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福島甲状腺検査、「5.0mm以下の結節が認められる」35%
超音波検査、ガンとは限らない微小な結節まで発見

福島市内在住者を対象にした「平成23年度 甲状腺検査の結果概要」が公表された。それによると、「5.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞を認めたもの」が35%、これを非常に高い割合と海外メディアが騒いでいるが、はたして本当にそうなのか。この超音波検査という検診手法についてはさまざまな問題点が指摘されている。甲状腺ガンの実体を探る。

「直ちに二次検査を要するもの」は0人

福島市内在住者を対象にした、「平成23年度 甲状腺検査の結果概要」が公表された。 検査実施総数は38,114人(平成24年3月末日現在)。この中で、一次検査の判定結果において、A判定(A2)が「5.0mm以下の結節(しこり)や20.0mm以下の嚢胞を認めたもの」35.3%、これが高い割合ではないかと内外のメディアが取り上げ、ネット上でも甲状腺ガンの発症を危ぶむ声があがっている。

甲状腺検査の判定については、A判定(A1)・(A2)、B、Cの4段階に分けられるが、今回、A判定(A2)「5.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞を認めたもの」の内訳をみると「20.0mm以下の嚢胞を認めたもの」が35.11%で、ほぼこれが占めている。嚢胞とは甲状腺内部の空洞状になった部位でここに水が溜まるが、ほとんどが良性である。

こうした超音波検査でたまたま見つかった直径5mm以下の結節の細胞診は不要で、後述するが、一定の条件を満たすものであれば、経過を見ていくというのが現在の医療機関の大方の見解である。そのため、このA判定(A2)については次回(平成26年度以降)の検査まで経過観察としている。またB判定では二次検査もあるが、とくに急を要するものではなく、C判定では、「甲状腺の状態等から判断して、直ちに二次検査を要するもの」は0人となっている。

超音波検査という手法、漁船の魚群探知機から発想

甲状腺検査には、触診、超音波検査、穿刺吸引細胞診という方法がある。もともとは触診で行われていたが、今では、超音波(エコー)検査で行われることが多くなっている。

しかしながら、この超音波検査についてはさまざまな問題点が指摘されている。この超音波検査という手法、実は欧米ではあまり使われていない。日本が誇る発明機材で、漁船の魚群探知機から発想を得たものだ。今では日本中の医療機関に普及しているが、医師の技量により検診に差が出やすいことが指摘されている。

癌研究会付属病院頭頸科・杉谷巌著『甲状腺がんなんて怖くない』には次のようにある。
「経験の少ない医師の場合、超音波検査で何か影があると、CTやらシンチグラフィから細胞診までいろいろ検査をやっても、結局診断をつけることができません。がんでないと言い切る自信がないものですから手術を勧める、ということがいまだに多いのです。症状がまるでなかった人が、腺腫様甲状腺腫や微小がんで有無をいわさず手術を受けさせられて、術後ひどい頸の違和感に悩まされている、などという訴えを聞くことがよくあります」

超音波検査、3mmほどの結節は3人に一人の割合で見つかる

こうした超音波検査では、ガンとは限らない微小な結節までも発見される。3mmほどの結節は3人に一人の割合で見つかるともいわれている。 A判定(A2)の「5.0mm以下の結節や20.0mm以下の嚢胞を認めたもの」の中には当然こうしたものも含まれる。海外メディアはこうした日本の優秀な医療検査機器の精度をまずよく理解する必要があるだろう。

現在、日本で甲状腺ガンによる死亡は年間で1000人程度といわれている。超音波検査で甲状腺微小ガン(直径10mm以下)の発見が容易になってきたが、触診ではなく、超音波検査で甲状腺微小ガンを見つけると日本全国で200万人近くいる計算になるともいわれる。

ちなみに、甲状腺ガンは、乳頭ガン(乳がんとは関係なし)、濾胞ガン、髄様ガンの分化ガン、未分化ガン、悪性リンパ腫の5種類。このうち乳頭ガンが90%以上を占めるが、乳頭微小ガンの99%以上は大きくなるのがゆっくり、あるいはおとなしいままで、手術が必要かどうか医師の間でも議論が分かれるところだという。

時間が経ってもほとんど変化せず、命にかかわることがない

こした甲状腺ガンの扱いについて、前述の『甲状腺がんなんて怖くない』から、「甲状腺を超音波検査すると、実に100人に1人以上の割合で1センチ以下の非常に小さい乳頭ガン(微小乳頭ガン)が見つかることが分かってきました。最初は、これらを幸運にも早期発見された早期の甲状腺ガンとして片っ端から手術を行ってきたのですが、次第にこれらは早期がんとは意味が異なり、時間が経ってもほとんど変化せず、命にかかわることがないもので、基本的に一生放置しても良いものであると考えられるようになりました。もちろん微小ガンからいきなり未分化ガンに変わったなどという報告もありません」

超音波検査で微小ガンをみつけて手術しても病人が増えるだけ

さらに、「微小乳頭ガンのうち、大きく育ったり浸潤や転移を起こしたりして問題になるのは100分の1以下だという計算になるのです。それ以外の大半のものは生涯、気づかれないまま、からだに対して無害なままで終わっているということになります。ですから、検診などで超音波検査まで駆使して、片っ端から微小ガンをみつけて手術しても、病人が増えるだけで甲状腺ガンで死ぬ人を減らすことにはならないのではないかという考え方です」

また、「超音波検査は確かに有用な検査ですが、むやみと使うと見つからなくてもよいようなものまで見つかってしまいます。そのうえ、甲状腺の病気について十分な知識のある先生ならよいのですが、きちんとした診断すらつけられない医師の場合、患者さんに不必要な不安を抱かせてしまう場合も多いのです。たまたま、超音波検査をしたら、微小ガンかもしれない小さな結節が見つかってしまった、という場合、細胞診まで行なうと「ガン」という診断が確実についてしまいます。そうなると、多くの施設では、手術を進めざるを得ないので、あえて細胞診は行わず超音波で経過を見るだけにしておくのがよい、という意見もあります」。
ただし、微小乳頭ガンでも手術を要する場合もある。周囲の気管への浸潤や声帯を司る反回神経に障害が出る場合などだ。

甲状腺ガンの大部分は予後が大変良く、多くの人々は自身が甲状腺ガンであったことすら知らずに他の病気で亡くなっているという。「甲状腺ガン以外のいろいろな病気で亡くなった方の剖検(亡くなった後に解剖をして病気の原因についてしらべること)の結果によると日本人の28.4%に甲状腺ガンがみつかっています。これらの人たちにとって甲状腺ガンの存在は寿命にまったく影響をおよぼさなかったということです」(日赤医療センター第一内科副部長・赤須文人著『甲状腺の病気とつきあおうQ&A』)

超音波検査の弊害を知る山下氏

これに関連するが、『週刊文春』(12.3.1号)で「郡山4歳児と7歳児に甲状腺がんの疑い」と題した記事を掲載している。後日、取材を受けた札幌別通内科の杉澤憲医師が記事を「誤報」とすると、文春側(自由報道協会)は否定会見で応酬するなど拙速な報道体制があらわになった。「衝撃スクープ!」と見出しこそ派手だが、結果的には「良性だった」と、まさに唖然とさせられる衝撃的な内容である。

この記事の中で、福島医大副学長の山下俊一氏が1月16日に全国の日本甲状腺学会会員宛に送ったとされる以下のメールを紹介している。

<一次の超音波検査で(中略)5mm以下の結節や20mm以下の嚢胞を有する所見者は、細胞診などの精査や治療の対象にはならないものと判定しています。先生方にも、この結果に対して、保護者から問い合わせやご相談が少なからずあろうかと存じます。どうか次回の検査を受けるまでの間に自覚症状が出現しない限り、追加検査は必要ないことをご理解いただき、十分にご説明いただきたく存じます>

山下氏がなぜこうしたメールを送ったのか、前述の超音波検診の特殊性を考えればおのずと理解できる。これを同誌は、山下氏が「検査を受けないよう働きかけている」と、甲状腺検診に圧力をかけたかのように山下氏の顔写真を掲載しているが、この非道な報道に対し、山下氏への同情を禁じ得ない。

山下氏といえば、チェルノブイリ原発事故後、笹川財団のプロジェクトで、広島・長崎の放射線医学の専門家らと、1991年から2001年にかけ、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアといった汚染地域の住民の健康調査を行っている。
この間、検診した子どもたちは約20万人。山下氏は甲状腺を担当し、超音波診断装置を搭載した車で、住民の検診と現地スタッフの研修を行いながら各地を回っている。 ソ連崩壊の混乱期、まともな検診施設も機器もない状況の中で、どれほど苦労したか察するに余りある。詳細については、笹川チェルノブイリ医療協力事業を振り返ってに記されている。

チェルノブイリでの甲状腺ガン、死者はゼロ

福島における放射性ヨウ素被曝を、そのままチェルノブイリと比較しても意味がない。ふだん海藻など海産物を多く摂る日本の子供達と、チェルノブイリのような内陸部で育った子供達とではヨウ素の摂り方がまず違う。十分なヨウ素を保有している日本の子供たちには甲状腺に放射性ヨウ素が集中することは考えにくい。また、チェルノブイリでは、事故の情報をしばらく伝えなかったことも被害を拡大させた大きな要因となっている。

では、どの程度の放射性ヨウ素被曝で甲状腺ガンが誘発されるのか、ポーランドの例がある。チェルノブイリの事故の際、近隣国のポーランドでは事故の2日後に通常の約50万倍の強い放射能が各地で検出されたため、政府から1850万人にヨウ素剤が配られた。

しかしその際、ポーランドでヨウ素剤で予防をしなかった人たちの甲状腺の被曝線量はおよそ50mSvだったが、後にこのレベルの放射線照射での甲状腺ガンの誘発率はゼロであることが明らかになり、ヨウ素剤の内服は不要であることがわかっている。(Jaworowski,Z.:ELRScience & Technology,May7,2004)

チェルノブイリでの甲状腺ガンの発生については、これまでの発表と食い違うことが次第に明らかになってきている。チェルノブイリの事故評価で最も信頼できるとされている、国連など8機関とベラルーシ、ロシア、ウクライナの政府による『チェルノブイリ・フォーラム』の報告によると「小児甲状腺ガンが4000例発症、15人が死亡」とされている。

ところが、『放射能のタブー』(KKベストセラーズ)で副島隆彦氏と対談したラファエリ・ヴァルナゾヴィッチ・アルチュニアン氏(ロシア科学アカデミー原子力エネルギー安全発展問題研究所副所長)によると、当時、740人の子供たちが甲状腺ガンを発症したが、うち300人が放射線被曝によるもので、治療により全て治癒、死者はゼロだったという。

ヨウ素過多による甲状腺の腫れではないのか

ここで疑問なのは、放射線被曝ではないにもかかわらず甲状腺ガンと診断された440人の子供たちのことである。ドキュメント映画「チェルノブイリ・ハート」では甲状腺ガンを発症したとされる多くの子供たちが映し出され悲しみを誘った。あの映像は一体何だったのか。当時、ソ連政府は子供たちにヨウ素剤を与えたが、国連科学委員会委員長のヤオロスキーは、実際はヨウ素過多により子供たちの甲状腺に腫れが生じていたのではなかったか、と論文(「オカルト・サイロイド・キャンサー・オブ・チルドレン」)で指摘している。

チェルノブイリの甲状腺ガンにまつわるもう一つの大きな疑念がある。
チェルノブイリ事故から4、5年後に甲状腺ガンが急増した、といわれる。チェルノブイリ事故が起きたのが1986年。実は前述の通り、その4年後、ソ連政府からの要請で、1990年から広島・長崎の医師らがチェルノブイリに入り、10年間、甲状腺検診や治療で献身的な活動を行っている。

当時、ソ連が崩壊寸前の時で、まともな検査施設も診断装置もなかった。91年12月には遂にソ連が解体し、世情はさらに混沌とした。まさにその最中の日本の医師団のチェルノブイリ入りである。この時、日本から持ち込まれたのが超音波診断装置。つまり、「4、5年後に甲状腺ガンが急に増えた」というわけではなく、単に、日本から持ち込んだ超音波検査機器でそれまで見つけることができなかった甲状腺微小ガンが発見できるようになった、ということではなかったのか。



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