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セシウムゼロでも、ヒトは常時7000ベクレルの内部被曝
高まるゼロベクレル志向、内部被曝の実体とは

今年4月から食品に含まれる放射性物質の規制値が変わる。「一般食品」、「牛乳」、「飲料水」、「乳児用食品」の4分類、トータルで1mSvとなる。どこまでも限りなくゼロベクレルを望む声が多いが、かりにセシウムゼロでもヒトはふだんの食事で常に7000ベクレルの内部被曝が生じている。このことがほとんど知られていない。

全ての年代に考慮した最も厳しい基準値

今年4月より放射性物質による食品の規制値が5mSvから1mSvになり、これまでの「飲料水」、「牛乳・乳製品」、「野菜類」、「穀類」、「肉・卵・魚・その他」の5分類から、「一般食品」、「牛乳」、「飲料水」、新設の「乳児用食品」の4分類となる。

これまでの暫定規制値の5mSvも十分安全が考慮されたものであったが、これがさらに5分の1の1mSvになる。これまでの5倍に規制値が強化されるといったほうがわかりやすいかもしれない。新基準値では放射性セシウムが、飲料水は200ベクレル/kgから10ベクレル/kgに、牛乳は200ベクレル/kgから50ベクレル/kgに、一般食品(野菜、穀類、肉、卵、魚、その他)は500ベクレル/kgから100ベクレル/kgに、新設の乳児用食品は50ベクレル/kgとなる。

「飲料水」の10ベクレル/kgはWHOの基準に従っている。「一般食品」は、全ての年代を考慮し、100ベクレル/kgという最も厳しい数値になっている。
ちなみに、「一般食品」の穀類については、(昨年11月16日時点の)厚生労働省の調べでは、福島県産米の98.4%(1,255点)が50ベクレル/kg以下である。50ベクレル/kgの米を1kg食べると0.00065mSv。1人年間で平均60kgの米を消費するといわれるが、それでも0.039mSv。平時の日本人の食品による内部被曝は年間0.3mSvであるため、とくに問題になる量ではないことがわかる。

幼児や子供はセシウムの体内半減期が短く、DNA修復機能も高い

新設の「乳児用食品」については、幼児の放射線への感受性を配慮したという。確かに、ベルゴニー・トリボンドーの法則で、細胞分裂が活発で未熟な細胞ほど放射線の影響を受けやすいという説がある。
しかし、幼児や子供は活性酸素除去のSOD酵素も多く、DNA損傷修復能力も高い。セシウム137の体内半減期も幼児や子供は短い。〜1歳で9日、2〜9歳で38日、10〜30歳で70日、31〜50歳で90日となる。となると、むしろ、セシウムの体内半減期が長く、加えてSOD酵素も少なく、免疫力も低下する、40代以降の人々に最も配慮しなければならないのだが。

1960年代、日本が高度経済成長にあった時代、今回の福島原発事故で日本が世界を汚したと批難する、米国、ソ連、イギリスやフランスなど各国が意図的に大気圏核実験を繰り返し、放射性物質を世界中に撒き散らしていた。その総数は500を超える。
1950〜1960年代の10年以上にもわたる人工放射性核種の降下累積は、今回の福島原発事故の放射性物質の堆積にほぼ匹敵するといわれるが、60年代、日本中の胎児も幼児も40代以降の人間も食物から放射性物質を摂り込んできた。むしろ日本はこの60年代から飛躍的に平均寿命が延びている。そうした時代に、はたしてベクレル規制といった放射能ヒステリー対策食品なるものが存在しただろうか。

原発事故以前から、ヒトは常時7000ベクレルの内部被曝

できれば、そうした放射能ヒステリー対策食品は厚生労働省の認可する特定保健用食品や特別用途食品と同様、一部の人々へ向けた厚生労働省お墨付きの特別食品としてラベル表示でもして明確にジャンル分けしていただきたいものである。

大手スーパーのイオンでは昨年7月末以降、50ベクレル以上の農産物は販売しなかったという。消費者への配慮もわからなくないが、そのうち消費者が活性酸素を発生させる農薬や食品添加物漬けの食品のほうがDNAの損傷力が放射性物質以上に強力であることを知った時には、全ての食品を店頭から撤廃し、自主廃業せざるを得なくなるだろう。

活性酸素の攻撃によるDNA損傷は放射性物質の比ではない。DNAの二重螺旋切断(DSB)による突然変異のガン化については放射性物質以上に活性酸素によるダメージのほうがより深刻である。1996年、カリフォルニア大学名誉教授のマイロン・ポリコープ博士(DNA研究核医学会の大御所)とルードヴィッヒ・ファイネンデーゲン博士(放射線分子生物学の創設者)らが共同研究で、「ヒトの細胞は活性酸素との戦いで、1個の細胞あたり毎日100万件のDNA修復活動を行っている。活性酸素との戦いは自然放射線の1000万倍のレベルでなされている」と結論付けている(図1)。

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    ヒトは日々、宇宙や大地から自然放射線を浴び、大気中のラドンガス吸引でアルファ線被曝している。食品からはカリウム40やポロニウム210といった放射性物質を摂り込んでいる。ヒトの体内に存在する放射性物質は、体重60kgの人で、カリウム40が4000ベクレル、炭素14が2500ベクレル、ルビジウム87が500ベクレル、鉛210・ポロニウム210が20ベクレル、これでおよそ7000ベクレル。毎秒7000個のガンマ線やベータ線、アルファ線が体内を飛び交い、始終内部被曝している。喫煙者は、1Sv(1000mSv)の内部被曝に匹敵する活性酸素の発生でDNAを損傷させている。

    ちなみに、「ポロニウム210」といえば、いま最も信頼されている原子炉研究者、不屈の研究者といわれる小出氏が『原発のウソ』(扶桑社新書)の中で、次のように述べている。

    2006年11月23日、旧KGB、ロシア連邦保安庁(FSB)の職員だったアレクサンドル・リトビネンコさんがロンドンで毒殺されました。毒として使われたのが「ポロニウム210」という放射性物質です。おそらく食べ物や飲み水に混ぜられたのでしょうが、リトビネンコさんはポロニウムの「味」を感じることなどできなかったでしょう。用いられた量は「100万分の1グラム」にも満たない量のはずだからです。そんなごくわずかな量が体内に入っただけで人を被曝させ死に至らしめてしまう。そこに放射性物質の恐ろしさがあります。

    今最も信頼できる不屈の研究者が指摘する、恐ろしい「ポロニウム210」を、ヒトは福島原発事故が起きる以前から、ふつうに食品から摂り込み、常に内部被曝させているのである。そうなると、放射能ヒステリーの人は、自分自身の存在そのものが忌まわしいものに思え、体中をかきむしりたくなる衝動にかられるかも知れない。

    今最も信頼できない、「プルトニウム最凶毒物説」

    ついでにもうひとつ。今最も信頼できる不屈の小出氏が「人類が遭遇した最凶の毒物」と指摘するプルトニウム239だが、これは1972年にタンプリンとコプランが提唱した学説がもとになっている。プルトニウムは耳かき1杯分で100万人がガンになる、角砂糖5個分で日本が全滅するなどと例えられるが、その後の動物実験や論文検証でそうした毒性は認められないとして、言い出したコプランらも取り下げている。

    1965年、米国のプルトニウムを扱う工場で火災事故が発生し、25人がプルトニウムで吸引被曝した。プルトニウムは肺や気管支に付着し、肺ガンを引き起こすといわれているが、20数年経った、1987年の経過報告では、肺ガンで死亡した者は1人で、健常者が肺ガンに罹る率よりむしろ低いものであった。

    また、米国で1944年に始まった原爆製造プロジェクト「マンハッタン計画」で26人が硝酸プルトニウムで吸入被曝したことが報告されている。42年後の調査報告では7人が死亡し、うち2人が肺ガンで死亡しているが、死亡した7人の骨へのプルトニウムの蓄積はとくに多かったわけではないという。 他にも、1945年に、末期ガン患者17名にプルトニウム239を静脈注射したが、うち4人は30年以上生存したことも報告されている。

    プルトニウムについては、すでにさまざまな学術検証でその毒性レベルが明らかになっており、「最凶毒物説」は今最も信頼できない話になっている。「人類が遭遇した最凶の毒物」というのは小出氏の個人的見解であり、「科学」的事実ではない。夏場の節電対策に小出氏の「プルトニウム最凶毒物説」を聞く分にはいいかも知れないが、代わりに、思想的な最凶の毒物を注ぎ込まれることを覚悟しておかねばならないだろう。

    DNAの二重螺旋切断、10mSv/h〜300mSv/hあたりで最高に修復

    話を内部被曝に戻そう。
    2006年に、米国科学アカデミーにヴィレンチック論文が掲載され、内部被曝についての検証で世界の放射線医学の研究者らから注目を浴びた。ヴィレンチック博士はクヌードソン博士と共同でヒトの放射線への適応応答について、2000年から3年ごとに、米国科学アカデミーに論文を発表している。

    2人は2003年に、DNAの二重螺旋切断(DSB:ダブルストランドブレーク)に関する研究を報告している。DNAは二重螺旋構造で守られ、軽い損傷は容易に修復できるが、DSBだけは修復が難しいとされていた。このDSBこそが遺伝子異常の大本となることから、2人は、DSBだけに的を絞り、特に放射線に最も傷つきやすい若いラットの精源細胞を用い、徹底して内部被曝による影響を観た。彼らには内部被曝の検証しか頭になかったという。

    2006年の論文では、広範囲の線量率での細胞実験のDNA損傷修復を明らかにしている。研究では、放射線に弱い精源細胞を用い、DNA損傷修復活動の最高値を求めたところ自然放射線(0.2μSv/時)の10万倍の20mSv/時であること、さらにDNA修復活動の限界については自然放射線の3000万倍の6Sv/時(6,000mSv/時)以上、10Sv/時(10,000mSv/時)あたりにあることを突きとめている。

    DNAの突然変異によるガンの発生は、1.5Sv(1,500mSv)〜2Sv(2,000mSv)あたりで生じると考えられているが、研究の結果、数百種類の酵素による修復やアポトーシスによる異常細胞の除去で、自然放射線の10万倍から300万倍程度(10mSv/時〜300mSv/時)あたりでDNAの突然変異が最低になることが明らかになったのである(図2)。

    ヒトは太古から活性酸素がもたらす1Sv(1,000mSv)レベルのDNA損傷修復にも慣れ、DNAの二重螺旋切断の修復では、とくに10mSv/時〜300mSv/時あたりで最高の修復活動が行われている。「直線仮説」では認めていない放射線の安全線量域、しきい値がどうやらこの辺りにあるということがこのことからも頷ける。すでに、世界の放射線研究のトップの科学者らはこうした認識で、低線量域での生体への放射線影響を捉えているといわれている。


    ヘルスネットメディア


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    (財)環境科学技術研究所(青森県六ケ所村)
    主要先進国における平均寿命の推移 > 拡大


    「産経新聞」2011.4.29
    1960年代、10年以上にわたり「人工放射性核種」が降下


    (図1)DNA変異に対する生体防御機構

    100mSv以下のがんリスクは極めて小さい > 拡大

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