HOME > バックナンバー > 19/7月記事

今、米国では「腸」と「良い炭水化物」がトレンド
〜全粒穀物(炭水化物)で腸内環境を整える

2019年7月3日〜5日、パシフィコ横浜で、「第4回ウエルネスフードジャパン」が開催された。同展示会セミナーで、西沢 邦浩氏(日経BP総研メディカル・ヘルスラボ客員研究員)が「疾病リスク低下のエビデンス続出!今、世界中の注目を集める全粒穀物の魅力」と題して講演した。

「糖質制限」より、まず「腸内環境の重視」を

数年前より、日本で糖質制限や低炭水化物食(low-carb)といった食事法がマスメディアで数多く取り上げられている。

背景にあるのが、ダイエットニーズや年々増加する糖尿病への対策。穀物(炭水化物)摂取で血糖値が上昇し、糖尿病発症のリスクが高まる。そのため、糖質制限をというわけだ。

ほとんどのメディアが説く糖質制限は、「穀物を全く摂らず、肉や魚、乳製品を沢山食べる」というもの。が、はたしてそれで健康に問題はないのか。

講演で、西沢氏は「米を中心とした炭水化物を制限した糖質制限は、一時的な体重減少にはつながる」とした。しかしながら、「特に日本人の場合、他の民族に比べ、炭水化物を餌にする腸内細菌の割合が多い。米を制限することは血糖値には良くても、腸内細菌には悪影響という研究データも増えている」と警鐘を鳴らした。

控えるべきは精白米のような炭水化物であり、全粒穀物のような食物繊維やミネラルを豊富に含むものは積極的に摂る、ことを勧めた。

穀物を全く摂らず、肉や魚を摂るという蛋白質過多の食事は腸内にウエルッシュ菌など悪玉菌を増やして腸内フローラを悪化させ、免疫力の低下から、さまざまな生活習慣病を誘発する恐れがある。

そのため、「糖質制限」よりまず「腸内環境を重視」することが大切、今米国では、「腸」と「良い炭水化物」がトレンドで、全粒雑穀の食品が市場を賑わせている、と西沢氏は主張する。

糖質制限、米国から10年遅れて日本で流行

現在、日本人の1/2が糖質制限を行っているといわれる。炭水化物の摂取は血糖値を上昇させ、糖尿病の発症リスクを高める。低炭水化物食はダイエットにも有効で糖質制限のブームに火がついた。

そうした「ダイエットや健康のために糖質制限を」という理論。実は、すでに米国で1974年にロバート・アトキンス博士が、いわゆるアトキンス式ダイエットとして説いていた。

すなわち「ダイエットしたいなら、ステーキ、ベーコン、チーズ、バターといったたんぱく質を含んだフードをたくさん食べ、果物や穀類といった炭水化物の類いは極力控える」「パン、パスタ、ライス、砂糖、ケーキや果物を食べず、代わりに、牛肉、豚肉、チキン、魚、ベーコン、バターなど良質のたんぱく質を含んだ食品をたくさん食べる」というものだ。

こうした「低炭水化物・高たんぱく質ダイエット」を提唱した、アトキンス博士の著書「Dr. Atkins' New Diet Revolution」は、2003年の文庫本の売り上げで2位(ロサンゼルス・タイムス紙調べ)に付き、全米に一大ブームをもたらした。

炭水化物を摂ると体内で糖に分解され、血液中に入り、血糖となる。血糖値が急激に上昇するとすい臓から大量のインスリンが分泌される。炭水化物の過剰摂取で行き場のなくなった糖質は脂肪細胞に蓄積されやすくなる。

そのため、アトキンス博士は、インスリンの分泌をできる限り抑えるため炭水化物を控え、代わりに、満腹中枢を充足し食欲を抑え、体脂肪を燃やし筋肉の増強にも役立つたんぱく質をたくさん摂るべきであると主張した。

日本で糖質制限がメディアにより騒がれるようになったのが2013年頃。米国から10年ほど遅れて、日本にアトキンス式ダイエットが上陸する恰好となった。

糖質制限食は時代遅れ、米国は「穀物」推奨へ

戦後、日本は米国から小麦を押し付けられ、日本人の食卓にパン食が普及した。そして今、米の摂取を控え肉食を薦める食事法がメディアで喧伝され、米離れに拍車がかかっている。

その裏で、米国はというと、日本とは真逆で、むしろ積極的に「穀物の摂取」を推奨している。日本人の米を主食とし、大豆や魚の副食とした食事に健康的価値を見出し「和食」への関心を深めている。

ちなみに、2003年頃、米国で流行った「低炭水化物・高たんぱく質摂取」のアトキンス式ダイエットはその後どうなったか。

多くの専門家がアトキンス式ダイエットによる体脂肪減少について効果は認めていた。しかしながら、それは短期的な効果であり、短期間で体重を急激に落とせるのは、炭水化物を排出しようと利尿効果が高まり、体内から水分が放出されるため。しかしその分、腎臓にかかる負担が大きくなるとした。

「長年にわたって脂肪分の高い肉やベーコンを食べ続ければ、当然、心臓疾患、糖尿病、脳卒中、ある種の癌に罹るリスクが高くなる」とアトキンス式ダイエットによる各種疾患への罹患リスクを懸念した。

そして、ロバート・アトキンス博士の死去。ブーム最中の2003年4月、72歳でアトキンス博士は亡くなった。ちなみに博士の死因は転倒した際の頭部打撲で「ダイエットとは一切関係ない」と関係者らは口をそろえている。

低炭水化物食ブーム終焉、全穀物摂取へ

米国での健康商材のブームの盛衰が分かるのがナチュラルプロダクツの見本市。2004年に開催された、アメリカ最大規模の業者向け自然健康商品見本市「第23回ナチュラル・プロダクツエキスポウエスト2004」では、低炭水化物(Low-Carb)、リキッド、オーガニックといった商材が多く出展された。

とくに、アトキンス博士が長年にわたり提唱してきた低炭水化物ダイエットをベースにしたフード類、フード感覚で摂取できるリキッドタイプのサプリメントなど、約260展示ブースがLow-Carb関連を展示し、どこを見ても、Low-Carb関連商品が目を引いた。

ところが、翌2005年開催の同見本市では昨年話題のLow-Cab製品に代わり、全穀物商品が最も注目され、展示ブースには全穀物をベースにした商品がずらりと並んだ。

なぜ、2005年の見本市で、低炭水化物商品に代わり、全穀物商品が突出して目立つようになったのか。実はその年、「2005年度版アメリカ人のための栄養ガイドライン」が発表されていたことが多いに影響していた。

2005年版アメリカ人栄養ガイドライン〜穀物摂取を重視

米国では、過食や脂肪分の摂り過ぎで肥満が増え、それに伴い引き起こされる生活習慣病の対策が急務となっていた。

そうした肥満や高血圧、動脈硬化といった生活習慣病を防ぎ、より健康でいるための基準を示した「2005年版アメリカ人のための栄養ガイドライン」が1月、米国保健社会福祉局から発表された。

この栄養ガイドラインは新たな研究データや現状を踏まえ5年ごとに改訂されるもので、今回は、「摂取カロリー削減」「くだもの・野菜・全穀物の摂取奨励」「定期的な運動」の3点が大きな柱になっていた。

ガイドラインでは、生活習慣病を防ぐために、カロリーの過剰摂取を避け、脂肪分を抑える一方で、植物繊維や体に良い栄養素を豊富に含んだ果物、野菜、全穀物の摂取量を増やすことを推奨していた。

全穀物は1日当たり3オンス以上、穀類の総摂取量のうち、少なくとも半分は全穀物で摂るよう推奨していた。

また、脂肪分については、1日の総摂取カロリーの20〜35%に抑え、動脈硬化や糖尿病の原因といわれるトランス脂肪酸を避け、オメガ3系脂肪酸を含む魚、木の実、ベジタブルオイルから摂ることが望ましいとした。

とくに、サケ、マス、ニシンといった、動脈硬化を防ぐ作用があるとされるオメガ3系脂肪酸が含まれる魚の摂取を増やすよう奨励、1週間に8オンスの摂取を求めていた。

2005年以降、大手食品メーカーが全穀物関連商品の販売に本腰

2005年ガイドラインで、米国で初めて全穀物を毎日食べるよう推奨し、全穀物マーケットが活気づいた。

2004年に大旋風を巻き起こした「低炭水化物ダイエット」は下火になり、2005年は「全穀物イヤー」とまで言われるようになった。

アトキンス式ダイエットのような極端な糖質制限食でなく、「low-carb(ローカーブ)」から「slow-carb(スローカーブ)」が米国民の合い言葉となった。

ブームを巻き起こした「ローカーブ」の低炭水化物食はビタミン不足などの健康的弊害が指摘され、グリセミック指数やエネルギー調整に関わる血糖値の全体的なバランスを考えた、「スローカーブ」の食生活へと人々の関心は移っていった。

こうして2004年、米国で低炭水化物食ブームは終わり、2005年以降、米国は積極的な穀物摂取へと舵をきった。穀物、魚、大豆といった日本の「和食」の健康効果に関心を寄せ、さらにその後、腸内環境の健全化からプロバイオティクスへの関心を深め、マーケットサイズも年々拡大している。

今、米国では、免疫機能の要である「腸」の健康を重要視し、精白された炭水化物ではなく、全粒雑穀のような「良い炭水化物」を摂ることがトレンドとなっている。

【 ヘルスネットメディア関連記事 】
腸内環境の整備で免疫強化、高まるプロバイオティクス需要

ヘルスネットメディア

Copyright(C)GRAPHIC ARTS CO.,LTD. All rights reserved.