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代替医療は疾病にどの程度有効なのか〜日米で徹底検証開始

ここ数年、米国におけるオルタナティブメディスン(代替医療)の台頭にはめざましいものがある。米政府はGNPの15%にまでかかりつつある国民医療費の高騰の抑制を掲げ、NIH(米国国立衛生研究所)をはじめ、大学など各研究機関に研究テーマと予算を割り当て、西洋医学以外に有効とされる伝統・伝承医学の研究に本格的に乗り出した。はたして、オルタナティブメディスン(代替医療)は疾病にどれほど有効なのか。米国やイギリスの状況、日本への影響など総括する。

90年代、西洋医学の最先端医療を誇る米国で国民の3分の1が代替医療を利用していた

ここ数年、米国で代替医療(非西洋医療)がブームだが、はたして利用者はどれほどいるのか。米国で、1993年にハーバード大学のアイゼンベルグ教授らが調査したところ、1990年に代替医療を利用者は34%にのぼり、さらに1997年には42%に増えたことが分かった。90年代に入って米国民の3分の1以上が代替医療を利用しているという。代替医療実施者への外来回数はのべ4億2500万回にのぼり、270億ドルが支払われたといわれる。この統計は西洋医療従事者を少なからず愕然とさせた。西洋医療以外の医療を国民が選択しはじめたことをはっきりと物語っていた。

米国で人気の代替医療にはカイロプラクティック、鍼灸、漢方、ハーブ(薬草)療法、栄養療法、バイオフィードバック、心理療法、催眠療法などがある。ほとんどがこれまでアジア圏で伝統・伝承的に用いられてきたポピュラーな医療でもある。こうした医療を指向する医療従事者が90年代になって米国で増え、90年代後半になると、さらに米医療界に急速に浸透。「西洋医学の医師の3分の1が好意的にみている」(日本ホリスティック医学協会 帯津良一氏)といった状況だ。

'96年調査では、「西洋医療と代替医療を並行して利用した人は6.5%」とのアンケート結果も

しかしながら、西洋医療というエビデンスベーストメディスン(EBM:証拠に基いた医療)に慣れた米国民の科学信奉は依然篤く、「代替医療はあくまでも西洋医療の補足にすぎない」とする調査結果も最近出ている。

この調査は'99年8月にエール大学で米国における代替医療の利用頻度について調べたもので、対象者の人数がこれまでの代替医療の調査と比べ約4倍という大掛かりなものであった。カイロプラクティック、ハーブ(薬草)、鍼灸、催眠治療などを利用した患者を対象とした。

調査は、1996年の the Medical Expenditure Panel Suvey における約16,000人を対象としたケーススタディの回答を分析したもので、米国において西洋医療と代替医療を並行して利用した人は6.5%、代替医療のみは2%未満と少なく、西洋医療のみ利用した人が60%と半数以上であった。一方、どちらも利用しない人は32%であった。両方の医療を利用した人は通院患者に多く、病気予防のための利用であった。

また代替医療を利用している人がそのことをかかりつけの内科医に伝えたのは20%のみであった。内科医は患者が代替医療を利用しているかどうか質問し、それが西洋医療と並行して利用しても害のないものか確認する必要があるが、ほとんどの人が代替医療を西洋医療の補足として利用している状況が明らかとなった。この調査結果は何を意味するか。代替医療への信頼感の欠如と科学的根拠をベースにした西洋医療への米国民の根強い依拠がうかがわれる。

英国では'93年以降、代替医療の利用者が2倍に増加

またこの調査と同時期に英国で代替医療に人気が集まっているという調査結果も報じられた。英国では代替医薬品を使用している人が1993年以降来2倍に増加し、5人に1人という割合になっているという。その理由としては、10人に4人が「西洋医薬品より代替医薬品の方が効果がある」、あるいはNational Health Service(英国国民保険医療機構)の治療が必要な時に受けられない、というものであった。

BBCラジオの生放送で行われた調査結果によると、最も利用されているのは、薬草(ハーブ)で、針治療と同じく男性の間で人気があるという。また女性の間では、アロマ治療が人気という。職に就いている人の代替医薬品と治療法の毎月の出費は平均15.5ポンド(約2750円)で、職の無い人でも10ポンド(約1774円)ほど出費しているという。
しかしながら、一方で、こうした代替医療ブームに対し英国医師会(BMA)では患者保護のために、針灸、ホメオパシー、漢方薬等の開業医に対して、倫理上のガイダンス及び警告や法律上の規制を定め、これを取締まる機関を設定する必要があるとし、規制を掲げているともいわれる。

医療費削減のために官民一体となって代替医療へ向う米国

米国で代替医療が人気を博す背景を分析すると、”官民一体”というキーワードが浮かぶ。米政府は医療経済の破綻をくい止めるために効果があって安上がりの代替医療を推奨したいという止むにやまれぬ台所事情がある。米国は他の先進国に比べて医薬品が30%ほど割高になっているといわれるが、全人口の15%が無保険者といわれ、まともな診療が受けられない。そのため、国民はいきおい代替医療へと向うことになる。

現実に米国での漢方人気は、急速に増えた中国移民の人々に支えられているともいわれる。低賃金で働かざるを得ない状況の中で、医療保険にも加入できず、高度の医療ケアを受けられない彼等は母国の漢方ハーブに頼らざるを得なかったと指摘する専門家もいる。

ところで、米政府の代替医療へ取り組みはどのようなものなのか。現在、米国の国民医療費は1兆2千億ドルといわれ、医療費高騰の抑止が急務とされているが、'90年代に米国で急速に膨れ上がる国民の代替医療への関心を米政府も見過ごせず、代替医療の研究に本格的に着手することになる。'92年には米国立衛生研究所(NIH)に調査室(OAM)を設置。'99年には5,000万ドルの研究予算を計上、13の大学および研究機関に研究テーマが振り分けられる。

研究予算など年代で追うと以下のようになる。(※1994年健康補助食品教育法(DSHEA法)が施行され、栄養補助食品、ハーブ(薬草)などの販売規制の緩和が行われる。以降、栄養補助食品、漢方、ハーブ(薬草)市場は拡大の一途を辿ることとなる。現在こうした医薬品の代替品は年間で60億ドル以上の市場規模と推測されている。)

  • 1992年:米国立衛生研究所(NIH)は26番目の研究事務所としてOffice of Alternative Medicine(OAM)を設立、本格的に代替医療 への研究に取り組む。
  • 1993年:350万ドルの研究予算。
  • 1997年:1,200万ドルの研究予算。
  • 1998年:2,000万ドルの研究予算。
  • 1999年:5,000万ドルの研究予算。2月にOAMからNCCAM(National Center Complymentary and Medicine)に昇格、権限が強化される。初代所長代理に心臓内科医のWilliam Harem博士が任命。7項目の研究項目が設定(1・栄養及び自然療法、2・生活態度(ライフスタイル)の改善、3・精神コントロール、4・生体磁気の影響、5・指圧など手技による治療、マッサージ、気功など、6・薬物的生物学的効果、7薬草療法)。13の大学および研究機関に研究テーマと予算が振り分けられる。NCCAMはFDA(食品医薬品局)、DOT(米国防衛省)、CDC(防疫センター)などと密接な協力体制を構築。

日本で代替医療で注目される健康食品、その真の有効性が今後問われることに

一方、日本でもこうした米国の流れを受けて、日本補完代替医療学会、日本代替・相補・伝統医療連合会議(JACT)、日本薬用食用学会など'98年から'99年にかけて代替医療関連の学会が次々と旗揚げした。米国で人気のある代替療法はカイロプラクティック、鍼灸、漢方、ハーブ(薬草)などの栄養療法などだが、日本ではどちらかというと食品の機能性による栄養療法に関心が集まっている。

医師、カイロプラクターなどおよそ700名の健康・医療従事者を会員に持つ日本代替・相補・伝統医療連合会議(渥美和彦理事長)は'99年に2度の大会を開催し、世界のさまざまな代替療法を紹介したが、中でも栄養療法は重視しており、今年2月より健康・栄養食品の専門委員会を設置。さまざまな疾病に有効な健康食品についての検証を開始するという。また、ヒト試験の結果など発表の場を企業に提供、医療従事者らの評価にたえうる健康食品であれば、積極的に推奨していきたいとの方針だ。

これまでこうした医療従事者を中心とした組織的系統的な健康食品の有効性の検証は例がなかったが、「健康食品の普及とともに患者から有効性を問われることが増えてきた」(日本未病システム学会 福生吉裕理事)ことなど、早急に医師サイドも健康食品についての認識を深める必要に迫られており、いわば時代の要請といった感もある。予防医学が重視されるといわれる21世紀。食品の機能性についての認識は、医療従事者にとっても必須となることは間違いない。

今後こうした検証の中で健康食品に正当なる評価が与えられるとともに、一方で商品淘汰も急速に進むことも予測されるが、代替医療の先頭を走る尖兵としてどうしても越えなければいけない関門といえるだろう。
ともあれ、本格的な高齢化社会が到来し、疾病に有効とされる代替医療の重要性は増すばかり。患者サイドからすれば、疾病を改善してくれる医療がベストな医療といえる。代替医療が疾病にどの程度有効なのか。その真価がこれから問われることとなる。

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