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長寿国日本の伝統食、生活習慣病対策で世界が注目

6月1日(土)、国立健康・栄養研究所(東京都新宿区)で「賢く食べて脳卒中、心臓病を予防しよう」をテーマに、「第67回生活習慣病予防講演会」が開催された。大澤俊彦氏(名古屋大農学部応用生命科学教授)、水嶋春朔氏(東京大医学教育国際協力研究センター講師)、池上幸江氏(大妻女子大教授)らが講演をおこなった。

脳卒中や心臓病の50%、食生活が原因

脳卒中に心臓病、そして、がん---。
日本人の三大死因だ。「30、40、50代でこうした病気になるのは、生活習慣に問題があるため。生活習慣とは食生活、運動です」。冒頭、挨拶に立った国立健康・栄養研究所理事長の田中平三氏は日頃の「食と運動」による健康管理の重要性を説いた。

とくに、「食」がもたらす健康への影響について、「脳卒中や心臓病の50%くらいは日常の食生活に原因があるといわれている。がんの場合は30から35%が関係あるといわれている」(同)。そのため、「賢い食を心がける」必要性があるという。

また、名古屋大農学部(応用生命科学)の大澤俊彦教授は、「食品には、免疫に関係したものともう一つは抗酸化、活性酸素に関連したものがある。解毒酵素とか抗酸化酵素を誘導することで、生体防御機能を高める食品が注目されている」とし、食品中の抗酸化物質について紹介。「ブロッコリーとかワサビの辛味成分は我々の身体の中の解毒酵素とか抗酸化酵素を誘導する。またゴマにもそうした機能がある」と解説した。

ブロッコリーやキャベツのような十字花科の野菜は1990年代に入って、dithiolthionesとisothiocyanatesという物質が含まれていることが判っており、発がん物質の解毒に関わる酵素を活性化することが既に確認されている。

ハーバード大学の研究グループが47,909人の男性を対象に、1986年から96年まで行ったHealth Professionals Follow-up Studyで、膀胱がん罹患の252症例を調べたところ、十字花科野菜を多く食べている人ほど膀胱がんの罹患率が低下していることがわかったと報告している。さらに、さまざまな野菜のうち膀胱がんの危険性低下に関連すると考えられるのはブロッコリーやキャベツのみであったということも明らかにしている(Journal of the National Cancer Institute誌'99/4月号)。

こうした、十字花科野菜のブロッコリーやキャベツ、またユリ科のニンニクやタマネギなどは生活習慣病の予防に効果的な働きをすることが判っている。ただし、「いろいろな野菜にいろいろな成分が含まれている。それらの機能を正当に評価して、決してそれだけを食べるというわけではなくて、それらの機能をうまく活かせるようにデザインした食生活、食品の加工が出来ないか」と大澤氏はいう。

米国、心臓病対策で'99年以降空前の大豆ブーム

ところで、心臓病や脳卒中といった生活習慣病の予防に、大豆、穀物、魚、緑茶などの日本人が常食している食品が有効であることが次第に明らかとなり、世界的に関心が高まっている。とくに、米国ではこれまで家畜の飼料程度の認識しかなかった大豆が数年前からブームになっている。

米国で大豆ブームに火がついたのは1999年。米国食品医薬品局(FDA)が、大豆たんぱく質を1日25g摂取すると心臓病予防効果があることを認めてからだ。以来、「大豆たんぱく質は、心臓病の危険を下げる」と表示した大豆製品がスーパーの店頭で人気を呼ぶようになった。

米国での統計によると、「大豆たんぱく質はコレステロール低下作用があり、心臓病を予防することを知っている」と回答した人は、1999年には28%だったのが、2001年には39%にアップしている。また、大豆に抗酸化力がある、女性ホルモンと関連が深い乳ガンや女性の更年期障害、骨粗しょう症などに効果がある―といった情報も一般消費者の間で浸透しつつある。

ちなみに、大豆製品の中でも売れ筋は豆乳で、ワシントンポスト紙によると、米国での売り上げは、1980年に150万ドルだったが、2001年には5億5千万ドルにまで膨れ上がっているという。

また、「アメリカ人の一番苦手な食べ物」であった豆腐も、味付けに工夫が凝らされ、ここ数年売れ行きはうなぎのぼりだ。食品会社はこぞってサンドイッチ、サラダ、パスタなどにそのまま使える味付け豆腐を開発。ほうれん草味、カレー味、イタリアン風味といった、日本人からすれば「これ豆腐なの?」と戸惑うような商品が売れている。

また、肉の代わりに大豆たんぱく質を使ったベジタリアン向けの「大豆ハンバーガー」や、「大豆エネルギーバー」「大豆シリアル」も登場している。

大豆イソフラボン、女性の更年期障害を軽減

また、大豆に含まれるイソフラボンは女性の更年期障害のほてりの緩和や骨粗しょう症の改善、コレステロールの低下に役立つとあって、注目度が高い。大豆イソフラボンに関するものでは、閉経期並びに閉経期後の女性の更年期障害を軽減するという研究報告もある(American Journal of Clinical Nutrition'01/12号)。
研究は、平均年齢61歳の閉経期後の女性73人を対象にしたもので、大豆イソフラボンを90mg与えたグループは6ヶ月間で、骨のミネラル密度とHDL(善玉)コレステロール値が上昇したという。

また、イタリアで行われた研究で、104人の女性に大豆イソフラボン76mgを含む大豆プロテイン、あるいは偽薬のどちらかを毎日12週間与えたところ、3週間経過したところで、大豆プロテイン・グループでは、更年期障害の一症状である「のぼせ」が26%、終了頃には45%の減少が見られたという。

女性は更年期を迎えるとエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが急激に減少し、さまざまな障害が生じる。豆腐などの大豆製品にはこのエストロゲンと類似した植物エストロゲンと呼ばれるホルモンが含まれている。そのため、豆腐、味噌といった大豆関連製品を毎日約200mg摂っている日本女性はほてりを訴えるのが25%以下と少なく、それに比べ米国女性は85%と多いといわれる。

未精白穀物、心疾患からがんまで幅広い効用

また、米国では未精白穀類ががんをはじめとする各種疾患の予防につながるとしてパンやシリアル製品(重量に対し51%以上の未精白穀類が配合されている必要がある)に、「心臓病やがん予防」のラベル表示が許可されており、穀類への関心が高まっている。
ここ数年、米国ではホールグレーン(全穀粒)が静かなブームだが、玄米をはじめ、全粒粉やライ麦、雑穀を使ったパン、シリアル、パスタは、食物繊維やビタミン・ミネラルを豊富に含み、悪玉コレステロール値を下げる、血液をサラサラにして高血圧を改善する、大腸ガン予防に効果がある---など評判となっている。

ナチュラル・フーズ・マーチャンダイザーによる健康食品販売店およびメーカーを対象にした調査では、「雑穀市場は成長株。シリアル、パスタ、クッキーなどの原料として需要はますます高まる」と結論付けられ、今後しばらく成長が続いた後、安定した売れ筋になるだろう―と業界関係者は予想している。

具体的に、穀類の疾患への有効性については、例えば心臓病の危険性の低下といったことが挙げられる。ハーバード大学の研究グループが1984年時点で38歳から63歳までの女性75,521人を対象に1984年から90年まで行った研究で、3回にわたって調査した質問データを分析し、84年から94年までに発生した致死的心臓病と命に別状なかった心筋梗塞を調べたところ、未精白穀類を最も多く摂ったグループ(1日平均2.3杯分)は、最も少なかったグループ(0.13杯分)に比べ心臓病の危険性が30%以上低かったと報告している(American Journal of Clinical Nutrition'99/9月号)。

また、ミネアポリスの研究グループがノルウェー人34,000人を対象に調べたところ、未精白穀類を多く食べる人は、比較的健康なライフスタイルであることがわかったという。例えば、最も多く未精白穀類を摂取するグループは少しあるいは全く食べないグループに比べ、心臓病による死亡率が23%、がんによる死亡率が21%減少しているという(European Journal of Clinical Nutrition'01/2月号)。

また、穀類から食物繊維を多く摂ると、胃がんの罹患率を低下させるという報告もある(Gastroenterology'01/2月号)。 スウェーデンの研究グループが、胃の噴門にできた腫瘍をとくに調べたところ、食物繊維の多い未精白穀類パン、オーツ、パスタ、ライスなどを多く食べたグループは、少ないグループに比べ胃がんの罹患率が60%低かったという。とくに未精白穀類を食べたグループでは、70%低かったという。これに対し、果物や野菜の食物繊維では、さほどの影響は見られなかったという。

この他、血糖値を低下させる作用についての報告もある。日頃の食事に食物繊維の豊富なブラン(米ぬか)をスプーン1杯でも加えると、血糖値が下がり、糖尿病予防に役立つという(American Journal of Public Health'00/9月号)。ハーバード大学の研究グループによるもので、38歳から63歳までの女性75,521人を対象にした1984年からの10年間の研究を分析したところ、ぬかを含む未精白穀類を多く摂ったグループは、血糖値低下により糖尿病の危険性が38%減少したことが判ったという。

魚食、オメガ3系脂肪酸が心臓の血液循環をリズミカルに保つ

また、米国では近年寿司バーといったものが流行っており、魚の心疾患への有効性が喧伝されている。実際に、ハーバード大学の研究者らが、40歳から84歳までの男性医師20,551人を対象に調べたところ、週に少なくとも1回魚を食べている者は心臓発作などの突然死の危険性が52%低下していることが判ったと報告している(Journal of the American Medical Association誌'98/1月号)。

また、英国ウエールズ大学の研究チームによる心臓発作から回復した2,033人を対象にした2年間におよぶ調査でも、魚を週に2皿ほど食べた場合、死亡率が23%減少することが判ったと報告している(British Medical Journal誌'99 10/23号)。この中で研究者たちは、魚に多く含まれるオメガ3系脂肪酸は心臓の血液循環をリズミカルに保ち、その作用は医薬品をも上回る効果があるとしている。

他にも、魚油のオメガ3系脂肪酸摂取と冠状動脈性心臓病(CHD)の危険性低下とは関係が深いという報告もある(Journal of AmericanMedical Association誌)。ハーバード大学の研究グループが、Nurses’ Health Studyに参加した女性84,688人のデータから、34歳から59歳でCHDとがんに罹っていない女性を対象に1980年、1984年、1986年、1990年、1994年に調査を行ったところ、CHDの相対的危険率は、魚の摂取度が月1〜3回で0.79、1週間に1回では0.71、週2〜4回が0.69、週5回以上では0.66だったという。

また、魚食により前立腺がんの危険性が低くなるという報告もある。スウェーデンの研究グループがスウェーデンに住む55歳以上の男性6,000人以上を対象に、1967年より、被験者に食習慣やライフスタイルなどの聞き取り調査を行ったところ、30年間で魚を多く食べたグループは食べなかったグループに比べ、前立腺がんの割合が最高で3倍少なかったという(The Lancet誌'01/6月号)。

同様にオランダでの研究でも、55歳から69歳の男性58,279人を対象に食生活などの調査を行ったところ、642人が6年以内に前立腺がんが発症したが、オメガ3系脂肪酸を摂取したグループは前立腺がんの危険性が低かったという(Cancer誌'99/9月号)。

緑茶、関節炎の抑制や胃の炎症予防でも効果

また、日本人が伝統的に飲用している緑茶についての研究も盛んに進められている。緑茶が胃がんに繋がる胃の炎症を予防するという報告もある(International Journal of Cancer'01/5月号)。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループが報告したもので、中国人男女600人以上を対象に調査を行ったところ、緑茶を好んで飲むグループは、別のお茶もしくは全くお茶を飲まないグループと比べて、胃がんに罹る危険性が低いことが判ったという。また、量を多く長く飲むほど有効性が高いことも判明したという。

緑茶に含まれるポリフェノールが関節炎を軽減することも報告されている(Proceedings of the National Academy of Sciences'99/4月号)。ポリフェノールは光合成により生じた植物色素や苦味成分で、植物全般に含まれており、約4,000種あるといわれる。緑茶にはフラボノイド、カテキン、タンニンといったポリフェノールが含まれている。

Case Western Reserve Universityの研究グループが、マウスのコラーゲン誘導関節炎に対する緑茶のポリフェノール有効性を調べたもので、マウスのコラーゲン誘導関節炎はヒトのリューマチ性関節炎に類似しているが、緑茶ポリフェノールを与えられたマウス18匹のうち、関節炎を発病したのは8匹だけであったという。しかも発病した8匹の発状は軽かったという。 一方、ポリフェノールを与えられなかったマウスは18匹のうち、17匹が発病したという。

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