11月15日、ドナルド・トランプ次期米国大統領は自身が立ち上げたソーシャルメディア、Truth Socialでロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(第35代米国大統領ジョン・F ・ケネディの甥)のHHS長官への任命を記した。
「ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を米国保健福祉省(HHS)長官に任命することを発表できることを大変嬉しく思います。長い間、アメリカ国民は、公衆衛生に関して欺瞞や誤報、偽情報を行ってきた産業食品複合体や製薬会社によって圧迫されてきました。すべてのアメリカ国民の安全と健康は、どの政権においても最も重要な役割であり、HHSは有害な化学物質、汚染物質、農薬、医薬品、食品添加物などから国民を守るために重要な役割を果たすでしょう。ケネディ氏は、これらの機関を「最高水準の科学研究」の伝統と透明性の模範へと回帰させ、慢性疾患の流行を終わらせ、「アメリカを再び偉大で健康な国にする!」という目標を実現するでしょう!」
出典:https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/113483366471340943
ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、RFK Jr)はこれまで製薬業界や政府の健康政策に対して批判的な立場を取ってきた。HHSの長官就任には上院の承認が必要だが、正式に就任が決まれば、2025年以降、米国におけるこれまでのワクチン政策など健康・医療行政全般の大幅な見直しが予測される。
アメリカ国内では、RFK Jr氏のHHS長官指名について、既存の健康・医療政策に変革をもたらすとの期待の声が挙がる一方で、RFK Jr氏の過去のワクチンに対する懐疑的な発言から公衆衛生政策に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念もあるなど、賛否両論分れている。
疾病予防管理センター(CDC)の疫学調査や感染症対策など幅広く公衆衛生を管轄
HHSは米国における健康・医療政策の統括的な執行機関としての役割を果たし、米国での健康政策の策定や実施、医療プログラムの監督、公衆衛生危機への対応、医学研究の方向性決定、社会福祉サービスの管理といった権限を有する。
具体的には、健康に関する科学的知見の収集や普及、国立衛生研究所(NIH)を通じた医学研究の推進、疾病予防管理センター(CDC)による疫学調査と感染症対策、パンデミックや自然災害時の医療支援など幅広い公衆衛生を管轄する。
先のトランプ氏の指名を受け、RFK Jr氏は「HHSの80,000人以上の職員と共に、企業の影響から解放し、アメリカ国民が再び世界で最も健康的な人々になるよう努めたい」と述べた。また、「透明性を高め、科学的根拠に基づいた政策を実現し、国民が自分と家族のために情報に基づいた選択をできるようにする」とした。
世界でテレビでの製薬広告を許可している国はわずか2か国だけ
RFK Jr氏の発言はなにかと物議をかもしがちで、次のようにも話している。「世界でテレビでの製薬広告を許可している国はわずか2か国だけ。アメリカは病気の発生率が最も高く、薬の消費量と価格も世界で最も高い」。RFK Jr氏は、トランプ次期大統領に対し、製薬会社がテレビ広告を出すことを禁止するよう提案する予定だとして、製薬会社の株価が急落するという事態が生じたという(ロイター通信)。
米国に限らず、日本の大手TV・新聞メディアも、RFK Jr氏を「ワクチン否定の陰謀論者」とレッテル貼りをしているが、今後も彼が反ワクチンを貫くことは間違いないであろう。
彼のワクチンに関する著作では、全米で100万部超えの大ベストセラーとなった『The Real Anthony Fauci』(2021年)がよく知られる。この中で、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長が製薬業界と結託していると批判、COVID-19パンデミックへの対応やワクチン推進に対する疑問を投げかけた。
また、『Vax-Unvax』(2023年)では、ワクチン接種者と非接種者の健康状態を比較した統計で、ワクチン接種が個人や公衆衛生に与える影響について検討している。
ワクチンによる自閉症や慢性疾患の増加
こうした一連の著作について、RFK Jr氏は科学的根拠に基づくとするが、一方で、データの解釈に偏りがあると一部の科学者や医療専門家から指摘も受けている。
2014年に出版された『Thimerosal』では、ワクチンに含まれる保存料「チメロサール」(エチル水銀の一種)が自閉症や神経障害に関連している可能性を主張。RFK Jr氏は「子どもに義務づけられている72種類のワクチンのうち、安全性が確認されたものは一つない」と指摘した。これに対し、アンソニー・ファウチ氏は虚言と非難したが、1年後、ファウチ氏の弁護士は、RFK Jr氏が正しかったと認めている。
RFK Jr氏は加えて次のように言う。「私たちは、72回の注射、16種類のワクチンを接種した。1989年に、アメリカの子供たちの慢性疾患が爆発的に増加した。ADHD、睡眠障害、言語発達遅滞、ASD、自閉症、トゥレット症候群、ナルコレプシー(睡眠発作病)など。自閉症は私の世代では1万人に1人だったが、今では34人に1人になっている」。
RFK Jr氏が正式にHHSの長官に就任した際、米国のワクチン政策ははたしてどのように変わるのか。