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アンチエイジング、「低カロリー食」と「酸化ストレス」がカギ
〜生命科学シンポジウム「食と医科学、そして健康長寿」

2009年12月8日(火)、慶応義塾大学三田キャンパスで、慶応義塾・生命科学シンポジウム「食と医科学、そして健康長寿」が開催された。老化に活性酸素による遺伝子のダメージが関わることから、低カロリー食がアンチエイジングに奏効することが報告された。

摂取カロリー、通常の65%〜70%で寿命が延び若々しく(ラット実験)

食事の摂取カロリー制限が老化防止につながる――。
坪田一男教授(慶応義塾大学医学部眼科学教室)によると、アンチエイジング(抗老化)に、「カロリーリストリクション」(別称:カロリス)が大きく関与しているという。

「カロリス」とは、食事の摂取カロリーを制限すること。マウス実験で、タンパク質や脂質、炭水化物、ビタミン・ミネラルなど栄養素を確保した上、総摂取カロリーを通常の65%〜70%にしたところ、寿命が延び、全体の印象も若々しくなったことが報告されているという。

なぜ、「低カロリー食」で、アンチエイジングがもたらされるのか。
坪田氏によると、カロリーの摂取制限により、遺伝子を守り細胞の寿命を伸ばそうとする酵素の活性化が考えられるという。

「低カロリー食は寿命を延ばす」といえるが、実際に、平均寿命が23ケ月、最長でも33ケ月しか生きられないネズミに30%ほどカロリーカットの食餌制限をしたところ、平均寿命が1年くらい延びた、という報告もある。

活性酸素で遺伝子がダメージ

また、カロリー摂取量を減らしたネズミは他のネズミと比べ、50%も長く生きたという報告もある(Science誌'99年/8月号)。研究では、30ヶ月間、栄養素はそのままでカロリーのみ減少させた餌を与えたネズミと、カロリーも栄養素も正常のままのネズミのグループとを比較した。

ネズミの筋肉の6,347種の遺伝子の内100種以上が年齢により、活動が活発化したり低下したりすることが判っている。研究では、正常に餌を摂取したネズミは活性酸素により遺伝子がダメージを受けていたが、低カロリーのネズミの場合、遺伝子が活発に働き続けていたという。ネズミの筋肉におけるこうした遺伝子の変化は、脳や心臓においても同様であると推定されるという。

「カロリー制限すると老化の速度が遅くなるという」のは、活性酸素による遺伝子損傷が軽減されるためと、言い換えることができる。 野菜・果物にはビタミンA,C,Eに加え、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチンなどの抗酸化物質が含まれているが、こうした野菜・果物を中心とした低カロリー食では、通常食と比べ、活性酸素の発生が少ない。「酸化ストレス」によるが遺伝子損傷の軽減のため、老化の速度が遅くなることが考えられる。 ちなみに、禅宗の僧侶の長寿はよく知られるが、1,800キロカロリーくらいしか摂らないといわれる。

「低カロリー食」による活性酸素の軽減、疾患の治癒にも貢献

「低カロリー食」による活性酸素を軽減は、さまざまな疾患の治癒にも関与する。赤毛ザルに「低カロリー食」を与えると血圧、血糖値が低くなることも報告されている。

食事の量を少なめに抑えると、アルツハイマー病、パーキンソン病といった老化が原因の脳疾患を予防できるという報告もある(Annals of Neurology誌'98年1月号)。
研究では、ケンタッキー大学の研究グループが、ラットに与える餌を1日ごとにし、通常に餌を与えられたラットと比べ、カロリー摂取を30%少なくした。数ヶ月後、アルツハイマー病と同じ脳変性を起こす毒性物質をラットに投与し、その後の経過を見たところ、餌を制限されたラットは毒物に対する耐性が強く現れたという。
また学習や記憶分野に関連する脳の海馬の変性をあまり受けていなかったという。

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