HOME > バックナンバー > 13/3月記事

米国食品医薬品局(FDA)、遺伝子組み換えサケの承認を検討
遺伝子組み換え「フランケンフィッシュ」魚、誕生の可能性

アメリカで人気沸騰の日本の寿司。ここで一気に、魚の消費量も増えているかと思いきや、実際のところは若干減少傾向にある。魚に含まれる水銀などを問題視する人々が増えつつあるからだ。加えて今、米食品医薬品局(FDA)による遺伝子組み換え(GE)魚の承認検討など不穏な話が持ち上がっている。

環境保護団体ら、「フランケンフィッシュ」魚と揶揄

先頃、アメリカの寿司好きの人々に水をさすニュースが流れた。米食品医薬品局(FDA)が、遺伝子組み換え(GE)サケの承認を検討しているという。マサチューセッツ州のバイオベンチャー企業アクアバウンティ・テクノロジー社が、遺伝子組み換え技術により通常の2倍の速さで成長するGEサケを開発し、FDAに承認申請した。

GEサケは、アトランティックサーモンにキングサーモンの成長ホルモン遺伝子などを組み込んだもので、味は通常のアトランティックサーモンと同じだが、成長が早く、エサの量を25%カットでき養殖の効率が上がるという。

申請を受け、FDAは2010年9月に食べても安全だという評価を下した。さらに昨年12月には環境に大きな影響は与えないという環境影響評価案を公表した。養殖施設から誤まってGEサーモンが逃げても基本的に不妊になるため、自然界で繁殖する可能性は極めて少ないと判断したのだ。

こうした判断への60日間のパブリックコメント期間を経て、食品として承認するかどうかの最終判断を下すことになっていた。ところが、FDAは2月13日、パブリックコメント期間の最終日を2月25日から4月26日まで延期すると発表した。

GEサケを開発した同社にとって延期は朗報とはいえないが、FDAから新たな問題点の指摘はないとして、必ず承認されると強気の姿勢を示している。承認されれば、初の消費者向けGE動物の承認となる。

一方、GE魚を「フランケンフィッシュ」と揶揄し、強い反対を示している食品安全の専門家や環境保護団体らは、延期を歓迎。今後さらに健康や環境へのリスクを訴え、販売される際のGE表示の義務付けを求めていく意向を示している。

遺伝子組み換え食品、栄養素やワクチン添加でイメージ転換図る

遺伝子組み換え食品に関する世界的な論争に中々決着がつかない。GM穀物は害虫に強いため、殺虫剤や除草剤を使わなくて済む、世界の食糧事情は間違いなく改善すると主張してやまない支持派。一方、反対派は、健康や環境への長期的影響が未知数で安全面がクリアーできていないと主張する。

これに対し、開発推進企業は、数年前から、生産者サイドのメリットばかりでなく消費者サイドのメリットをアピールしようと、GM穀物に栄養素や疾患対策のワクチン まで添加した作物の開発を進めている。

議論を横目に、着々と開発進める企業

GM製品に対する風当たりの強いヨーロッパでは、GM食品のラベル表示を求める動きが活発になっている。一方、アメリカでは、ラベル表示は製造会社にコスト的な 負担を負わせるなどとして、進展が遅い。

だが、そうした議論を横目に、GM開発研究は進み、生産されるGM穀物、GM食品は着実に増えている。今やGM穀類として一般的となった穀類は大豆、コーン、サトウキビ、飼料用ビートで、GM穀類の98%は、トップのアメリカを始めとし、カナダ、アルゼンチン、中国で生産。その他、南アフリカ、メキシコ、ブルガリア、ウルグアイ、スペイン、インドネシアなどでも生産されている。

カロチノイド濃度を高めたゴールデンライス

遺伝子組み換えの研究現場では様々な開発が進んでいるが、例えば、ベータカロチンを通常より23倍多く含むゴールデンライスの開発も進んでいる。 WHOの発表によると、発展途上国ではビタミンA欠乏により年間50万人の子どもたちが失明しているという。

こうした栄養不足問題の解消を目指して、ゴールデンライスプロジェクトが世界的に推し進められている。精米にはベータカロチンは含まれず、また玄米でも含有量は少ないといわれるが、新しいゴールデンライスでは、カロチノイド濃度を最大23倍まで上げることができるという。

ゴールデンライスは、スイス連邦工科大学のPotrykus教授、およびドイツ、フライブルグ大学のBeyer教授が共同開発した遺伝子組み換えイネで、スイセンの遺伝子を 組み込んでベータカロチンを算出するよう作られたもの。

米の色が金色であることから、ゴールデンライスと命名されている。Bristol Universityは、キャベツの仲間であるシロイヌナズナで、アラキドン酸(ARA)を多量に含んだ新種を作り上げた。

また、Bristol University研究者グループは、同じくシロイヌナズナに、脂肪酸を作る3つ遺伝子を植え込んだ。2つの遺伝子は藻から、また3つ目は真菌からのもの だった。これによって、オメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸を生成し、心臓の健康維持といった健康利益を与えると考えられている。

B型肝炎ワクチン組み込んだ遺伝子組み換えポテトも登場

また、B型肝炎ワクチンを持つ遺伝子組み換えポテトが登場している。アメリカではB型肝炎用ワクチン接種プログラムが普及して以来、感染患者が減少傾向にあるが、 世界的には3億5000万人以上の患者がいると、専門家は見込んでいる。一部の発展途上国では、接種用の冷蔵ワクチンを購入する余裕がない。

そうした現状に対し、Arizona State University研究者グループは、B型肝炎表面抗原の遺伝子を持つポテト開発に成功した。さらに、患者42人を対象にテストを行 ったが、このポテトを食べたグループで、被験者の60%に肝炎に対する免疫性が認められたという。

研究者グループは、今後は、ポテトだけでなく、トマトなど別の食品に対しても研究を行うことを表明している。また、疾患もB型肝炎のほかにテング熱やマラリアなども対象としていくとも述べている。

GM植物の花粉が有機栽培農産物に混入懸念

GM食品が確実に生産量を増している現状に、環境に対して脅威を感じる人々は多い。その一つがオーガニック業界である。GM植物の花粉によって有機栽培農産物にGMが 混入するという懸念があり、2004年に発表された調査でもその点を指摘している。

USCの環境プログラムが行ったパイロット調査では、大豆、コーン、カノーラなどの中でGM要素を含まない穀類の種に、GM穀類が混入しているかどうかを調べた。 この結果、ある研究所では6種類の穀類のうち全種類でGMの要素が認められたという。

その一方で、オーガニック食品に見られるGMO食品混入は最低限であるという報告も発表されている。アイオワ州を本拠とするGnetic IDは、オーガニックコーンおよび 大豆製品を検査したところ、GM材料が認められたのは0.1%かそれ以下だと指摘した。また、大豆よりコーンに多くGMが見られたが、それでもその値は低いものだったという。

ヘルスネットメディア
.

Copyright(C)GRAPHIC ARTS CO.,LTD. All rights reserved.