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アンチエイジング(抗老化)、発酵食品に多く含まれるポリアミンが関与
〜納豆は動脈硬化抑制に貢献する高ポリアミン食

11月30日(火)、有楽町朝日スクエア(東京都千代田区)で第二回「納豆健康学セミナー」が開催された。当日、早田邦康氏(自治医科大学大宮医療センター講師)、浦野哲盟氏(浜松医科大学助教授)らにより、納豆に多く含まれるポリアミンの動脈硬化抑制、抗老化作用などの講演が行われた。                

動脈硬化性疾患による死亡、先進国では50%

1位心筋梗塞、2位脳梗塞---。
世界の先進国の年間死の上位にランク、しかも以下を大きく引き離している疾患だ。
どちらも、原因は動脈硬化による血管の詰まり。動物性脂肪 の摂り過ぎによるコレステロール沈着が起因する。 WHO(世界保健機構)によると、動脈硬化性疾患による死亡は 先進国では50%におよぶという。

動脈硬化性疾患は、日本でもがんに次いで死亡原因の2位。 昭和58年以降、世界でもトップの長寿国を誇る日本だが、食の欧米化により コレステロール値については、すでにアメリカを超えているともいわれている。
日本においても、動脈硬化性疾患ががんを抜く日も近いのだろうか---。

(参照:【Health Net Media/ヘルスネットメディア】)
日本人にしのびよる「動脈硬化」性疾患、がんに次ぎ2番目の死因に
日本の若年層に忍び寄る糖尿病、動脈硬化〜米国との「食」内容の比較
 で判ったこと〜

多くの動脈硬化の危険因子に囲まれるも、日本は先進国の中で動脈硬化性疾患の罹患率が低い

だが、意外にも日本の動脈硬化性疾患の罹患率は他の先進国と比べ低い。「不思議なのは動脈硬化が原因で発生 する脳梗塞、心筋梗塞は先進国の中でも低い。ハンバーガーや動物性脂肪の消費が多くなり、 動脈硬化の危険因子である喫煙率も先進国の中でトップ。これほど多くの危険因子 に取り囲まれているにもかかわらず、世界的にみて動脈硬化性疾患は平均値」と早田氏はいう。

一体何が動脈硬化を引き起こす直接の原因になっているのか。
「最近、コレステロールの沈着だけでは、完全に動脈硬化の全てを説明することはできない ことが明らかになってきた。沈着したコレステロールが酸化され炎症を誘発する。実は これが動脈硬化の機序の一つとして指摘されるようになった」と早田氏はいう。
こうした炎症は老化とも密接に関係する。それについては後述するが、ともあれ防御反応でもある炎症が血管内で慢性的に繰り返される ことにより動脈硬化が生じるという。
そのメカニズムを要約するとこういうことだ。

コレステロール沈着で、細胞接着因子LFA-1が炎症を誘発

コレステロールが血管の中に溜まり、それに免疫細胞が反応し、細胞接着因子のLFA-1がリンパ球を活性化して炎症を誘発する。 LFA-1は老化とともに増加するが、遺伝子レベルでの増加も最近判ってきているという。
そのため、動脈硬化対策としては、「コレステロールを血管内に沈着させない、悪玉コレステロールを減らし、善玉を増やす、 LFA-1により炎症を起こさせないこと」であると早田氏は指摘する。

戦後、食の欧米化によりもたらされた日本人の高コレステロール化、そして高い喫煙率。にもかかわらず 日本人の動脈硬化性疾患の罹患率は先進国の中でも低い。日本人の体質を作ってきた伝統食に、何か動脈硬化抑制のカギとなるものがあるというのだろうか。

動脈硬化抑制に共通する成分

魚に穀物、そして大豆。日本人の三大伝統食である。動脈硬化抑制に、魚油に含まれるn-3系脂肪酸のDHAやEPAが貢献する ことも知られている。しかし、「魚を食べている地域は世界中にいっぱいある。その中でも日本人は動脈硬化が少ない」(早田氏)。

では、穀物、大豆が動脈硬化抑制に深く関与しているというのか----。
「食事と動脈硬化の関係を調査したところ、心筋梗塞、脳梗塞があまり起こらない食事として、1週間に2回以上魚を食べる、 穀物・フルーツ・豆類を食べる、ヨーグルトなどの発酵食品を食べる、といった調査結果が出ている」と早田氏。

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. この中の、共通項ともいえる成分が、実はポリアミンであったという。

これまで取り上げられることがなかった重要成分、ポリアミン

ポリアミンは塩基性物質を多く含む低分子有機化合物の総称で、 自然界のあらゆる動植物に存在する。ヒトにおいてはアミノ酸の一種であるアルギニンから体内合成される。 プトレスシン、スペルミジン、スペルミンの3つのポリアミンが代表的なもので、20歳頃より合成能は次第に 低下していく。

ポリアミンは1678年に発見され、1988年には制がん作用なども発表されるが、「ポリアミンは医学部の授業で習わない。微生物、 動物問わず全ての生物に含まれるが、教科書にも出てこない。はっきりとした 作用がこれまで判らなかった」と早田氏はいう。

ポリアミンを多く含む身近な食品としては、キノコ類や大豆が知られるが、中でもチーズやヨーグルト、納豆といった発酵食品は発酵過程で微生物が多くの ポリアミンを生成する。また、穀物やフルーツはポリアミン濃度が低いが、これらに多く含まれる食物繊維は腸内細菌を刺激し、腸内でのポリアミンの産生を促す。

つまり、世界の先進国の中でも、日本人の動脈硬化性疾患の罹患率が低いのは、「日本人の食生活が大豆の 発酵食品が中心となってきたからだと考える」と早田氏は結論付ける。中でも納豆は、元来ポリアミンを多く含む大豆を発酵させる過程でさらにポリアミンが生成され、加えて食物繊維との相乗作用で理想の高ポリアミン食となるという。

実際に、早田氏らの研究グループが、納豆を1日100g、朝夕ヒトに与えた試験では血中のポリアミン濃度が1.5倍高まり、炎症を誘発するLFA-1についても減少することが確認できたという。

老化と炎症は密接な関係

老化についてはどうか。「老化と炎症とは切っても切れない密接な関係にある。身体の中で炎症が起きないようにすれば老化自体も克服できるのではないか」と早田氏はいう。

そのためには、炎症を誘発する細胞接着因子LFA-1の活性を抑制するがキメ手となるが、ヒトによる実験で、リンパ球のポリアミン濃度が上昇するとLFA-1が抑制され、接着しにくくなることが確認、炎症の抑制につながることが判っているという。

血液溶解の阻害因子PAI-1が血栓を促進

また、浦野哲盟氏は「生活習慣と血液の健康」と題した講演で、血栓症リスクについて次のように紹介。「血液が溶けるのを阻害する因子が身体の中にある。PAI-1というもので、これが増加することにより、血液は溶けにくくなり血栓症を起こしやすくなるということが最近判ってきた。炎症反応があると血中のPAI-1は上がり、血液が溶けにくくなる」。血栓の溶解は、促進因子のplasminogen activator(PA)と抑制因子のplasminogen activator inhibitor type l(PAI-1)のバランスで決まり、食事習慣でそれを改善することができるという。

納豆抽出物をラットに3週間経口摂取させ、血液の溶解時間と血管壁への影響をみた実験では、溶解活性は有意に上昇したことが確認、PAI-1濃度の低下によるものであると考えられると報告した。

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