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米国で推奨、穀物や果物の丸ごと摂食
「2015年版栄養ガイドライン」、進む和食への傾倒

2016年1月初旬、米国で「2015年版アメリカ人のための栄養ガイドライン」が発表された。5年ごとに改訂されるこのガイドラインの傾向としてみられるのが、和食への傾倒や穀物や果物も丸ごと摂食のすすめ。加工食品が氾濫する食卓にあって、生体の恒常性維持にビタミンや微量元素の重要性の認識が年々高まっている。

米ぬかに含まれるマグネシウム、認知機能や動脈の健康に一役

「2015年版アメリカ人のための栄養ガイドライン」では、穀物や果物を丸ごと摂ることを推奨している。この栄養ガイドラインは米国民の肥満や高血圧、動脈硬化といった生活習慣病を防ぎ、より健康でいるための基準を示したもので、5年ごとに改訂され、米国保健社会福祉局より発表される。

食材を丸ごと摂るという、ホールフード(全体)食により食物繊維や微量元素など普段不足しがちな栄養成分の補給が可能となる。そのため、同ガイドラインでは、加工食品の弊害から身体を守るためにもガイドラインの中で、とくに穀物や果物の丸ごと摂取を勧めている。

未精製の穀物には、現代人に不足しがちな食物繊維やビタミン、マグネシウム、クロム、γオリザノール、GABAなど数多くの栄養素が含まれている。

最近の報告では、トレオン酸マグネシウムが記憶・認知に問題のある高齢者の認知機能改善に有用とJournal of Alzheimer's Disease誌2016.3月号に掲載されている。

Tsinghua University研究チームが、50〜70歳で記憶力低下、睡眠障害を自己報告する男女44人を対象に、トレオン酸マグネシウム(25mg/kg/日)か、プラセボを与え、6週間と12週間後、作業記憶や注意力、エピソード記憶に関するテストを行った。

その結果、トレオン酸マグネシウム投与群はトレイルメイキングテストのスピードが10%早くなったことが分かった。プラセボ群では有意差が認められなかったという。

また、Nutrition Journal誌2016.3月号は、高マグネシウム濃度は動脈の健康改善に役立つと報じている。National Institute of Cardiology研究チームが、30〜75歳のメキシコ人1,300人を対象に血中マグネシウム濃度を測定した

その結果、マグネシウム平均濃度が最も高い群(2.18mg/dl以上)の高血圧リスクは低濃度群(1.97mg/dl)に比べ、48%低いことが分かった。また、2型糖尿病リスクも69%、動脈の石灰化も42%、それぞれ低かったという。

マグネシウム、カルシウムとのバランスが重要

マグネシウムは米ぬかに多く含まれる栄養素で、マグネシウムの大半は筋骨格に含まれ、20〜30%が筋肉、さらに2%が細胞外となっている。マグネシウムは、細胞内のカリウム・バランス制御、グルコース代謝、プロテイン消化、ホルモン受容体伝達などの制御。また、300以上の酵素反応に関わると考えられていることから、生体が正常に機能していくために不可欠なものとされている。

マグネシウムの働きとしては、カリウムのバランス制御と共にカルシウムの細胞内外への移動を行うなど、カルシウムとのバランスが重要とされている。

理想とされるカルシウムとマグネシウムの摂取比率は2.5対1。カルシウムは必須の栄養素だが、カルシウムが多くマグネシウムが少ない食生活は「細胞の自殺」を招くと考えられている。

年齢を重ねるにつれ、カルシウムは硬性組織から軟性組織へと移るが、この石灰化が様々な疾患の原因となる。例えば、関節に蓄積されると「関節炎」となり、血管に溜まると血管を硬くする。心臓病を引き起こし卒中などの原因ともなる。

また、細胞のエネルギー工場といわれるミトコンドリアにもマグネシウム不足は影響を与えるとされている。

マグネシウムが生物学的に不足するとエネルギー生成が低くなり、結果的に細胞内のカルシウムをくみ出す作業もゆっくりとなる。これは、細胞や体全体の石灰化を導き、老化の始まりとなり、同時に病気の原因ともなる。

また、日本でも戦後、糖尿病患者が急増しているが、2012年の糖尿病による医療費は1760億ドルと推定されている。こうした肥満由来の疾患にも、食物繊維や微量元素の摂取は欠かせない。

玄米には微量元素のクロムが含まれるが、このクロムはインスリンの効率性を上げ血糖値をコントロールする。さらに、脂肪を削ぎ落とし筋肉質量を増やす役割があることが知られている。

また、栄養ガイドラインでは、たんぱくの摂取として脂肪の少ない肉を挙げているが、とくに魚介類の摂取を増やすことを勧めている。

魚の摂食による健康効果については、有効成分のオメガ3脂肪酸に関して米国でも盛んに研究が進められているが、最近の報告では、血圧改善に有望とJournal of Nutrition誌2016.2月号で報じている。 University of East Anglia, University of Southamptonなどの研究チームが、健常成人312人に、オメガ3脂肪酸(EPA+DHA)0.7gまたは1.8g/日を8週間与えた。

血圧の変化を観察したところ、0.7g投与群では、血圧の収縮期圧が5.20mmHg低下したことが分かった。また、1.8g投与群でも5.3mmHg低下していた。この低下は、中年の心血管系疾患リスクを約20%減少させることになるという。


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