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生活習慣病の発症をいかに防ぐか〜高齢化社会を享受するために

2001年9月8日(土)、お茶の水スクエアC館3階ホール並びに8号室で「第3回 21世紀 食と健康フォーラム」(主催:日本未病システム学会)が開催された。当日、お茶の水女子大学生活環境研究センター教授の近藤和雄氏が「高齢社会における機能性食品の役割」と題して講演。抄録より内容を紹介する。

機能性食品の役割について精通することが重要

最近、成人病から名前を変えた生活習慣病が話題を集めている。生活習慣病とは、高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満など、生活習慣の乱れによって生じる疾患を、厚生省がまとめて名づけたものである。

同時に、これら生活習慣病の発症を予防するための機能性食品にも注目が集まっている。したがって、高齢化社会を享受するためには、生活習慣病に対する対策と、機能性食品の役割について精通することが重要である。

ここでは生活習慣病の中でも高脂血症を中心に、生活習慣病の予防に役立つ機能性食品の役割について最近の知見を含めてまとめてみたい。

1) 高脂血症とは何か

高脂血症は、動脈硬化を引き起こす危険因子の中でも、もっとも強い因果関係を持っている疾患として知られている。血液中の脂肪(コレステロール、中性脂肪、リン脂質、遊離脂肪酸)の高くなるのが高脂血症であるが、一般的にはコレステロールと中性脂肪の高いのを呼ぶことが多い。

コレステロールや中性脂肪は脂肪であるため水性の血液中には単独で存在することができず、水溶性のアポ蛋白を身にまとったリポ蛋白という粒子の中に取り込まれて血液中を運搬される。このリポ蛋白は大きく4つのグループ(カイロミクロン、VLDL、LDL、HDL)に分かれる。
コレステロールを含むリポ蛋白はLDL、HDLであるが、このうち、動脈硬化を起こす役割を持っているのはLDLであるのが明らかになった。またHDLは逆に動脈硬化巣からコレステロールを引き抜く役割を持っていることも明らかになった。LDLコレステロールを悪玉コレステロール、HDLコレステロールを善玉コレステロールと呼ぶ所以である。

このためさまざまな食事因子と高脂血症の関連を見るとき、単に食事因子のコレステロールへの影響を見るだけでなく、LDLコレステロールやHDLコレステロールへの影響を見ることが求められている。

2) 脂肪の摂り方

血液中のコレステロール量は、エネルギー摂取量、脂肪摂取量、コレステロール摂取量、食物繊維摂取量などの影響を受ける。中でも脂肪摂取量は重要である。これまでの疫学研究では、脂肪摂取量と血清コレステロール値、脂肪摂取量と動脈硬化性疾患との間には正の相関が認められている。

戦後の日本の食生活で最も大きな変化を示したのは脂肪摂取量である。脂肪エネルギー比でみると、昭和20年代の10%以下から、昭和50年代の25%まで、わずか30年余りで、15%以上の増加を示している。平成7年度の国民栄養調査では、ついに25%を突破して26%となった。

この日本における急激な脂肪摂取量の増加は一面では戦後の日本の長寿国としての道を拓いたとも考えられるが、他方では、日本食の欧米化をまねき、欧米なみの動脈硬化性疾患の増加が心配されている。
現在、欧米の脂肪エネルギー比は35〜40%の所が多く、日本の脂肪エネルギー比は、欧米と比べるとまだ低い。この脂肪エネルギー比の適正値に関して異論が多いが、第6次改定の栄養所要量では、20−25%としている。

3) 脂肪の“質”の問題

脂肪摂取にあたっては脂肪の質的配慮を行うことも重要である。
脂肪酸には、飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:S)、一価不飽和脂肪酸(Monounsaturated Fatty Acid:M)、多価不飽和脂肪酸(Polyunsaturated Fatty Acid:P)があり、さらに多価不飽和脂肪酸については、αリノレン酸(18:3)、エイコサペンタエン酸(EPA)(20:5)、ドコサヘキサエン酸(DHA)(20:6) n-3系と、リノール酸(18:2)、γリノレン酸(18:3)、アラキドン酸(20:4)のn-6系とがある。これらの比、S:M:Pを3:4:3、n-3:n-6を1:4にすることを第6次改定での日本人の栄養所要量では定めている。

4) 蛋白質の摂り方

蛋白質と血液中の脂肪の関連については、脂肪との関連ほど研究が進んでいるわけではない。しかし、以前より大豆蛋白の摂取によりコレステロールの低下することが知られていた。その原因について諸説言われていたが、最近になり大豆蛋白のペプチドの胆汁酸のリサイクルを遮断する作用であることがわかってきた。

大豆にはこのほか後述する抗酸化物も含まれていて、摂取に十分注意を払うべき食品とも言える。また、魚蛋白にはHDLコレステロール増加作用と抗酸化作用のあることが報告されている。

5) 食物繊維の摂り方

食物繊維は五大栄養素に比べ、栄養素としての条件を満たしていなかったために長いこと非栄養素としての扱いを受けていた。コレステロール低下作用や大腸癌、大腸憩室の予防効果などから、第六の栄養素として認められるようになったのは最近のことである。
食物繊維には水溶性の繊維と不溶性の繊維があり、水溶性のペクチン、マンナンはコレステロール低下作用を有するが、不溶性のセミロースやへミセルロースにはコレステロール低下作用は見られない。一日25g以上の食物繊維を摂ることが求められている。

6) 動脈硬化をおこすリポ蛋白の“質”

これまで明らかになってきた脂肪酸の役割は、動脈硬化における危険因子としてのリポ蛋白について、“量”を重視して、総コレステロール、トリグリセリド、LDLコレステロールの低下、HDLコレステロールの増加に、各脂肪酸が如何なる働きをするかというものであった。
しかし、前述のオレイン酸の記述でふれたように、動脈硬化の成立には、リポ蛋白の量に加えて、“質”が関連していることが判明し、“質”について注意を払うことが必要となってきた。

7) 酸化変性LDL・本当の悪玉

最近の研究では、LDLそのものが動脈硬化を引き起こすのではなく、酸化変性したLDLが問題であることがわかってきた。LDLが高いと、LDL受容体のLDL受け入れには限度があるため、LDL受容体を介して組織にコレステロールを供給できないLDLが血液中で滞留する。
滞留時間が長くなると、LDLは血管壁の内皮細胞間隙を通って内皮下に侵入した時に、酸化をはじめとした外的侵襲を受ける機会が多くなって、酸化変性LDLへと変化する。

この酸化変性LDLが、 LDL受容体によって、取り込まれなくなるため、血中の単球を呼び寄せ、マクロファージ化して、スカベンジャー受容体ファミリー(スカベンジャー受容体、CD36など)を介して自らを処理しようとする。しかし、マクロファージは、際限なく変性LDLを取り込むため、取り込みすぎて泡沫化し、動脈硬化は進展する。

従って、動脈硬化の予防には酸化変性したLDLの量を増やさないために、悪玉とされてきたLDLの量を増加させないことは当然であるが、さらにこの悪玉LDLを本当の悪玉(酸化変性LDL)にしないことが、より重要であることがわかってきた。

8) ビタミンEなどの抗酸化物の重要な役割

LDLから変性LDLに至る過程には、様々な抗酸化物が関与して、変性LDLの生成を防いでいる。血液中に存在する抗酸化物として代表的なものは、ビタミンE、ユビキノール、カロテノイド(β-カロテン、リコピン)などの脂溶性抗酸化物と、ビタミンC、尿酸、アルブミン、ポリフェノールなどの水溶性抗酸化物である。

これらの抗酸化物は、LDLの内外において、LDLの酸化修飾を防止する。脂溶性のビタミンE、β-カロテンはLDL内において、また水溶性のビタミンCは、LDLの外において、活性酸素などの酸化修飾からLDLを守っている。さらにビタミンCには、すでに酸化修飾を受けたビタミンEを元に戻す働きがあり、複雑にLDLの酸化変性を防止している。

9) 赤ワインは何故良いのか

血中の抗酸化物の中には、主に食品から摂取されて動脈硬化の抑制の役割を果たしていると考えられているものがあるが、このことを疫学的に表している事例に、“フレンチパラドックス”がある。
これは、欧米諸国では高い脂肪摂取量に比例して、動脈硬化性心疾患の発症が増加しているなかで、フランスだけが、多い脂肪摂取量に関わらず動脈硬化性心疾患が少ないという逆の現象を呈していることを指している。
このパラドックスの説明に、赤ワインに含まれる赤色色素のアントシアニンなどのポリフェノールの抗酸化作用が有力視されるようになった。

筆者らの検討では1)、健常人に赤ワインを2週間投与して、LDL抗酸化能が有意に亢進していることが確かめられた。 この他にも、Zutphen elderly study2)では、1日30mg以上のポリフェノールの摂取者に動脈硬化性心疾患の発症率の有意の低下、Seven countries study3)では、ポリフェノールの摂取量と動脈硬化性心疾患の間には、負の相関が認められている。またフィンランドの研究4)でも、ポリフェノールが動脈硬化に予防的に働くことを示す結果が得られていて、抗酸化物を摂取することの重要性が現実のものとなっている。

10) 赤ワインにつづく食品

LDLの酸化を防ぐ抗酸化物の役割が認識されるにつれ、様々な抗酸化物を含む食品が新たにわかってきたり、再評価される様になってきている。

なかでも、色素成分や渋味、苦味成分であったポリフェノールを含む食品は今まで無視していたこともあり、重要である。おそらく、赤ワインのLDLに対する抗酸化作用が明らかになる前までは、赤ワインの赤の色や渋味、苦味が私たちの身体に役に立つなどと考えた人など皆無だったのかもしれない。

赤ワインからわかってきたポリフェノールの効能であるが、ポリフェノールを調べてみると数千とも言われている様々なポリフェノールがあり、含まれている植物を酸化から守っている。そして、植物に含まれているポリフェノールが植物ばかりか、人の体内でも酸化に対する防御に重要な働きをすることがわかってきたわけである。

代表的なポリフェノールとしては、カテキン、ケルセチン、イソフラボンなどがあげられる。
カテキンを持っている食品には、赤ワインをはじめ、お茶、紅茶、カカオが、またケルセチンには、タマネギ、ブロッコリーなどがあげられ、さらにイソフラボンをみると、大豆製品に含まれているため、豆腐、納豆に加えて、醤油、味噌なども挙げられる。さらにまた、クロロゲン酸を持つコーヒー、セサミノールを持つゴマなども重要な抗酸化物である。

またカロテノイドにもベーターカロテンのニンジン以外に、リコペンを持つトマト、スイカ、アスタキサンチンを持つサケ、イクラ、エビ、カニ、タイなどがあり、抗酸化物として役立つ。

動脈硬化を防ぐためには、単にLDLの濃度“量”を下げるだけでなく、LDLの酸化変性“質”の防止も重要であることが明らかになった。
食品の機能性を考えるとき、これらの知見は重要で、高齢社会に不可欠のものとなっている。

【文献】
1) Kondo K et al.:Lancet 344:1152(1994)
2) Hertog MGL et al.:Lancet 342:1007-1011(1993)
3) Hertog,MGL et al.:Arch Intern Med 155:381-386(1995)
4) Knekt P et al:BMJ 312:478-481(1996)

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