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「大豆」が人類の健康・食糧問題を解くカギに
 〜日本人の伝統長寿食、大豆の機能性とは

10月11日(金)、「大豆のはたらき−人と地球を健康に−」と題してオンライン講演会(主催:公益財団法人不二たん白質研究振興財団)が開催された。この中から、佐藤 隆一郎氏(東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授)の講演「大豆はすごい! −日本人の長寿を支える大豆の機能性とは−」を取り上げる。

世界的に大豆は家畜の飼料という認識、ほとんど食材として食べられていない

現在、世界の総人口は80億人を超え、2050年代には100億人に到達すると予測されている。もはや世界中の食糧生産能力が限界近くに達しつつあり、十分な食料を確保できるかが危ぶまれている。そう佐藤氏は語る。

中でも、タンパク質源の確保は欠かせないが、2050年には年間約1.8億トン(1日当たり50万トン)のタンパク質が必要となる。これは2005年のタンパク質の約2倍の供給量に匹敵するという。

そんな21世紀中盤、人類の食糧問題を解くカギは大豆にあるのではないか、と佐藤氏は説く。さらに、大豆は食糧需給を満たすだけではなく、人々の健全な身体作りに重要な役割を果たすという。

大豆は日本では、味噌や醤油、豆腐、納豆といった伝統食品として長らく食されてきたが、世界的には、大豆は家畜の飼料であり、人が食べるものではない、という認識だ。「日本以外に大豆を摂取する国を挙げると、中国や韓国、北朝鮮、コスタリア、カンボジアなど。東アジア以外の国々ではほとんど大豆は食材として食べられていない」(同)という。

こうした国々は、大豆を貴重な植物性のタンパク質源として利用してきたが、世界的にはタンパク質の補給はもっぱら牛肉が主であった。ちなみに、牛肉1sを生産するのに、6〜20sの飼料用穀物、15000Lの水が必要となる。しかしながら、その穀物生産も限界に近づき、地下水も全世界的に枯渇しつつある。

我々の体の約60%は水が占め、残り40%の半分近くをタンパク質が占める。「人が1日に必要なタンパク質は体重の大体1/1000。体重60kgの人は60g、70kgの人は70gぐらい必要といわれている。100億人になるとそれだけのタンパク質が供給されなくなると懸念されている」(同)。2050年頃には必要なタンパク質源が供給されなくなる、「タンパク質危機(protein crisis)」の警鐘が鳴らされている。

我々の生命維持に欠かせないタンパク質は20種類のアミノ酸で構成されている。そのうち9種類のアミノ酸は必須アミノ酸と呼ばれ、食事から摂取する必要がある。大豆は必須アミノ酸がどれも欠けることなく、動物性タンパク質と同様にアミノ酸スコアーは100とされる。タンパク質の補給には、「肉から大豆へ」。この意識転換が早急に求められる。


大豆タンパクの約20%を占めるβコングリシニン、FGF21(絶食ホルモン)を劇的に分泌

日本人は伝統的に大豆を味噌や納豆、豆腐、醤油などに利用してきたが、それらは日本人の長寿を支えてきた和食の健康食材としてよく知られる。

味噌や納豆のようなプロバイオティクスのもたらす腸内環境の整備、イソフラボンによるガン予防効果、ビタミンK2による骨粗しょう症予防効果、近年では納豆に含まれる酵素、ナットウキナーゼの血栓溶解効果が有名だ。

加えて講演の中で、佐藤氏が挙げたのが大豆タンパクに含まれるβコングリシニンの健康効果。βコングリシニンは大豆タンパクの約20%を占め、血中コレステロールの低下、脂質代謝改善、内臓脂肪蓄積抑制をもたらすという。

βコングリシニンをタンパク質源とする餌をマウスに与え、摂食後短時間に、肝臓から絶食ホルモンといわれるFGF21が劇的に分泌されることが分った、と佐藤氏。

マウスに9週間高脂肪食を投与した実験で、一方は乳タンパク質の餌、もう一方はβコングリシニンを含んだ大豆タンパク質の餌を与えた。同じ高脂肪食で前者は体重が激増したが、後者は体重増加が抑えられた。肝臓の脂肪の蓄積も著しく抑制され、血中のコレステロールも下がった。

また、長期投与ではなく、1回だけ投与で生体内で何が起きているのか観察した。1晩絶食したマウスに乳タンパクの高脂肪食を与え、もう一方はβコングリシニンを含んだ高脂肪食を与えた。1食だけ与えて6時間後、肝臓の中でどのような遺伝子が発現したか解析したところ、FGF21遺伝子がβコングリシニンを含んだ餌で激増していた。一方の乳タンパクのカゼインを食べた餌では激減していた。

FGF21は絶食の時に血液中にレベルが上がるホルモン様の因子で、マウスを絶食しておくと血中の濃度は上がるが、乳タンパクを含んだ餌を食べると絶食から解除され血液中のFGF21が下がる。しかし、βコングリシニンを餌に混ぜておくと絶食時よりむしろ激増して血中の濃度が上がることが分ったという。


絶食ホルモンのFGF21、抗肥満や血糖低下効果を発揮

FGF21は空腹応答ホルモンで、βコングリシニンを含む餌を食べると餌を食べたにもかかわらず餌が足らない、空腹と同じように応答してFGF21が分泌され体の各組織に溜まった脂肪を燃やす、血糖値を減らす、空腹時と同じような反応を体に引き起こす、と佐藤氏。

つまり、大豆摂取においては、「食事を摂ったにも関わらず、体は絶食状態にあると勘違いするような応答をする。絶食ホルモンのFGF21は、蓄積した脂肪を分解し、血液中のグルコースを取り込み上昇させ、抗肥満、血糖低下効果を発揮する」(同)という。

このように大豆タンパクの機能性成分は人々の健康寿命の延伸に有益で、Plos Med(2022)に掲載の25万の栄養論文から食材と早死に関する複数のメタ分析では、寿命を伸ばす食材の筆頭は豆類で寿命が2.5年伸びる、次いで、全粒穀類、ナッツが続くと紹介している。

ちなみに、日本人は豆類を1日60〜70g摂っていると推測されるが、寿命延長には、1日100g以上の豆類摂取が理想で、あと1パックの納豆(約50g)を摂るとよいだろう。

畑の肉と呼ばれる「大豆」。健康に有益な機能性食材にもかかわらず、世界的には人の食材として十分に活用されていない。いずれにせよ、「大豆」がこれからの人類の健康・食糧問題を解決するカギになることは間違いなさそうだ。


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