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カルシウム流出、脳細胞増加も関与【 カフェイン最新研究 】

一昨年の夏、米国で公衆衛生を考える団体が米食品医薬品局(FDA)に対し、カフェインの安全性の見直しとカフェインを含む食品に含有量表示を求める嘆願書を提出。これが発端となり、カフェインの安全性論争が巻き起こった。最近ではカフェインが脳細胞の増加に影響するなど有用性も報告されている。カフェインの功罪とは。最新の研究報告を紹介する。

コーヒー2杯分以上のカフェイン、骨からカルシウムを奪う可能性

カフェインの功罪の「罪」について、これまでいわれていたのが「カルシウムの流出」。最近の研究でも、インディアナ州の大学の研究チームが、コーヒー2杯分以上に当たるカフェインを摂ると骨からカルシウムを失う可能性があり、一日に少なくとも800mgのカルシウムを摂取する必要があると警告している(The American Journal of Clinical Nutrition誌9月号)。

米国におけるカルシウムの摂取量の目安は、9〜18才が一日1,300 mg、19〜50才が1,000 mg、50才以上が1,200 mgで、カフェインばかりか肉食による蛋白質の摂取が多過ぎると、カルシウムが体内に維持されずに尿から排出されてしまうため、十分なカルシウム摂取が必要とされている。ちなみに、カルシウムの摂取については、一回の摂取量が500 mg以上になると効果的に吸収されないため、分割して摂る方が良いとされている。

もう一つ、問題視されているのが「不妊の可能性」。1990年にハーバード大学などが行った女性3千人を対象にした研究では、カフェインと不妊の関連性は実証されなかったが、1995年にジョン・ホプキンス大学が行った2千500人の女性を調べた研究では、1日300mg(小カップ2杯半)以上のカフェインを摂った場合、妊娠確率が17%減少することが明らかになった。

カフェインの影響は出産後にも現れる。昨年1月に、妊婦で1日に4杯以上コーヒーを飲む場合、出産した乳児は突然死症候群(SIDS)の危険性が高くなるという報告も出ている(Archives of Diseasein Childhood誌)。この研究で、SIDSを起こした乳児を持つ母親は、健康体の幼児を持つ母親に比べ、コーヒー、コーラ、お茶を飲む量が2倍であることがわかった。
これらに対して、FDA(米食品医薬品局)では、特に具体的な安全事項の変更は表明していない。「妊娠中の女性はカフェインの含まれる食品を避けるか、量を減らすべき」との判断だ。

コーヒー4、5杯分のカフェイン、心臓病の危険性高める

この他、昨年5月に米国でCNNが1日4〜5杯のコーヒーを飲むと高血圧になる危険性が高くなる、と報じている。これは、Duke大学の研究者グループが、コーヒーに含まれるカフェインの健康への影響を調べたもので、19人の健康成人を選び、15年間にわたり調査。被験者には、1日コーヒー1杯に相当するカフェイン錠剤を与え、また別のグループには4〜5杯分に相当する錠剤を与えた。そしてそれぞれ、15分毎に血圧を検査したところ、4〜5杯分投与されたグループは1杯のグループと比べ、心臓病に罹る危険性が20%増え、卒中は35%に増えたという。

また、昨年2月にはコーヒーを1日に5杯以上飲むと、心臓発作や卒中の危険性を増大させるというノルウェー、Bergen大学の研究報告が発表されている。これは40歳から67歳までのノルウェー人男女1万2千人を対象に行った研究で 判ったもので、コーヒーを多く飲めばそれだけ血中のホモシステイン(注1)やアミノ酸濃度が上がり、動脈に脂肪プラークが蓄積したという。ホモシステイン濃度を下げるには、葉酸などのビタミンB群が効果的だが、研究によると、喫煙者で葉酸の摂取量が少ないコーヒー愛飲家のホモシステイン濃度は、葉酸摂取量が多くコーヒーを飲まない非喫煙者と比べ44%高かったという。

(注1)ホモシステイン
30年前、初めて心臓病の要因として疑いのある物質としてホモシステインが確認された。ホモシステインは体内で重要な働きを行うアミノ酸で、体内で正常な濃度の場合は何の問題もないが、いったん高くなると心臓や血管に障害を与えることが、様々な研究で明らかになっている。ビタミンがホモシステイン濃度を下げる働きをするが、中でもB6、B12、葉酸は大きな役割を果たす。

毎日コーヒー4杯以上飲むと、結腸がんの危険性が24%減少

では、カフェインを含むコーヒーは健康に有害かというと、そうとばかりもいえない。これまでに報告されているコーヒーの効用についても触れてみたい。 最も新しいものでは、コーヒー豆には多くの抗腫瘍作用を持つ成分が含まれていると今年3月、カルフォルニアで開かれたAmerican Chemical Society学会で発表されている。これはテキサスの研究者らによるもので、ハムスターを使い、普通のえさ、あるいは15%炒ったコーヒー豆、13%炒った脂肪を抑えたコーヒー豆、2%炒ったコーヒーオイルを補強したえさをそれぞれ与え、さらに腫瘍形成物質を1週間に3回、計36回与えたところ、コーヒー豆を補強したえさを与えたハムスターには、腫瘍形成の抑制が見られたという。

結腸がんへの有効性も報じられている。昨年6月、Harvard School of Public Health研究者グループがこれまでに行われた17件の研究の分析調査で、毎日コーヒーを4杯以上飲んだ場合、まれに飲むか全く飲まない場合より結腸がんの危険性が24%減少することが分かったという(American Journal of Epidemilogy誌)。この調査で、研究者は「コーヒーが結腸にある老廃物を吐き出すスピードを上げ、便中の発癌作用を起こす可能性のある物質の影響を少なくしている」としている。

また昨年4月、コーヒーを飲むことで腎臓結石を防ぐことができるということも報じられている(Annals of Internal Medicine誌4月号)。これは、ボストンのBrigham and Women’s Hospital研究者グループが行った研究で、腎臓結石歴のない40歳から65歳までの女性8万千93人を対象に調べたところ、毎日コーヒーをグラス1杯分(8オンス)飲んだ場合、腎臓結石の生じる危険性が10%減少したという。一方、グループフルーツジュースの場合は反対に危険性が44%増加しており、研究者たちは「カフェインが尿の量を多くし、石の形成を難しくすることで危険性が低下していると考えられる」とみている。

カフェインが脳細胞の増加に影響

この他にも、カフェインの「功」の部分について、脳細胞の増加に関わることが報告。イスラエルの研究チームがカフェインを神経細胞に加えると樹状突起がより長く成長し、棘や枝分かれも新たに形成されることを発見している(Proceedings of National Academy of Science)。研究者たちは樹状突起棘の大きさや形の変化が長期記憶に影響するとみていたが、研究では海馬といわれる脳細胞(学習と記憶を司る)にカフェインを加えたところ、細胞内のカルシウムのレベルが増加し細胞の大きさが33%拡大することが分かったという。

また、動物実験でカフェインとアルコールが卒中の損傷を防ぐという研究報告も最近行われている。米国シアトルで開かれたAmerican Neurological Association年次総会での発表で、テキサス大学の研究チームが、アルコールとカフェインをネズミに卒中の起きる直前と、起きてから2時間以内に投与したところ、脳卒中の損傷が80%減少することが確認されたという。

投与量は、人間にして1日カフェイン約カップ2杯分、アルコールは1杯分で、アルコールとカフェインの相乗効果は現在使用されている薬品より高く、また脳の損傷を防ぐのに最もよいとされる脳の熱を下げる治療よりも更に損傷防止力の高いことが判明したという。しかしながら、人間における効果については更に今後の研究が必要であると研究チームは述べているという。

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