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日本のPFAS基準、欧米の200倍を超えるはるかに緩い基準 2025年11月26日、衆議院第二議員会館で、高木基金PFASプロジェクト市民フォーラム「リスク評価の裏側」PFAS"論文差し替え"で見えた「いのちを守る仕組み」を考える、が開催。当日、全国で発覚しているPFAS汚染について、「安全の"裏側"について〜私たちの安全を守る指標価はどう決められたのか〜」をテーマに、日本のPFAS基準が欧米と比べて非常に緩く、リスク評価書の差し替えが行われたことが指摘された。
日本のPFASリスク評価は世界的に大変遅れている
昨年後半より、同プロジェクトは、食品安全委員会の食品健康影響評価の検証を開始。その中で、PFASの健康評価過程において深刻な問題が発覚し、その内容を今年3月に検証レポートとして発表した。
同プロジェクト代表の寺田良一氏によると、昨年6月、食品安全委員会からPFASに関するリスク評価報告書が出されたが、PFASの基準値が欧米の60倍から200倍を超える緩いものになっているという。 こうした基準について、リスク評価書の差し替えが行われたのではないか、日本の評価は世界的な見地でみると大変遅れている、と寺田氏は指摘する。
PFASとはどのような化学物質なのか
PFASは 炭素-フッ素結合を持つ有機化合物のうち、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物の総称で、定義が国や組織で異なる。この定義の違いにより、対象物質数も変わり、700万以上の物質が対象になることもある。こうした非常に多くの化合物を含むグループのことをPFASと呼ぶ。 代表的なPFASに、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)がある。 PFASは強く安定した炭素-フッ素結合で、物理的科学的に安定し、過水分解、光分解、微生物分解、代謝に対する耐性があり、撥水性・撥油性を有する。 こうした特性から産業用途として非常に使いやすく、溶剤、界面活性剤、繊維・紙・プラスチック等の表面処理剤、潤滑剤、泡消火薬剤、半導体原料などに幅広く使われてきた。 PFASの歴史は、1938年にデュポン(Du Pont)社によるPTFE(いわゆるテフロン)の開発から始まる。1940年代にはPFOS、PFOAが開発され、商業生産が開始される。 PFASの代表的な製造会社は3M社、デュポン社だが、1960年代に、米国を中心にPFASの難分解性・生物蓄積性が指摘されるようになり、両社はPFOSとPFOAの動物実験、疫学研究を実施。1999年に米国で、環境中へのPFAS汚染の問題が認知され始め、2000年に米国環境保護庁(EPA)が3M社と協議、同社はPFOS関連製品の生産を段階的に中止するとした。 2002年には、EPAはPFOSの使用・製造の制限についての規制を行い、さらに2006年には、PFOAの自主管理規制を求めた。2020年には長鎖PFCAの使用・製造についても制限し、米国でさらに規制が強まっていく。こうした規制強化から、3M社は2025年末までに全てのPFAS製造から撤退することを発表した。
ちなみに、人が毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量、耐容一日摂取量(TDI)については、日本は2024年6月より、PFOSで20 ng/kg体重/日、PFOAで20ng/kg体重/日とされ、水質基準値はPFOSとPFOAの合計で50ng/Lとされている。 同プロジェクトはこの基準が欧米と比べはるかに緩いことを指摘。米国ではPFOSは日本の200倍厳しく、PFOAでは666倍厳しい基準となっている。また、欧州食品安全機関(EFSA)においても、日本と比べて60倍以上厳しい基準となっている。
なぜ、日本ではPFOS・PFOAの基準値が国際的にもかなり緩いものになっているのか。
日本でのPFASの基準値が策定された経緯について、同プロジェクト事務局長の高橋雅恵氏は以下のように解説した。 まず、文献選定が内閣府から化学物質評価研究機構(CERI)に委託され 、257報の文献が選ばれた。この文献がリスク評価の部門に移り、9回の公開会合が行われ、最終的な評価書は268報になった。 ただ、この268報については、24回の非公開会合の中で、257報中190報が除外、新たに事前選定では低評価で選ばれなかった文献82報が追加、学術文献以外の文献やその他のワーキンググループが独自に探してきた追加分献を含むものであることが分かった。 実際に当初、選択された文献は67報、最重要文献に至っては43報に減っている。こうした文献の差し替えが行われているが、差し替えの根拠が全く国民に示されていない。 この問題は国会でも10回に渡って取り上げられ、3月28日の参議院予算委員会ではPFAS問題のやり直しが問われ、当時の石破総理が「人の安全・健康に関わるため、公開が大事。包み隠すことなく議論を公開していく」と発言。その12日後、全24回の非公開会合の日付と出席者のリストが開示された。
このリストを元に、同プロジェクトでは全24回の非公開会合での食品安全委員会で作成・取得された一切の記録(録音データ、文書、メールを含む)、PFAS WG座長 姫野誠一郎氏と食品安全委員会事務局との間でやりとりされたメールの情報開示請求を行った。 しかしながら、全24回の非公開会合の議事録は開示されることはなく、発がん性との関連やTDIなど重要論点について話し合った非公開会合(7回分)についても一切の配布がなかったという。 また、開示された資料については、選定された文献ごとの委員の評価(コメント)も、担当委員名も全て黒塗りだった。 さらに、非公開会合の議論をまとめた評価書案の本文など、とくに健康影響が否定できなかった分野(生殖発生、免疫、肝臓・脂質代謝、発がん)についても文書の大半が黒塗りであった。 結果的に、PFASで20 ng/kg体重/日と導いた根拠に関しては開示されることはなかったという。
PFASの日本における基準においては、食品安全委員会が、米国や欧州が採用した疫学研究(血清ALT値の増加、血清総コレステロール値の増加、ワクチンに対する抗体応答の低下など)について、因果関係が不明で研究結果に一貫性がない、用量反応関係が確認できないことから不採用とした、としている。 疫学研究で報告されている健康影響については、指標値を算出するには証拠が不十分。発がん性について、PFOAと腎臓がん、精巣がん、乳がんとの関連の報告があるものの、証拠は限定的であり、指標値を算出するには情報が不十分。通常の一般的な国民の食生活(飲水を含む)から食品を通じて摂取される程度のPFOS・PFOAによっては、著しい健康影響が生じる状況にはない、など挙げている。 とはいえ、今回設定したTDIは、現時点で得たデータ及び科学的知見に基づくものであり、将来的に科学的知見が集積すれば、TDIを見直す根拠となる可能性がある、としている。 ワーキンググループの姫野誠一郎座長は、「PFASリスクを評価するための国内のデータが十分になかった」ことを挙げ、知見が集まれば見直される可能性がある、としているという。
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