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11月13日(火)、東京国際フォーラムで「野菜フォーラム2001 がんと野菜〜野菜の健康機能を考える」(主催:(財)食生活情報サービスセンター)が開催された。記念講演として「野菜と健康」(田中平三氏 国立健康・栄養研究所理事長)、「がん予防と野菜の健康機能」の2題が講演された。医療費の負担増が国民に重くのしかかる中、「自己の健康は自己で守る」というセルフプリベンション(自己予防)時代の幕開けを予感させるものとなった。

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がんの原因、食事が35%

3人にひとりががんで死ぬ---。
「1981年以降、悪性新生物(がん)による死亡が日本人の死亡原因の第一位になった。年間約30万人、3人にひとりががんで亡くなっている」(垣添氏)。喫煙、ウイルス感染、化学物質、紫外線などこの世にがんのリスクファクター(危険因子)といわれるものは数多くある。それらにより遺伝子DNAが損傷し、正常細胞が、がん化していく。

「さまざまな因子でDNAが傷付く。正常細胞がある日突然、がん細胞に変わるのではなくて、長くかかって変わる。実際には正常な細胞ががん細胞に変わるには、おそらく遺伝子の傷が6つとか8つとか、場合によっては10くらい積み重なってから」(同)。

この遺伝子損傷の35%に「食」が関与しているという---。

(※ヘルスメディア関連記事「ヒトはなぜ、がんに罹るのか〜3大原因はタバコ(喫煙)と食事と感染」)

野菜の機能がセルフプリベンションに貢献

「食」において遺伝子損傷をもたらすものとしては、農薬、合成添加物などの化学物質、焼け焦げなどがある。野菜に含まれる機能性物質はこれを防ぎ、がんをはじめ、糖尿病、心臓病、卒中、動脈硬化など各種疾病の予防および改善に有用であるとされる。

講演の中で、田中氏は「これまでは、検診をして脳卒中や心臓病にならないようにしようということだったが、これからは適切な食事でがんも脳卒中も心臓病も予防しようという時代になってきた」と述べ、セルフプリベンション(自己予防)の重要性を強調。以下の野菜に含まれる機能性物質、phytochemicals(植物性化学物質)を紹介した。

○硫化物(Diallyl Sulfide,Allyl methyl trisulfide,Dithiolthiones):抗がん性酵素活性化、発がん性物質の解毒、ニトロソアミン形成阻害
○カロテノイド(α-カロテン、β-カロテン、ルテイン、リコペン):抗酸化作用、細胞増殖阻止、白内障・黄斑変性予防
○フラボノイド(Quercetin,Kaempferol,Tangeretin,Nobiletin,Rutin):抗酸化作用、細胞増殖阻止、ビタミンCの作用の増強、血液凝固阻止、抗炎症作用など。
この他にも、がん化抑制に関わるPhytoestrogens、サポニン、カプサイシン、フェノール、Resveritrol、Anthocyanins、Tannins、Terpenes、食物繊維、葉酸、ビタミンC・E、カリウム、セレンなどがある。

野菜や果物を1品でも食事に増やすと心臓病や卒中の死亡率を20%減少

こうした野菜の機能性物質により、各種疾患の危険性が低下することが世界各国で報告されている。
イギリスの研究グループが、45歳から79歳の成人20,000人を対象に調査を行ったところ、野菜や果物を1品でも食事に増やすと年代、血圧、コレステロール値など関わりなく、心臓病や卒中の死亡率を20%減少させることが分かったと報告している(Lancet'01-3/3日号)。

また、女性の深刻な悩みでもある月経前症候群(PMS)についても、低脂肪、野菜だけの食生活で、症状が緩和し、持続期間が短くなるという報告もある(Obstetrics & Gynecology誌2月号)。Physicians Committee for Responsible Medicineの研究グループが、22歳から48歳で生理期間中腹部などの痛みを経験する女性33人に、低脂肪で野菜のみの食事を2ヶ月間与えたところ、ひきつりの痛みは初め4日、その後2.7日に減ったという。(※被験者は、ヨーグルト、ミルクなど乳製品を含む動物性食品を一切禁止。脂肪摂取も総カロリーの10%までと限定)

野菜や果物など食物繊維の豊富な食品でがんの発症リスクが半減

がんについてはどうか---。
「世界中の5千の論文を調べたところ、野菜が喉頭がん、食道がん、肺がん、胃がんなどほとんどの部位の予防に役立つことがわかってきた」と田中氏。

イタリアの研究グループが、口やのど、食道のがんで入院した患者1,000人およびそれ以外のがん患者2,000人を調べたところ、果物や野菜、シリアル、未精白穀類など食物繊維の豊富な食品を多く摂るグループは摂取量の低いグループに比べ、がんの危険性が半分だったという報告もある(International Journal of Cancer誌'01/2月号)。

高齢化で増える前立腺がんにも有効性を発揮

また、「日本人のがんの40年振り返ると、これまで胃がん、子宮がんが多かったが、これに代わり、大腸がんや乳がんや前立腺がんといった西欧型のがんがこの何十年かの間に増えてきた。これは生活習慣と関連している」(垣添氏)。

こうした欧米型のがんについてはどうか---。
本格的な高齢化時代の到来とともに、男性では前立腺がんの増加が懸念されるが、野菜の中では特にキャベツの類が前立腺がんの危険性低下に役立つと報告されている(Journal of the National Cancer Institute '00/1月号)。
Fred Hutchinson Cancer Research Centerの研究グループが行った研究で、シアトル地域にすむ男性1,230人(半数は前立腺がん患者)を対象に野菜や果物の種類と前立腺がんに対する影響を調べたところ、野菜を1日3人分食べるだけで、前立腺がんの危険性が45%減少することがわかったという。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

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野菜の中では特にブロッコリー、キャベツなどの有効性が高いとされ、これらの野菜は、他の野菜に比べ、1週間に3人分以上食べるだけでも前立腺がんが41%減少することがわかった。

ちなみに、果物ではトマトに多く含まれるカロテノイドのリコペンが前立腺がんの予防や改善に有用であるという報告が多く出ている。(※トマトはリコペンを豊富に含むが、生のトマトより加工されたトマトソース、トマトペースト、ケチャップを使用する方がよりリコペンを吸収しやすいとされている)

1996年にハーバード大学の研究グループが男性の医療関係者4万8千人を対象に行った研究成果を発表しているが、これによると、ピザあるいはトマトソースを使った食品を1週間に最低2度食べる男性の間では血中のリコペン濃度が高く、前立腺がんの罹患率は45%減少したという。一方、トマトソースを摂らないグループは、21%から34%罹患率が高くなったという。

乳がんに関しては予防効果が不明

ただし、乳がんに関しては予防効果が不明との報告も出ている。近年、日本では子宮がんが減少傾向にあり、乳がんが増えており気にかかるところだ。

ハーバード大学の研究グループが、これまで発表された研究8件(被験者35万人以上、このうち7,400人が乳がんに罹っていた)を分析したところ、野菜、果物を最も多く摂取したグループは最も少なかったグループに比べ乳がんに罹る割合が3〜9%と低いものであったが、「統計上あまり意味の無い数字」との見解を示している(The Journal of the American Medical Association誌'01-2/14日号)。

焼け焦げは乳がんリスクを高める

逆に、乳がんのリスクを高めるものとはどういうものか---。
最近の報告では、直火で長時間焼いた肉が乳がんのリスクを2倍に高めるということがいわれている。2000年のAmerican Assoc. for Cancer Research年次総会で報告されたものだが、アイオワ州女性調査の研究グループが、高熱の油で揚げたり、直火で長く焼き上げた肉には、焦げた食物の多環式芳香族炭化水素のほか、筋肉中のクレアチンが蛋白質のアミノ酸と反応して複素環式アミンが生成され、焼く温度が高くなるほど、また焼く時間が長くなるほど、肉の中にこの2つの物質が多くでき、乳がんのリスクが高まると報告している。

この他にも、関連した報告で、バルティモアの研究グループが、バーベキューの肉を月に2回以上食べる女性は乳がんの発生のリスクを高めると警告。複素環式アミンの作用に関連した酵素の多い女性に乳がんのリスクの高いことが認められるとしている。

結腸及び直腸がん予防には疑問符

この他、結腸及び直腸がんについても予防効果は不明という報告が出ている。


ハーバード・メディカル・スクールの研究チームによる報告で、136,000名を超す医療従事者を対象に1980年から16年以上にわたって行われた調査結果から分析されたもので、野菜や果物の摂取はがんや心臓疾患、糖尿病には予防効果を発揮したものの、結腸及び直腸がんについての予防効果は認められなかったという(Journal of National Cancer Institute誌'00-11/1号)。

りんごやガーリックが結腸がんに有用

この結腸がんへの予防効果については、りんごやガーリックが有用であるという報告も一部出ている(Nature誌6月号)。 コーネル大学の研究グループが、ヒトの結腸がん細胞膜にりんごの皮を含んだものと含まないもののエキスを添加したところ、皮を含んだエキスではがん細胞の増殖が43%、含まないものでは29%抑えたことが判ったという。また、肝臓がん細胞でも同じような研究が行われたが、これによると皮を含むエキスで57%、含まないもので40%の抑制が見られたという。

また、ノースカロライナ大学の研究グループが、食生活とがんとの関連性を研究した報告300件を分析したところ、生あるいは調理済みのガーリックを定期的に食べると、胃がんの危険性が2分の1、結腸がんでは3分の2低下することが判ったという(American Journal of Clinical Nutrition誌'00-10月)。

若年層の間で年々減少する野菜の摂取量

近年、予防医学の観点から野菜および果物の機能性の解明が急速に進んでいるが、懸念されるのが「野菜の摂取が年々減っており、特に若年層の摂取量が少なくなっている」(田中氏)ことだ。また国民1人あたりの消費量をみても米国より低い( 参照:農林水産省「食料需給表」)。

ただし、野菜偏向は避けるべきで、「バランスよくとることが大切。主食たるご飯、肉、魚、卵、そして副菜である野菜とを充分にバランスよく食べることが健康で長生きに繋がる」と田中氏は指摘する。 (食生活指針:平成12年3月 文部省決定 厚生省決定 農林水産省決定

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