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日本人にしのびよる「動脈硬化」性疾患、がんに次ぎ2番目の死因に

6月8日、ホテル日航東京で市民公開講座「しなやかな血管、いきいきとした体 動脈硬化を防ぐ生活習慣」(主催:第33回日本動脈硬化学会総会 朝日新聞社)が開催された。「動脈硬化とは:物言わぬ病気、動脈硬化はなぜ恐い」(板倉弘重:茨城キリスト教大学生活科学部教授)、「生活習慣と動脈硬化、最新の生活習慣病の予防と治療」(山田 信博:筑波大学臨床医学系内科学教授)、「動脈硬化を防ぐ食習慣」(中村 丁次:(社)日本栄養士会副会長・聖マリアンナ医科大学病院栄養部部長)の3題の講演が行われた。

ある日当然、ろれつが回らなくなり・・・

ある日突然、ろれつが回らなくなり、知り合いの顔を見ても誰か思い出せなくなる。判断力や認識力が低下してくる。手足の自由がきかなくなる。心臓に激しい痛みを感じるようになる。
物言わぬ病気。「動脈硬化」が進行した結果の症状だ。

現在、日本人の死亡原因で一番多いのががん。 次いで心疾患、脳血管疾患となっているが、この2つは、動脈硬化が原因で起きる。
動脈硬化の恐さは、「極めて静かに進行し、何の症状もない。ある日、突然血管が詰まって一気に臓器障害を起こす」(山田教授)ことだ。

60歳以降の病気と思われていたが・・・

動脈硬化は、重篤な疾患を招くまで、自覚症状がない。
なぜか---。
「私たちが食事から摂っている栄養成分は全て血管を通して全身に送り込まれる。血液の流れは、1分間に心臓から送 り出す血液は5から6リットル。50秒から60秒で血液が全身を巡り、また心臓から送り出される」(板倉教授)。

ところが、「知らず知らずのうちに動脈硬化が進んで、血管の壁が厚くなり、内腔が狭まっても、血管にはほぼ100%近い必要な血液が送り込まれる。そのため、私達は不自由さを感じない」(同)。
つまり、動脈硬化が進んでも自覚症状がない---。

だが、ある日突然、急激なストレスや喫煙などが加わると、脳梗塞、動脈瘤破裂といった動脈硬化性疾患が起きる。これは、「60歳以降、70歳、80歳の年寄りの病気と思っていたが、実はたまたま歳をとってから現れたということで、病気の始まりはすでに20歳代から始まっている」(同)。

この10年間に、30〜40歳代の高コレステロール血症が増加

ところで、動脈硬化は血管内のコレステロールの堆積と密接に関係している。このコレステロール値が、この10年間、とくに男性にかぎって増えている。
この6月に、厚生労働省が10年ごとに行っている循環器疾患基礎調査(昨年11月、全国5千世帯30歳以上の8,369人を対象)を発表したが、これによると男性の高コレステロール血症罹患は、この10年間に50〜70歳代は減っているものの、30〜40歳代は逆に増えている。

これに関連して、田中氏は次のように指摘する。「日本はこの50年間、食生活が大変ぜいたくになった。寿命も延びているが、一方で生活習慣病が増えている。昔、貧しい食生活の頃は日本人は長生きできなかったが、長生きできるようになると同時にコレステロールもだんだん高くなってきている。今や米国と同じくらいのレベルになっている」。また、日本人は生活習慣病になりやすい体質を持っているともいう。

ただし、コレステロールが全て「悪」というわけではない。「コレステロールはこれまで、悪者扱いされてきたが、その後、必ずしも悪者ではないことが判ってきた。血管に溜まるのは一部のLDL(悪玉)コレステロールで、むしろHDL(善玉)コレステロールは多いほうがいい、少なすぎてもダメ。すなわちコレステロール全体をみると少なすぎてもよくない、ある程度なければいけないということが明らかになってきた」(板倉教授)。

コレステロール値、「高さ」以上にLDL(悪玉)コレステロールの酸化が問題

現在の日本人のコレステロール値の基準値は、97年に設定されたものだが、高コレステロール血症については、総コレステロール値が220mg、200〜220mgの間を要注意とされている。これに対し、8日に開かれた「第33回日本動脈硬化学会総会」では、全国5万人の患者を対象にした6年間の追跡調査に基づき、総コレステロール値を220mgから240mgに引き上げるという緩和案が提示された。また、LDL(悪玉)コレステロールについても、従来120〜140mgを要注意としていたが、これを160mgに引き上げた。
これに関して板倉氏は次のようにいう。

「コレステロールが多いから悪いという単純なことではなく、日頃どういう食事をし、どういう生活をするかによってコレステロールが高め、あるいは低めでも動脈硬化の罹り方、防ぎ方に違いがあるということが分かってきた」。
つまり、「悪玉コレステロールが悪いというが、ただそれだけでもない。悪玉コレステロールが増えても元気で、動脈硬化がそれほど進まない人もいる。問題は悪玉コレステロールが酸化された状態。これが、血管壁を傷つける」(同)。
血管壁から血中に入ってくるLDL(悪玉)コレステロールが活性酸素により酸化LDLコレステロールになる。このコレステロールが血管壁が溜まり、血管壁が破れやすくなる。破れたところに血栓が生じ、血行障害がさらに進む。

活性酸素により生じる「過酸化脂質」が問題

また、活性酸素がコレステロールと結びついて過酸化脂質を産生することも、細胞を損傷させ、さまざまな疾患を引き起こす原因となる。活性酸素そのものの害よりも、活性酸素により産生された過酸化脂質によってもたらされる健康被害のほうが大きいともいわれている。
油の不飽和脂肪酸は活性酸素と結合しやすく、過酸化脂質を増産させ、動脈硬化へとつながる。

これに関連して、中村氏は次のようにいう。「動物性食品に多い飽和脂肪酸は総コレステロールおよびLDL(悪玉)コレステロールを上げる。ただし、植物性の油が無条件にいいというわけではない。植物性油に多いリノール酸はコレステロールを低下させる作用があるが、摂りすぎるとHDL(善玉)コレステロールも低下させてしまうということが判ってきた。また、多価不飽和脂肪酸は不安定で酸化されやすく、LDLコレステロールの酸化を進め、動脈硬化を促進する」。

動脈硬化対策に、穀類、大豆、お茶など「抗酸化物質」を多く含む「和食」がいい

では、動脈硬化対策として日頃どのような食管理を行えばいいのか---。
中村氏はまず「和食」を挙げる。「和食は低脂肪であるということ。糖質が多いがでんぷん質の糖質で、これが最近食物繊維と同じような働きをするということも判ってきた。

ご飯そのものには食物繊維は多くはないが、でんぷん質に食物繊維と同様な働きをする難消化性の糖質が含まれている。食物繊維が動脈硬化にいいということは周知で、コレステロールや中性脂肪も若干下げる作用がある。和食は全体的に食物繊維が多い」。

和食の欠点を補う「理想食」とは

ただし、和食にも欠点があるとして、中村氏は次のようにいう。「和食がいいといっても、昔の典型的なご飯に味噌汁に戻れというわけではない。昔のように脳卒中になって短命になってしまう」。現在、日本が世界でトップの長寿国になっているのは、抗酸化物を多く含む日本の伝統食にプラスして、タンパク質や脂肪がほどよく摂れていることにある。このバランスが重要、と中村氏はいう。

さらに、「現在、地中海料理と日本料理が世界で最もいい食事といわれている。片やスパゲティ、日本はご飯で、どちらもでんぷん質が多い。それから、魚介類、野菜類を多く食べる。ただ日本は、少し塩分が多い。この点さえ気をつければ世界に冠たる日本食になる」と中村氏。

また板倉氏は活性酸素対策について次のように提言した。「五穀、豆類、お茶、野菜など、いろいろな食品からいろいろな抗酸化物を合わせて摂るということが効果を十分発揮させるためにも必要。ある成分だけを摂っていると、場合によってはそれが摂り過ぎということも起ってくる」。

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