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医療サイドで「栄養療法(オーソモレキュラー)」を推進
成長戦略「健康長寿社会実現」の一貫、高騰する医療費に歯止め

2014年8月31日(日)、有楽町朝日ホールで、「何をどう食べるか。あなたと家族の未来が決まる―」をテーマに、「オーソモレキュラー.jp」オープニング記念講演会が開催。高騰する医療費の抑制が叫ばれる中、医療サイドにおけるオーソモレキュラーという栄養療法の取り組みを医師が報告した。

2013年医療費は39兆円超え、医療費の抑制が急務

2013年の医療費は39兆円を超え、11年連続で過去最高を更新している。高騰はとどまるところを知らず、遠からず50兆円にもという悲壮的な見方もある。

現在、政府が成長戦略の一貫として検討を進める健康食品の機能性表示についても、こうした医療費の高騰を抑制したいとの思惑があってのことだ。

今年6月24日の閣議では「医療機関でのサプリメント販売が可能」が明確化、さらにこれの周知が決められた。実は、自治体によってはこれが禁止されているところもあった。 当日、「栄養療法で変わる日本の医療」と題した講演での姫野友美氏(ひめのともみクリニック院長)は、その点を指摘した。

政府は成長戦略で「健康長寿社会の実現」を打ち出しているが、そのためにも、医療機関が患者の予防意識のニーズに応えられるよう望んでいるという。

今後、医療サイドとしても政府のこうした要望に応えたいところだが、それには医療従事者が栄養療法をどれほど熟知しているかということにもかかってくる。そこで、今多くの医師らが注目しているのがオーソモレキュラーという栄養療法である。

低糖質・高タンパクが基本の栄養療法

オーソモレキュラーという言葉は、アメリカで、ノーベル平和賞とノーベル化学賞の2つを受賞したことで知られる、生化学者のライナス・ポーリング博士による造語である。

オーソ(Ortho)は「(乱れたところを)整える、直す」。モレキュラー(Molecule)は「治療法、医療」の意。オーソモレキュラー療法は日本では「分子整合栄養医学」とも呼ばれている。

1968年にポーリング博士が科学雑誌『サイエンス』で初めてこの言葉を初めて使用し、その後欧米を中心にオーソモレキュラー療法が実施されるようになった。

ポーリング博士はビタミンCの研究者で、「ビタミンCは風邪に効果がある」とし、Cの大量投与で一大旋風を巻き起こした人物としてもよく知られる。

オーソモレキュラー療法を一言でいうと、「低糖質、高タンパクが基本、加えてトランス脂肪酸やリノール酸といった悪い油を減らし良い油を摂ることなどを大切にする食事療法」。当日、「栄養療法は、医者と患者の関係を変える」と題した講演の中で、新宿溝口クリニック院長の溝口 徹氏はオーソモレキュラーをそのように解説した。

オーソモレキュラーを海外で普及させた立役者としてもう一人、ホッファー博士(精神科医)という人物がいる。博士は91歳で亡くなるが、溝口氏は、博士から死の直前までいろいろな指導や情報を得ていた。博士は日本でオーソモレキュラーが広まることを願っていたという。

溝口氏は、2003年に日本初の栄養療法専門クリニックを新宿にオープンし、その後、オーソモレキュラーを全国の医師に紹介するなどの活動を行っている。

溝口氏は、オーソモレキュラー.jpに属す。同団体は、医師や医療従事者で構成された一般社団法人と株式会社からなる組織で、現在オーソモレキュラーを指導できる病院施設は全国に800ほどにまで広がっているという。

薬物療法の限界を多くの人が感じている

医療サイドで、オーソモレキュラーのような栄養療法を注目するようになった背景には薬物療法の限界を多くの人が感じていることがあるからではないか。前述の姫野氏はそう指摘する。

現実の医療では、症状が良くならなければ、薬剤の多剤併用となり、それで副作用が出るという悪循環を抱えている。

薬物に頼る治療法に国も限界を感じていることは明らかで、今年の診療報酬の改訂では、特にうつや睡眠薬などの薬剤を多種類処方すると減点されるようになった。そのため、医師たちも頻繁に、「どうしたら薬を減らせるのか」という勉強会を開くようになっているという。

これまで国も栄養療法を軽視していた

病気の改善のためには治療と予防がセットで行われるべきだが、これまで医療サイドでは予防のための栄養療法の指導にあまり力を入れてこなかった。

これについては、政府の側にも問題があると姫野氏は指摘する。というのも、これまで国そのものが栄養療法を重視してこなかったということがある。

入院患者以外に栄養指導をする場合「外来栄養食事指導料」として診療報酬が130点(約1300円)付くが、これは10年据え置きのままで、医者にとっては「儲からない」ものの1つだった。 また、「入院栄養食事指導」についても130点だったという。
これが2006年頃から、薬剤だけでなく栄養を考えることも必要と国が考え始めたという。

日本では、今やテレビをつければ医師が登場していろいろな情報を発信している。これだけ健康番組が人気という国も珍しい。

栄養療法については、あらゆるメディアで「詳しくは医師に相談するように」と啓蒙するが、実際には栄養療法で診断できない、あるいは栄養の分析に目がいかない医師も少なくない、と溝口氏は指摘する。
医療費の高騰を抑制するためにも、早急なオーソモレキュラーの普及が望まれる。

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