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糖尿病や心疾患リスクの低下まで、穀物をめぐる最新情報
遺伝子組み換え、反発からオーガニック人気急浮上

血圧降下作用や心疾患のリスク低下、さらに糖尿病からがん予防まで、未精白穀類の健康への有用性が世界的に注目されている。その一方で、穀物の遺伝子組み換え栽培が水面下で進行、反発を招いている。穀物をめぐる最新情報を報告する。

未精白穀類の摂取、糖尿病のリスクを低下(10年間調査)

現在、日本で糖尿病の発症者はおよそ700万人。2010年には1,080万人に膨れ上がるといわれる。日本ばかりではない。世界的にも増加傾向にある。2010年には、世界中で2億2千100万人が発症すると予測されている。

今、世界で、栄養不良から疾患をかかえる人々もいれば、飽食にも関わらず「栄養のアンバランスから生じた代謝病」で悩む人々もいる。そうした代謝病の代表格である糖尿病。糖尿病は運動など日頃からのケアが大切だが、「食」においては、未精白穀類が予防素材として最も期待されている。
未精白穀類は血糖値の上昇を緩慢にする食物繊維や糖尿病の予防に貢献する亜鉛やクロムなどの微量元素を多く含むことから、糖尿病対策に良いことがこれまでにも数多く報告されてきた。

最近の研究では、フィンランドの研究グループが、40歳から69歳の男女4,300人の食習慣を10年にわたって調べたところ、シリアル、玄米、オオムギ、オートミールのような食物繊維が豊富な全穀類を最も多く摂ったグループは、II型(インスリン非依存)糖尿病に罹る割合が35%低いことが分かったと報告している(American Journal of Clinical Nutrition'03/3月号)。

他にも、ボストンの研究グループが未精白穀類のインスリンへおよぼす影響について10年にわたる分析調査を発表しているが、38歳から63歳までの女性75,000人の1984年から10年間の追跡調査したところ、全粒穀物摂取の最も多い女性の成人型糖尿病リスクは38%と低く、最も少ない女性の場合はリスクが31%高くなっていたという。(American Journal of Public Health誌'00/9月号)。

未精白穀類の効用は糖尿病ばかりではない。血圧降下作用や卒中のリスク低下なども報告されている。ハーバード大学の研究グループが行ったNurses'Health Studyで、1984年から7万5千521人の女性を調べたところ、未精白穀類を最も多く摂取した(1日2.7杯分)グループの20%については、摂取が最も少なかった(1日8分の1杯分)グループに比べ、虚血性卒中の危険性が43%低かったという。

米国で静かな雑穀ブーム

米国では、こうした未精白穀類の各種疾患への有効性が知れ渡るにつれ、ここ数年静かな雑穀ブームが起きている。玄米をはじめ、全粒粉やライ麦、雑穀を使ったパン、シリアル、パスタが登場し、関心を呼んでいる。食物繊維やビタミン・ミネラルを豊富に含み、コレステロール低下や高血圧の改善、大腸がん予防にも役立つとあってそれぞれ評判は上々だ。

以前行われたギャラップ世論調査でも、70%強が「穀類は、ダイエット、心臓病予防、がん予防の効果がある」と、その有効性を認識していることが明らかとなっている。

栄養素添加の遺伝子組み換え穀類

ただ、一方で懸念材料として浮上しているのが、遺伝子組み換え技術による穀物栽培。遺伝子組み換え(GM)作物の開発企業は、一般消費者からのGM作物に対する逆風をかわすために、これまでの生産者メリット優先の立場から消費者サイドのメリット優先を考慮し、遺伝子組み換えによる「栄養強化」という側面を打ち出してきた。その中で、遺伝子組み換え技術により、ベーター・カロチンなどのカロチノイドを豊富に含んだ穀類「ゴールデンライス」なども開発している。

しかしながら、やはり長期の「食」経験の不足からか、商品化前からバッシングを受けるなど物議をかもしている。米国では、オーガニック(有機)素材の人気がここ数年高く、2桁台の伸びを示しているがベースにはこうしたGM食品への反発があるためとみられている。

日本での穀類の遺伝子組み換え栽培は断念

ところで、穀類といえば、日本の伝統食素材だが、世界の長寿ナンバーワンは穀類と大豆の効用によってもたらされたものとみられている。ちなみに、日本では大豆の9割以上を輸入に頼らざるを得ない状況で、すでに食卓での遺伝子組み換え大豆使用の疑いは免れない。

そうした中、6年ほど前からコメの遺伝子組み換え栽培がモンサント社と愛知県農業総合試験場と共同で進められ、「祭り晴」という品種へのラウンドアップ耐性遺伝子の導入が試みられていた。

しかしながら、消費者団体を中心とした活発な署名運動が展開されたため、昨年12月5日に開かれた愛知県議会で、「6年間の研究の結果、除草剤抵抗性遺伝子を導入した有望な系統を作出できる見通しがたったので、平成15年3月末日をもってモンサント社との共同研究を終了する」、また「作出した遺伝子組み換え稲については、消費者等に不安感もあり、商品化に必要な厚生労働省への安全性審査の申請は行わない」と愛知県農林水産部長が答弁、除草剤耐性稲の開発が中止されることが明らかになった。

日本人の主食であり、長寿体質を作ってきた穀類。糖尿病をはじめとする各種疾患への改善作用が期待される中、穀類の機能性を再び見直す時期がきているようだ。

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