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腸内細菌叢、肥満と深く関わっている
〜第六の臓器「腸内細菌叢」の機能に迫る

2019年4月5日(金)、TKP東京駅八重洲カンファレンスセンターにて「バイオインダストリー奨励賞 受賞者企画セミナー もう一つの臓器、腸内細菌叢の機能に迫る」が開催された。この中で、金 倫基氏(慶應義塾大学薬学部創薬研究センター 教授)が、腸内細菌が肥満に与える影響ついて講演した。

ヒトと腸内細菌、相利共生関係

この数十年の間に、肥満が急激に増加している。世界の肥満人口は2016年時点で、6億5千万人以上と報告され、1975年以降3倍に増加している。

肥満はさまざまな疾病の温床となる。健康維持の基本は過体重にならない、つまり肥満にならないことだといえる。

日本だけでなく世界で肥満が増加しているが、原因として、運動不足によるエネルギーバランスの崩れ、食物繊維が不足した食事の摂取などが考えられる。

食物繊維の不足は腸内環境に大きく関わる。そのため、腸内細菌叢の変化や分析が肥満予防の鍵となるのではないかと注目されている。

私たちヒトは腸内細菌と相利共生関係にある。私たちが腸内細菌に食べ物を与えると、腸内細菌は免疫系の発達やビタミンを供給してくれる。

腸内細菌叢と肥満との関係

一方、腸内細菌の一つであるカンジダ菌が増えるとアレルギー性の炎症が悪化するなど、疾患を高める菌の存在も解明されてきている。

そして近年では、腸内細菌叢が肥満と深く関わっていることも示唆されるようになってきた。

例えば、無菌マウスは通常マウスと比べて肥満になりにくい。また、無菌マウスに肥満マウスの腸内細菌を移植すると肥満になるといったことが報告されている。

また、ヒトの腸内でも、肥満者の腸内にはバクテロイデス属菌が少なく、フィルミクテス門菌が多いといった傾向が報告されている。

動物実験でも、Akkermansia muciniphilaやBacteroides acidifaciensの投与が肥満を改善することや、短鎖脂肪酸受容体のGPR43の刺激が脂肪細胞の肥大化を抑制することなどが明らかとなっている。

とはいえ、腸内細菌が肥満に与える影響の全容についてはまだ不明な点が多い。そのため金氏らは抗肥満作用を示す新たな腸内細菌関連代謝物を同定する研究を行なっている。

ラクトバチルス、肥満を抑制する代謝物を産出

2型糖尿病の治療薬として知られる「アカルボース(四糖の一つ)」は、α-グルコシターゼの阻害薬であり、小腸から多糖の吸収を抑制し、抗肥満や血糖値の急激な上昇を抑制する。

このアカルボースは腸内細菌叢をどのような変化を与えているのか、あるいは与えていないのか、金氏らのグループは調査を行なった。

通常食を与えたマウスと高脂肪食を与えたマウスのそれぞれにアカルボースを与えたところ、高脂肪食を与えたマウスでも体重の増加が抑制され、耐糖能も優位に改善された。つまりアカルボースによって抗肥満作用が発揮された。

ではそれぞれのマウスに抗生物質を投与した場合、この薬の効果はどのような変化を起こすのか。つまり、抗生物質で腸内細菌叢に変化を与え、アカルボースを投与した場合はどうか。

結果、抗生物質の中でもバンコマイシンを与えたマウスにさらにアカルボースを投与した肥満マウスは、抗肥満作用がさらに高まった。

肥満抵抗を示したマウスの糞便を解析すると、ラクトバチルスが非常に増えていることが分かった。つまり、アカルボースの投与によって、ラクトバチルスが増え、ラクトバチルスが肥満を抑制する代謝物を産出していることが推測された。

これにより、抗生物質のバンコマイシンで腸内細菌を意図的に減少させたマウスの腸内であっても、アカルボースを投与することでラクトバチルスが増殖し、ラクトバチルスが肥満を抑制する代謝物を多く産生している可能性が考えられた。

アレルギーなど、炎症抑制に効く腸内細菌の解明も

また、アカルボース投与で肥満抵抗性を示したマウスと、ラクトバチルスだけを投与し定着させたマウスの両者からはいずれも糞便中に、メタボライトA(特許関係のため仮名)という共通の物質が見出された。

これはラクトバチルスの代謝産物であり、抗肥満作用を発揮する可能性が高い、と金氏。実際、メタボライトAだけを普通マウスに投与しても、抗肥満作用が発揮されることも確認された。

今回の研究により、アカルボースの腸内細菌叢へ与える影響と、それによって産生される腸内細菌の代謝産物の特定に至った。

腸内細菌叢は「第六の臓器」とも言われまだまだ解明されていない部分が多い。今後は、肥満だけでなくアレルギーや様々な炎症抑制などに有効に働く腸内細菌をそれぞれ発見し、そのメカニズムを解析していきたい、と金氏はまとめた。

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