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セシウム137、動物・細胞実験で長期照射の影響を検証
ガン抑制から延命まで、「セシウム137」の真実

東京都狛江市にある電力中央研究所・放射線安全研究センターでは、1998年に低線量率放射線長期照射設備を設置し、セシウム137(ガンマ線)を線源とし、動物および細胞実験で低線量・低線量率放射線照射の影響の検証と機構解明の研究を進めている。

放射性物質が発する放射線、適正な範囲で身体に好影響

「セシウム137でガンにかかりにくくなる」。こういうと、セシウムでガンリスクが高まるとマスコミにさんざんに脅かされてきた人々は、とても信じられないと眉をひそめることだろう。さらに、ガン抑制だけではない、「寿命も延ばす」とでもいうと、驚天動地だ、そんな話は聞いたことがない、と顔しかめるだろうか。

電中研・放射線安全研究センターでは、700匹のマウスを同時照射し、0.3〜3mGy/時の線量率での影響を観察。とくに、放射線適応応答や生体防御機能の活性化、発ガンの機構解明などの検証を行っている。この施設と系列の文科省所管の環境科学技術研究所(青森県六ヶ所村)でも、1995年にセシウム137を線源とした実験設備を設置し、0.1〜300mGy/時の線量率でマウス実験の検証を行っている。

セシウムには134、137などあるが、134の半減期は2年と短い。そのため、セシウム137がこうした実験や医療用でよく用いられる。福島原発の事故以来、誰もが毎日のように耳にするセシウム137がすでにこうした施設で、多くのマウスに長期間照射され、生体影響が検証されてきた。このことはマスコミで報じられることがほとんどない。そのため、国民の多くがセシウム137の実体を知らない。

セシウム137、1.2mSv/時で有意にガンを抑制

放射線安全研究センター・低線量率放射線長期照射室におけるセシウム137によるマウス実験のガン抑制を紹介しよう。実験内容は次のようなものだ。単位のGy(グレイ)とSv(シーベルト)は同一と考えていただいてよい。現在、ホットスポットと騒がれているのはμSv(マイクロシーベルト)レベルで、1,000μSv=1mSvとなる。いかに超微量の放射線に神経質に騒いでいるかがこの実験などからもわかるであろう。

実験では、一群35 匹の雌のマウス(5週齢)を、3.0mGy/時、1.2mGy/時、0.35mGy/時の線量率で35 日間、セシウム137で照射。その後マウスの右そけい部にタールに含まれる発がん成分のメチルコラントレンを0.5 mg 注射した。メチルコラントレンの皮下注射では、95 %の高率でガンが発生する。注射後も、同じ線量率で照射し、経過を観察した。 実験の結果、216日経過後、0.35 mGy/時、3.0mGy/時の照射群では、非照射対照群と比べ腫瘍発生率に有意な差はみられなかったが、1.2mGy/時の照射群では有意な腫瘍発生率の低下が認められた(図1・図2)。

この実験では、216日間、マウスに0.35〜3.0mGy/時の線量率でセシウム137を長期照射しているが、それでガンの発生が高まったという結果には至っていない。それぞれの線量率でガン抑制が示されたが、とくに1.2mGy/時で顕著な抑制率が認められた。

ちなみに、積算被曝は、マウスの1時間当たりの照射が1.2mGy、マウスの飼育作業時間の2時間を引き、1日22時間照射とすると26.4mGy、216日で5,702mGy、およそ6Gy(6000mSv=6,000,000μSv)となる。

慢性被曝(低線量率被曝)のガンリスク、「直線仮説」では説明つかず

この実験からわかることは、6Gyを一気に浴びた場合(急性被曝)と毎日少しずつ浴びた場合(低線量率被曝)では、全く違う現象が起きるということである。「しきい値なし直線仮説(LNT仮説)」では6Gyは一度に浴びると死に至るとされる線量である。 「放射線は浴びた量により、直線的に有害性が高まる。比例して確率的にガンリスクが高まる」とするLNT仮説であれば、積算被曝が6Gyともなると、当然発ガンに至ってもおかしくない。ところが、発ガンどころか逆にガンが抑制されている。

これでは、国際放射線防護委員会(ICRP)の規制値策定の基となるLNT仮説に当てはまらない。毎日の被曝量を貯金のようにコツコツ記帳し、満期になったらガンになるかも知れないと怯えていたら、ある時、ガン抑制という大きな特典がついて戻ってきたというような話である。それならば、なにも放射能ノイローゼになり、ストレスをためることもなかった、ということになる。

他にも、セシウム137を500日間、1.2mGy/時の照射を行ったマウス実験もある。この実験でも次のような結果が出ている。

1) 2週間マウスに照射すると、免疫細胞の数が著しく増加した。一方で炎症性や自己免疫疾患を疑わせる悪影響を及ぼす細胞は出現せず、免疫系が理想の状態におかれた。

2)従来の高線量率照射の約10万分の一(1.2mGy/時)の放射線をマウスに500日間当て続けたところ、積算すると従来の高線量率の照射量をはるかに超えていたにもかかわらず、発ガン例はゼロであった。それどころか弱い放射線を照射されたマウスは、放射線を照射されていなかったマウスに比べ、はるかに毛並みも良く、若々しく、活発であった。

3)放っておくと150日ほどで死ぬようなマウスに5週間照射したところ、全身のリンパ節の腫れや血管炎、関節炎、皮膚炎、脳炎、腸炎、肝炎などが治った。また、脳・中枢神経系の疾患が治った。寿命が著しく延び、副作用は全く認められなかった。

この実験では、マウスにセシウム137を1.2mGy/時、500日照射してガンの発生率はゼロであった。積算被曝量は(1.2mGy/時×22)×500=13.200mGy。積算で13.2Sv(13.200mSv)ともなると、LNT仮説では当然ガンが発生するはずだが、発ガンもせず、非照射マウスに比べ、逆に生命力が高まり、若返るという現象が起きている。

このセシウム137照射1.2mGy/時をヒトでみるとどうか。
ヒトは動物の2倍感受性が高い。そのままをヒトに当てはめることはできないが、半分の0.6mGy/時(600μSv/時)というと、あの世田谷のラジウム騒動の一件が思い出される。
10月12日、世田谷区の歩道で2.7μSv/時の放射線が計測された。世田谷区の安全値の10倍以上になることから、区の担当者が歩道沿いの家に入り、床下を覗いたところ木箱の中にラジウム226の入った細い瓶が数十本置かれていた。放射線量を文科省の精密な測定器で計ったところ600μSv/時という高い数値を示したという。

この家で暮らしていた女性は現在92歳。女性が50年間毎日寝ていた床下にはラジウムの木箱が置かれていた。ラジウムは半減期が1600年と長く、ガンマ線やラドンガスからアルファ線が出る。高田純教授(札幌医科大学放射線防護学)はこのラジウムの影響を、床板で遮断されているものの、女性はその傍で寝起きしていたため、毎時10〜20μSv、年間では90〜180mSvの被曝と推定している。かなり高い線量を継続的に浴びたことになるが、女性もこの家で育った3姉弟も大病を患ったこともなければ、ガンにもなっていないという。

セシウム137、寿命を延長

セシウム137による寿命の延長も確認されている。
実験では、ヒト早発性老化症候群モデルマウス(klothoマウス)を用いた。このマウスは、老化抑制遺伝子klotho が破壊されているため、骨粗鬆症や動脈硬化、皮膚萎縮などの老化症状を発症し、寿命は生後60〜70日程度である。

このマウスに、生後28日目から0.35mGy/時(0.35mSv/時=350μSv/時)の線量を持続的に照射した。その結果、生後50日頃までは非照射対照群と照射群の死亡曲線に差は認められなかった。しかし、非照射対照群が全て死んだ後も、照射群は生き残るマウスも見られ、生存が100日を越えるマウスも認められた(図3)。

この実験では、セシウム137のガンマ線照射でマウスに明らかな寿命の延長が認められている。余談だが、先述の世田谷の50年以上ラジウムと共に過した92歳の女性と同様、これまで紹介した、トーマス・D・ラッキー、モーリス・チュビアーナ、マイロン・ポリコーブ、フリードリッヒ・ファイネンデーゲンら放射線の世界的権威らもすでに90歳を越えているが、いまだ現役で、第一線で活躍している。彼らがとりわけ食事に気をつけ、健康管理に精を出しているという話は聞かない。

放射線ホルミシスの火付け役であるトーマス・D・ラッキー博士は、栄養学の専門家でもあるが、放射線の研究以来、ウラン鉱山の石をベッドに敷きつめて寝ているという。ラッキー博士によると年間100mSvが健康に最適な放射線量であるという。100mSvというと、10月末に食品安全委員会が厚生労働省に答申した生涯被曝線量である。
後述するが、放射線の内部被曝の脅威を声高に叫ぶ肥田氏も94歳と高齢である。マスコミに引っ張りだこで低線量放射線のリスクを闊達に説いている。

セシウム137、糖尿病抑制・延命効果

糖尿病モデルマウスによる糖尿病抑制・延命効果も確認されている。
実験では、セシウム137を0.70mGy/時(700μSv/時)で照射しながら、生後10週齢から飼育した。

24匹中3匹が尿糖値の低下を示したが、いずれも照射群であった。一方、非照射対照群では尿糖値の改善が全く認められなかった。 照射群の全てのマウスに尿糖値の改善が認められたわけではないが、死亡率や外見に大きな違いが見られた。非照射対照群では40週齢で死亡するマウスが出たが、照射群では70週齢過ぎと延命が見られ、最長寿命のマウスも照射群であった。

マウスの平均寿命は非照射対照群が89週齢、照射群は104週齢でセシウム137照射のマウスに寿命の延長が見られた。90週齢の時点でのマウスの外見の比較では、照射群では毛並みも、皮膚や尾の柔軟性も良好に保たれていた。また照射群は非照射対照群に比べて活動的であった(図4)。

放射線安全研究センターでは、こうしたセシウム137照射の実験から、マウスの肝臓や膵臓などの諸臓器において抗酸化物質の増強が考えられるとしている。これらのマウス実験によるガン抑制、寿命の延長、糖尿病の抑制効果は、セシウム137照射の有益性を示すエビデンス(科学的根拠)のほんの一部である。

放射線を扱う技師や医師、徹底的に「しきい値なし」を叩きこまれる

もうひとつ、放射線の人体影響を語るうえで重要なのが、「しきい値」の有無についてであるが、これについての同センターでの検証も紹介したい。
1927年にH.J.マラーが雄のショウジョウバエに]線を照射して突然変異リスクを調べ、3年後、1930年に、C.P.オリバーもショウジョウバエの雄の精子を用いた実験で、放射線に安全領域は無い、すなわち「しきい値なし」とし、「放射線は微量でも毒であり、有害性は直線的な比例関係にある」と提唱した。

しかしこうした実験で使われた精子のほとんどが成熟精子でDNA修復機能のない特殊な細胞であった。これらの実験の追試を同センターで、1984年に開発された「翅毛スポットテスト」で行ったところ、DNA修復機能を有する幼虫の未熟な精子のガンマ線照射では明確なしきい値が認められたという。

H.J.マラーが「しきい値なし直線仮説」を提唱し、他の遺伝学上の業績と併せ、1946年にノーベル生理学・医学賞を受賞、1958年に、ICRPがこれを正式に採択し、放射線防護の教科書には「放射線にしきい値なし」と掲載された。そして、放射線を扱う技師や医師は徹底的にこのことを叩きこまれた。 日本人のガンの3.2%がCTスキャンなど放射線検査の被曝という説も20mSvで子供の何人にガンになるという確率論もすべて「しきい値なし直線仮説」に基づく計算である。

今では、ICRPも100mSv以下でそうした算出をすべきでないとしているが、「しきい値なし」を徹底して教え込まれた放射線技師や医師らは、その呪縛から抜け切れず、いまだにそれを国民に押し付けている。TV・週刊誌などマスコミに登場する学者の放射線への見解が食い違うのはそうした背景があるためだ。突きつめれば、放射線防護の教科書にあるICRPの「しきい値なし」を鵜呑みにしているか、そうでないかの違いである。

放射線技師の資格試験では、もちろん「しきい値なし」としなければ通らない。国民の年間被曝量も1mSvとしなければいけない。ところが、放射線技師の資格を得たとたん、なぜか急に彼らだけ年間最大50mSvまで浴びて良いことになる。ペーパー試験に通っただけで非常に放射線に強いDNA修復機能を有した人種に様変わりしてしまう。これほど不可解な話もない。それでは福島で避難区域に追いたてられた人々がこのペーパー試験に受かれば年間50mSvが許され、すぐにでも家に帰れるのか、とICRPに問い正したいところだ。

根拠なき「しきい値なし」に基づく「煽り派」学者らの言説

いわゆる「煽り派」と呼ばれる学者らの言説は放射線防護の教科書にあるICRPの「しきい値なし直線仮説」に拠るもので、裏付けとなる科学的根拠は何もない。科学的根拠の無い不可解な仮説をコンセンサス(合意)、コンセンサスと飽きもせず言い張る学者もいるが、すでにその仮説も、DNA修復機能の無いハエに基づいた実験によるものであることが明らかになり、良識派からは完全に見放されている。

迷惑な話だが、「煽り派」学者らの根拠なき憶測で、反原発にシンパシーを感じる多くの人々が突き動かされ、多大な風評被害がもたらされ、国民の多くがストレスを抱えているというのが現実だ。

「煽り派」が指摘する遺伝子の損傷は放射線だけに限らない。放射線以上に活性酸素の攻撃力のほうがより深刻で、それを発生させる農薬や食品添加物、薬剤、タバコ、紫外線など身の周りにはさまざまなリスクファクターがあふれている。さらにいえば、「煽り派」学者によりもたらされるストレスでも活性酸素は生じる。今や、彼らの根拠なき発言そのものが日本人のガンリスクを大きく上昇させる要因となっている。

この農薬や食品添加物、薬剤、そして「煽り派」がもたらすストレスで発生する活性酸素の毒を消すのが、セシウム137による低線量放射線である、といったら「煽り派」は一体どんな顔をするだろうか。

セシウム137、250mSv/時照射でSOD酵素が5割増

セシウム137は延命だけでなく、若返り効果も報告されている。250mSv/時(250,000μSv/時)をマウスに数分照射したところ、活性酸素除去のSOD酵素が50%増になり、65週齢のマウスが7週齢のマウスの肉体レベルに若返ったという。マウスの寿命は約100週齢のため、年齢でいうと65歳が7歳になったようなものだ。

これについては、電中研名誉顧問の服部禎男氏が1999年にマサチューセッツ大で講演した際の逸話が面白い。講演後、服部氏のもとに、世界的な製薬企業の大手F社の薬品開発部門の常務が歩み寄り、世界中から若返り薬の開発を求められているが、どれほど優れた薬剤を開発したとしても、せいぜいSOD活性は2%増が限度、それがほんの数分のセシウム137のようなガンマ線照射で5割増というのには驚嘆した、と語ったという。まったく、こんなことが世に知れ渡れば製薬企業もたまったものではないだろう。

ところで読者は、250mSv/時という数値をどこかで聞いたことがないだろうか。そう、福島原発事故の処理作業のために最終的に引き上げられ、マスコミが非人道的ではないかと大騒ぎした数値である。

実は、このレベルの線量の数分の照射で、ガン治療においても劇的な効果が得られることがすでに臨床でも報告されている。
坂本澄彦(東北大学名誉教授)らの研究グループが1977年より、東大医学部、東北大医学部で低線量放射線の全身照射への影響の研究を行っている。実際に患者の治療で、100〜150mGy/時(mSv/時)を1回1〜2分、全身(又は半身)に10数回、ガンマ線を照射すると、ガンに対する生体の免疫力が高まると報告している。従来の高線量照射では悪性リンパ腫の生存率は50%だが、低線量照射では84%と高く、低線量照射で免疫系の活性化が認められるという。

坂本教授自身も1997年に大腸ガンを患ったが、ガンの切除手術後に低線量照射を行い再発を免れたという。現在、この坂本方式と呼ばれる低線量照射療法は欧州の医療機関で受け継がれている。

ちなみに、放射線治療では高線量の放射線を照射するが、放射線障害による副作用が大きい。白血病治療では、最初に高線量全身照射で血液の細胞を殺し、その後に骨髄移植をするが、その際、全身に10Gy(10Sv=10,000mSv)ほど照射する。低線量の放射線で白血病が発症するといいながら、白血病治療では、これほどの線量を浴びせるのである。 これでDNA損傷は問題ないのかというレベルの線量であるが。

「内部被曝の脅威」、肥田氏の誇張

ここまで紹介したセシウム137による低線量のガンマ線照射の有益性については活性酸素除去のSODやGPX(グルタチオンベルオキシダーゼ) などの酵素やガン抑制遺伝子p53の活性と深く関わっていると考えられている。

ここで少し、内部被曝の脅威をことさらに世に喧伝した肥田氏の著書『内部被曝の脅威』(ちくま書房)を検証してみたい。これを読むと、肥田氏のいう「低線量放射線の恐怖」が、1972年にアブラム・ペトカウが提唱した理論に依拠していることがわかる。ペトカウ理論とは次のような内容だ。

1972年、アブラム・ペトカウはカナダ原子力委員会のホワイトシェル研究所で全くの偶然から、液体の中に置かれた細胞が、高線量放射線による頻回の反復放射よりも、低い線量放射線を長時間、放射することによって容易に細胞膜を破壊することを実験で確かめた。

ペトカウは牛の脳から抽出した燐脂質でつくった細胞膜モデルに、15.6Sv/分のX線の放射線を58時間、全量35Svを照射することで、細胞膜を破壊することができたが、実験を繰り返すうち、燐脂質の膜は0.00001Sv/分の放射線をうけ、全量0.007Sv(7mSv)を12分間被曝して破壊されたという。 何度繰り返しても同じ結果で、放射時間を長くすればするほど、細胞膜破壊に必要な放射線量が少なくて済むことが分かったという。

これにより、「長時間、低線量放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」ことが明らかになり、「ペトカウ効果」と呼ばれるようになった。

ペトカウの実験で明らかになったことは、生体に多大なダメージを与える活性酸素の発生である。肥田氏は次のように述べている。

人体の細胞は全て体液という液体に包まれている。体内で放射されるアルファ線、ベータ線などの低線量放射線は体液中に浮遊する酸素分子に衝突して、電気を帯びた活性酸素に変化させる。荷電して有害になった活性酸素は、電気的エネルギーで内部を守っている細胞膜を破壊し大きな穴を開ける。

その穴から放射線分子が細胞内に飛び込み、細胞内で行われている新陳代謝を混乱させ、細胞核の中にある遺伝子に傷をつける。遺伝子を傷つけられた細胞が死ねば何事も起こらないが、生き延びると細胞は分裂して、同じところに同じ傷をもつ細胞が新しく生まれる。

分裂は繰り返され、内臓組織は細胞がたえず生まれ変わって生き続けるが、傷もそのまま受け継がれ、何かの機会に突然変異を起こす。細胞が内臓、諸臓器を構成する体細胞なら白血病、ガン、血液疾患などの重篤な慢性疾患を起こして死に至らしめる。これがペトカウ効果説に導かれた低線量放射線の内部被曝の実相である。

つまり、放射線が毒性の高い活性酸素を作り出すことで、遺伝子が損傷し、突然変異から白血病やガンが引き起こされると、内部被曝の恐怖を肥田氏は説いている。

ペトカウ理論は懐かしい昔話

しかし、この40年近くの前のペトカウ理論に放射線医学の研究者らは納得がいくだろうか。確かに、ペトカウにより低線量放射線で活性酸素の発生が見出されているが、今では昔の懐かしい話でしかない。

ペトカウの発見から15年後の1987年、フリードリッヒ・ファイネンデーゲン博士(放射線分子生物学の創設者)らが、低線量放射線はDNAの合成を一時的に抑制することを確認している。これは、放射線照射で受けた細胞の修復に必要な時間を確保するためであるが、この間に、活性酸素除去酵素のSODやGPX(グルタチオンベルオキシダーゼ)が増産されることを発見している。

こうした生体防御で、ヒトは放射線で一時的に発生する活性酸素から身を守っている。確かに、ペトカウが指摘するように放射線で体の細胞内の水が電離し、活性酸素は発生する。しかし、その毒性の強い活性酸素にヒトは無防備というわけではない。ヒトは地球に誕生して以来、常に放射線を浴び、共存関係を築いてきた。当然、遺伝子の活性や酵素でそれに対抗する機能をヒトは獲得している。それを「適応応答」という。

この「適応応答」による活性酸素除去酵素の誘導こそが、放射線ホルミシスの本領である。先のマウス実験を例に挙げると、200日以上のセシウム137の低線量照射でマウスの発ガンが抑制されている。1.2mSv/時を1日中浴び続けるという慢性被曝である。ペトカウ理論であれば、活性酸素の毒性でマウスは早い段階で死に絶えていなければならない。ところが、実際には逆の現象が起きている。セシウム137照射で寿命が延長しているマウスも同様のことがいえる。

また、セシウム137を1.2mGy/時、500日照射したマウスもガンの発生率がゼロであった。積算被曝では、(12.mGy/時×22)×500=13.200mGy。それでも非照射のマウスと比べ、毛並みも良く、若々しく、活発である。13.2Sv(13.200mSv)にもおよぶ慢性被曝だが、残念ながらペトカウ効果によるネガティブな影響は見出されていない。

ペトカウ効果がもはや無意味なものであることは、すでにヒト試験や疫学調査でも立証されている。ラジウムによるラドン温泉として知られる鳥取県の三朝温泉では、岡山大学三朝医療センターが併設され、山岡聖典氏(岡山大学医学部)らの研究チームが、ラジウムのラドンガスによるアルファ線被浴で血中のSOD活性、細胞の酸化防止のGPX(グルタチオンベルオキシダーゼ)の増加、細胞膜過酸化脂質の減少、脳細胞膜の透過性の上昇など、低線量放射線で有益な効果が得られることを明らかにしている。 三朝温泉地区の人々は飲泉や吸引で常にラドンガスによるアルファ線の慢性被曝だが、37年間の疫学調査では、胃ガンや肺ガンが全国比の2分の1である。

政府と東電が公言しなかったこと

3月12日、福島第一原発の水素爆発で立ち昇る白い噴煙は、広島・長崎の原爆投下を想起させた。日本中が放射性物質で汚染される。誰もが放射性物質が舞い上がる悪夢のような光景に恐怖をつのらせたに違いない。

福島原発事故で飛散した放射性物質の健康影響について、当時の枝野官房長官は「健康にただちに影響はない」と記者発表した。すると、マスコミは「政府や東電は重要なことを隠蔽している」と騒ぎたて、国民は、「10年後、20年後にガンになるのか」と疑心暗鬼に駆られた。

国民の耳に届くのは、政府筋の発表は信用できないというマスコミの声ばかり。代わりに、正義の御旗を掲げた原子炉研究家や環境評論家、内部被曝の恐怖を訴える者が国民の憤懣をすくい上げるかのように登場し、放射能の恐怖を煽った。

広島・長崎の原爆投下の恐怖と重ね合わせ、ヒステリー状態に陥った国民は政府筋の見解に耳を貸さず、マスコミが「放射能の真実を語る者」として仕立てた者たちの声に耳をそば立てた。

しかし、本当に彼らは、真実を語っただろうか。
もし、彼らが真に日本の国民のためを思う真摯な学究者であるというのなら、ICRPに「しきい値なし」の科学的根拠を問い正したであろう。セシウム137の制ガン効果を示し、「1.2mSv/時(1200μSv/時)、マウスへの500日間の照射で、発ガンはゼロ。照射マウスは若々しく、活発であった」という事実を国民の前に披歴したであろう。

持論に都合の悪いものはすべて伏せるというのであれば、もはや学究者ではなく、反原発のアジテーター( 扇動者)という称号のほうがふさわしい。単に、原発への鬱うっくつ屈した思いを抱く者でもなく、教祖のように崇められたい者でもなく、原爆への恨みで凝り固まっている者でもない、公正に「放射能の真実」を語れる者であったかどうか、これから彼らが国民から厳しく問われることになるだろう。

マスコミの言うとおり、政府や東電が隠していたものがあったとすれば、多くのマウス実験で、セシウム137がガン抑制や寿命の延長に効果があった、という事実であろう。関連の検証はすでに数千例からある。そして、ICRPの規制値が、DNA修復機能の無いハエを使った実験による、科学的根拠のない「しきい直なし直線仮説」で策定されているという事実も。

パニック状態で錯乱した国民にそれを言えば、政府は頭がおかしくなったか、と糾弾され、混乱の極みに達したことだろう。だから、それは公にはできなかったかも知れない。放射線技師も医師も「しきい直なし直線仮説」を徹底的に叩きこまれ、元ICRPの東大教授が涙ながらに語った、「しきい値なし」の放射線防護の法規制で世界中が動いている。

「低線量でも危ない」という恐怖支配

そして、6月、福島県の酪農家の男性が亡くなった。放射能被害で死んだのでない。「しきい値なし直線仮説」による規制値で生活圏を仕切られ、仕事を奪われ、将来を悲観して自殺したのだ。多くの人々が職を失い、福島を離れていった。風評被害、差別に偏見、残った人々にも「煽り派」学者らの「しきい値なし」の救いようのない欺瞞とはた迷惑な憶測が押し付けられた。

政府はこの先も、「しきい値なし」を通し続けるしかないであろう。今さら間違いだとわかっても、それで社会が回っている。低線量放射線、セシウム137の真実を「隠蔽」し続けるしかない。アジテーター達に放射能恐怖を語らせ、恐怖を煽らせる分には、「しきい値なし」を国民に浸透させることができる。大マスコミとその尖兵らも反原発キャンペーンで「隠蔽」に加担するであろう。セシウム137はこのまま「悪」として、「恐怖の対象」として指弾され続けることになる。

今後も、国民は政府とマスコミに、そして教科書どおりに「しきい値なし」を押し付ける、正義の御旗をかざした「煽り派」学者らに、日本中が翻弄され続けることになる。

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セシウム137線源 低線量率放射線長期照射室

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