がると期待する割合は74%。 71%は免疫システムが向上すると考え、62%は生存期間が長引くと期待する。がん 自体が治ると考えている割合も37%あった。

ハーブによる代替医療の際、注意事項が指摘

だが、その一方で代替治療を使用している事実を主治医に告げない傾向があることで、 関係者からの懸念の声が高まっている。

1997年から98年にかけて行われた、乳がんや首、前立腺、リンパ腺がん患者を対象に した調査によると、代替治療の使用事実を医師に告げない割合が60%に上った。専門 家は、ギンコビロバ(イチョウ葉)やビタミンEの多量投与などは出血を引き起こす可能性 があり、また大豆、朝鮮人参、レッドクローバーなどもエストロゲン刺激作用を持つことか ら乳がんなどある種のがん患者の使用に対して警告を発している。

さらに、化学療法と相互作用を起こし思わぬ副作用を引き起こす恐れが指摘されている ハーブもあるため、利用に関しては必ず医師と相談するよう関係者は警告する。

心と体の関連性が重視、祈り療法が最近注目

代替治療には、ハーブ、ビタミン類を始めとし様々な形があるが、心と体の関連性が重 視されるようになり最近かなり注目を受けているのが「祈り」。医学校の中には、スピリ チュアリティや宗教のコースを設置するところが増えてきた。

Journal of Gerontology誌が掲載したノースカロライナの研究では、65歳以上のクリスチャ ン4千人に対し、健康問題と祈りを行っている、瞑想をする、聖書を読むといったカテゴ リーについて質問した。これによると、祈りをめったにあるいは全く捧げたことがないと答 えたグループは、6年間の調査期間中に死亡した割合が50%高かった。

このように祈りの有効性についての研究報告は続々と発表されているが、一方で「研究 自体が信頼できるものではない」「クェーカー、ローマンカソリックなど宗派での違いを問 題にしていない」など研究への問題点を指摘する声も多く上がっており、医師が「祈り」 を処方するのは時期尚早と警告されている。

日本における代替医療の現状〜取り組みの遅れ、医療危機の認識不足が指摘

一方、日本における代替療法への取り組み状況はどうか。 6月2、3、4日の3日間、東京女子医科大学弥生記念講堂で、日本における代替医療の 推進団体として知られる日本代替相補伝統医療連合会議(JACT)の第4回大会が開催 された。

その中で、JACT渥美理事長は日本の代替医療の取り組みの遅れを指摘。「昨年後半 より今年4月末まで、韓国のソウル、米国のアリゾナ、ドイツのミュンヘン、ハワイにおいて、 CAMに関する国際会議が行われたが、この1年の間に、世界のCAMをめぐる状況は急 激に変化している。欧米の各地においてCAMに対する研究は急速に進み、臨床応用は 普及し、発展しつつあり、その医療および経済へのインパクトの影響はきわめて大きい。 西洋医療とCAMとを統合する医療の流れは、奔流となり、国民運動に発展し、医療革命 となりつつある」と述べた。

さらに、そうした世界の動きは、「米国の生命保険、病院チェーン、製薬などの企業は CAMを旗印に、わが国に進出を企てており、わが国の医療体制は、外圧により内部崩 壊をきたすと考えられる」と医療危機の認識不足を指摘した。

日本は米国と違い、保険制度が完備していることもあり、代替医療が国民の間で急速 に浸透していくという状況は考えにくいが、一方で、近年、医療不信、薬剤の副作用不安 などが手伝い、代替医療への関心および利用人口は確実に高まってきているのも事実。 患者が自身に適正な医療機関を選択する傾向も強まりつつあり、医療従事者はそうした 時流に合わせた形で対応していかなければ経営に支障をきたしかねないという状況も生 じてきている。

従来の西洋医療を機軸とした押し付けの医療では通用しなくなってきており、「患者主 導の医療」という構図が出来つつある。

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