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日本の若年層に忍び寄る糖尿病、動脈硬化
〜米国との「食」内容の比較で判ったこと〜”

1月29日、ヤマハホール(東京都中央区)で「生活習慣病と食物繊維」と題して公開講演会(主催:日本食物繊維研究会)が開催された。戦後、「食」の欧米化が進み、日本人の食物繊維の摂取量が減少している。こうした状況が糖尿病や高脂血症などの生活習慣病を招いているとして、五島雄一郎氏(東海大学名誉教授)、鈴木正成氏(筑波大学教授)、奥恒行氏(県立シーボルト大学教授)らが食物繊維摂取の必要性を指摘した。

食物繊維の摂取量、1950年代半ば以降急速に減少

日本人はアメリカ人よりコレステロール値が高い!日本の若年層に見られる最近の傾向を、五島雄一郎氏(東海大学 名誉教授)は講演の中でそう指摘した。「20年、30年後に動脈硬化が進み、40歳前後から心筋梗塞になる確率が非常に高まることが予想される」(五島氏)という。

米国は脂肪の摂取量が日本以上であるにもかかわらず、若年層においてはコレステロール値が低いという。いつの日から、こうしたが逆転現象が生じたのか。
原因の一つとして、日本の若年層のファーストフードに代表されるジャンクフォードの多食が挙げられる。しかし、それ以上に問題視されていることがある。食物繊維の摂取不足だ。「日本人は以前は食物繊維をたくさん摂っていた。しかし、近年、外食が盛んになり、食物繊維の摂取がだんだん減ってきた」(同)。戦後、豊かさを求め、ライフスタイルが欧米化するなかで、パン食が急速に普及し、さらに口あたりのよい加工食品が食卓を席巻していった。

こうした、食物繊維の不足は、「便秘や腸の病気、大腸がん、関節症、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病の引き金になる可能性がある」と五島氏。もはや問題は日本の若年層だけではなく、日本人全体におよんでいる。
現在、日本の国民一人あたりの食物繊維の摂取量は15g〜16gといわれる。「1950年頃には20〜23g摂っていたが、「食」の西欧化とともに、穀類の摂取量が減り、逆に脂肪の摂取量が増えてきている」(奥 恒行氏)といった状況だ。

ではどの程度の食物繊維を補給すればいいのか。「日本人はあと5gぐらい食物繊維を積極的に摂れば目標摂取量の20gになる。5gに相当する繊維は、りんごで2個、ご飯では8杯くらいに相当するため、かなり積極的に食物繊維の摂取を心がけていいと思う」と奥氏。

米国では食物繊維を多く含む未精製の穀類をがん予防で重視

食物繊維が不足するとどのような疾病に罹患するのか。代表的なものとしては、高脂血症、大腸がん、糖尿病、肥満、便秘などがある。 特に糖尿病については、食物繊維と血糖値上昇との関連がよく知られるところ。繊維を取り除き、精製して口当たりをよくした現代食は、急速に血糖値を上昇させ、インシュリンの分泌を促し、糖尿病へと導く。繊維を含む自然の形のままで摂ったほうが、身体の生理機能には適っているようだ。

「りんごをそのまま自然で食べれば血糖反応は弱いが、りんごをジュースにすると血糖反応が砂糖に近くなるとか、バナナやオレンジにしてもジュースにして飲むと血糖反応が強くなるとか、多くの場合、繊維を除いた時に血糖反応が強くなることが確認されている」(鈴木 正成氏)。「自然の素材」が持つ機能性には未だ人知のおよばない領域がある。嗜好にまかせ、いたずらに素材に手を加えすぎたことが、今日の生活習慣病を招いた要因といえるかも知れない。

また、食物繊維の摂取不足と大腸がんとの関係について奥氏は次のように述べている。「食物繊維をたくさん摂ると便量が増え、有害物質を希釈する。発がん性のような物質が存在しても、大腸での接触時間を短くし、がん予防も期待できる」。さらに大腸における腸内細菌叢の改善について、「有用な菌を増殖させて、有害な菌を減少させるということで大腸がんの予防とか免疫機能の向上、老化物質の産成抑制ということが報告されている」とした。

こうした報告を裏付けるかのように、食物繊維の多い未精白の穀類を1日1杯食べれば、がん、心血管系疾患などの死亡率を低下させることができるという報告も米国でされている(American Journal of Public Health’99/3月号)。 これはIowa Women’s Health Study参加者のうち55歳から69歳までの3万8千740人を調べた研究によるもので、ミネソタ大学研究者グループは、被験者が未精白穀類を1日1杯以下から3杯以上の範囲での健康状態を調べたが、この結果、高齢者グループでは少なくとも1杯食べれば、疾患からの死亡率が15%減少したことがわかったという。

低繊維食は生活習慣病の引き金になる(五島氏)
高脂肪・低繊維食は大腸がんの発生を高める(奥氏)
繊維含む穀類摂取の重要性が米国で指摘(鈴木氏)

食物繊維は肥満解消にも役立つ(ボストン研究グループ:10年間追跡調査)

また肥満の解消にも食物繊維は一役買う。
ボストンの研究者グループが、18歳から30歳までの2千900人以上を対象に1日15gから25gの食物繊維を摂取させ、10年にわたって追跡調査したところ、1日少なくとも21gの食物繊維を摂ると、10年のうち平均8ポンド(約4キロ)減少することが判った。(The Journal of the American Medical Association'99 10/27日号)
現在、米政府が薦める1日の食物繊維の摂取量は20g〜25gで日本とほぼ同じ。食物繊維の多いシリアルではボウル1杯に約25g含まれているという。

ただ、こうした食物繊維の役割は肥満症に悩むアメリカ人に恩恵をもたらすはずだが、現実にはダイエットに対し未だ穀類への誤った認識が根強い。昨年、米国の1,000世帯を対象に行われたGallup調査では、電話による聞きこみを行ったが、回答者の28%がダイエットをする際、穀類を減らしていると答えており、脂肪や塩気のある食品より穀類が体重増加の元凶と考えていることが分かった。また脂肪性食品を減らすと答えた割合は24%だった。こうした結果に対し、カリフォルニア大学デービス校の研究者は「こうした認識は間違っており、穀類は一般的に脂肪などよりカロリーは低い。また不足すると心臓障害などを起こす危険性が高くなる」と警告している。

ジャンクフードに群がる日本の若者、一方米国では、、

ところで、前述の日本の若年層のコレステロール値がアメリカ人の同年代のそれを抜いていたというのはショッキングな話であるが、なぜそのようなことになったのか。このあたりの事情について鈴木氏は次のように語る。「米国では脂肪の摂り方が過剰であるため、脂肪の摂取を控え、代わりに穀物をしっかり摂ろうということが強調されてきた。スーパーでは低脂肪牛乳が売られ、炭水化物食品の重要性が指摘され、ご飯、パン、イモ、シリアルを食べましょうという動きがここ10年ほどの間に出てきた。12、3年ほど前から食物繊維を多く含むシリアル食品がアメリカ人の朝食の半分以上を占めるようになってきた。我々がカリフォルニアで行った米国の小中学生を対象にした調査でも、半数近くの45%が朝食はフレークに牛乳をかけて食べるというような結果が出た」。

実際に、一昨年米国がん協会は、米国の児童(2歳-18歳)4千8人を対象に、1989年から91年までの間に食べた食品20品目について調べているが、ビタミンA、鉄分、葉酸などの栄養素をシリアルから最も多く摂っていたことが判ったと報告している。 日本の若年層がジャンクフードに群がっている間に、米国の若年層は日本人が以前多く摂っていた食物繊維の多い未精製穀類に高い関心を払い、健康管理を行っていた。もちろん現在も、である。

毎朝食物繊維の豊富なシリアル摂取で、心臓病の危険性低下

食物繊維の効用として糖尿病、大腸がん、肥満などあるが、特に最近では心臓病のリスクを減少するという報告が米国では相次いでいる。毎朝食物繊維を多く含んだシリアルを食べる女性は、心臓病の危険性を最小限に抑えられるという報告がJournal of the American Medical Association'99/6月号にも掲載されている。

それによると、スウェーデンのKarolinska Instituteと米ハーバード大学研究者グループが1984年から94年までに、37歳から64歳までの健康体女性6万8千782人を対象にした研究で、10年にわたる研究期間の間に重症の心臓病発病が591件あり、うち162人が死亡していたが、心臓病グループと健康体グループの食生活を比較したところ、食物繊維を多く摂った被験者は心臓病の危険性が47%低くなっていたという。研究者は、果物や野菜に含まれる食物繊維よりもシリアルに含まれているタイプの方が、心臓病危険性低下に強く影響を与えていると指摘している。
ちなみに一昨年、溶解食物繊維Psyllium(アメリカオオバコ)を配合したKellogg社のAll-Bran、Bran Budsなどシリアル商品に「心臓病の危険性を低下させる」というラベル表示を米食品医薬品局(FDA)が許可したことは記憶に新しい。

未精白の穀類摂取、心臓病の危険性30%以上低下

未精白の穀類を多く摂る女性は心臓病の危険性が30%以上低下するという報告もされている(American Journal of Clinical Nutrition'99/1月号)
ハーバード大学研究者グループは1984年時点で38歳から63歳までの女性7万5千521人を対象に1984年から90年まで行った研究で、3回にわたって調査した質問データを分析。また研究者は、84年から94年までに発生した致死的心臓病と命に別状なかった心筋梗塞を調べたという。その結果、未精白の穀類を最も多く摂ったグループ(1日平均2.3杯分)では、最も少なかったグループ(0.13杯分)に比べ心臓病の危険性が30%以上低かったという。

また、オートミールや食物繊維の多い食品が心臓病の危険性増大の割合を下げるという報告が、昨年開催された American College of Nutrition学会でも報告されている。
それによると、コネチカット州研究者グループが、オート(カラスムギ)や豆などに含まれている水溶性食物繊維は、脂肪や炭水化物が血流に吸収される速度を下げることで、血管の締めつけを防ぐと発表した。研究では、健康体成人50人に脂肪の高い食事(脂肪50gを含む)1週間に1度、3週間にわたって与えた。

食事には、オートミール1杯、未精白のシリアル1杯、ビタミンE800IUをそれぞれ加え、被験者の食事の前後3時間に、血管サイズを測った。この結果、食事の前後を比較すると、未精白のシリアルと一緒に食事をした被験者では、血管の締めつけが13.4%緩和されたという。また、オートミールやビタミンEではそれほど変化を示さなかったが、その代わり血管内膜を傷つけると思われる有害分子、フリーラジカルの影響を減少させたことが確認されたという。

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