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21世紀の血管病対策は魚油で〜DHA・EPA協議会第5回講演会「脂質と疾病予防」 10月21日、アイビーホール青学会館(東京都渋谷区)で、DHA・EPA協議会第5回講演会「脂質と疾病予防」が開催された。当日、脂質とがん、関節リウマチ、痴呆との関係についてこれまでの研究成果が報告された。
魚食、アルツハイマー予防など脳機能の健全化に関与
高齢者人口の増加に伴ない、がんやリウマチ、アルツハイマー痴呆といった疾患の増加が懸念されている。世界の先進諸国ではこうした高齢者の疾患対策が急務となっているが、そうした中、日頃の「食」による健康管理で注目されているのが、穀類や大豆や魚を中心とした日本の和食や地中海食。 とくに魚食については、アルツハイマー痴呆や鬱病など脳機能の健全化に有効性を発揮することが報告されている。講演では、植木 彰教授(自治医科大学付属大宮医療センター神経内科)が「魚油による痴呆予防」と題して講演。「日本では、60万人から70万人のアルツハイマー痴呆者がいるといわれるが、遺伝子と環境の相互関係によってアルツハイマーになる可能性が高い」とし、アルツハイマーの病的過程として、酸化ストレス、慢性炎症、血管因子を挙げ、DHAやEPAといった魚油に含まれるω-3系脂肪酸の脳血管疾患への有用性について述べた。 魚油とアルツハイマー痴呆に関する最近の報告では、シカゴの研究グループが、65歳から94歳の被験者815人の食生活やアルツハイマー病発生などについて4年にわたる調査(研究期間中に131人がアルツハイマー病に罹患)で、1週間に最低1回魚を食べた被験者は、稀にしか食べないか全く食べないグループに比べアルツハイマー病に罹る割合が60%低かったと報告している('03/Neurology誌)。 この他、植木教授は糖尿病との関連について、「インシュリンを投与している人ほどアルツハイマーになりやすい。インシュリン注射による高インスリン血漿で血管内皮の傷害が起きるのではないかと考えられる」とし、高インスリン血漿を治すために、1日1回魚、野菜をたくさん食べるという栄養指導を行っている、と述べた。 アルツハイマー痴呆、ビタミンB群も関与 さらに、植木教授は痴呆症と他の栄養素との関連で、魚油のω-3系脂肪酸以外に葉酸、ビタミンB12、B6といったビタミンB群が関与していることも言及した。 アルツハイマーの発症はホモシステイン濃度(*注1)とも関係するとされる。ボストン大学医学部の研究グループが、痴呆症に罹っていない被験者1,092人のホモシステイン値を1979年-1982年、1986年-1990年でそれぞれ計測したところ、ホモシステイン値が最も高いグループは低いグループに比べ、痴呆症あるいはアルツハイマー症の発現が2倍であったことが分かったという報告もある(New England Journal of Medicine'02/2月号)。 ホモシステインは加齢に伴い血中濃度が高まるが、葉酸、ビタミンB12、B6をそれぞれ単独で摂るよりも、組み合わせで摂ったほうがより有効であるといわれている。 米国では魚の摂食を重要視、食生活ガイドラインへ 先頃、日本では厚生労働省がキンメダイやメカジキなど食物連鎖により水銀含有が懸念される魚の摂食についてとくに妊婦に注意を喚起した。これを一部マスコ ミが取り上げ波紋が広がったが、米国では魚油に含まれるDHAやEPAといったω-3系脂肪酸が米国で死因のトップに立つ心臓疾患の阻止に役立つとして、魚の摂食を薦めるよう食生活ガイドラインの見直しを求める声が高まっている。 心臓疾患については、脂質の摂り方に問題があるとされ、とくにトランス脂肪(悪玉コレステロールを増加させ、善玉コレステロール減少させる)といわれるマーガリンや外食用の揚げ物、菓子類に含まれる脂質や肉類や乳製品に含まれる飽和脂肪(悪玉・善玉コレステロールの両方を増加)が問題視されてきた。 Harvard School of Public Healthが14年にわたって行った食生活調査「Nurses’Health Study」でも、心臓病に最も悪影響を及ぼすのは、トランス脂肪や飽和脂肪であることが指摘されている。 現在米国で発表されている食生活ガイドラインでは、トランス脂肪の有害性とω-3系脂肪酸の有益性に関する情報が不十分なことが指摘されており、政府医療機関に心臓病を減少させるためトランス脂肪を控え、ω-3系脂肪酸を多く摂ることを国民に薦めるよう求められている。
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