米国・代替医療への道 1999

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代替医療、米国医療界の潮流に
西洋医療で疾病はもう癒せないのか。米国では西洋医療に替わる医療(代替医療)を 求める動きが急速に高まっている。食品の機能性による栄養療法を筆頭に心理療法、 催眠療法などホリスティック(全体的)な観点から疾病と向きあう傾向が強まってい る。日本でもここ数年、心による”癒し”やアーユルヴェーダによる自然派志向によ る疾病改善が話題になるなど西洋医療離れが静かに進行しつつある。日本も米国と同 様に代替医療が台頭するようになるのか。米国代替医療の現状を報告する。

  成人から小児まで、代替医療が主流になるほどの勢い

米国では10人に4人が代替治療を受けたことがあると答えており、同治療は医学の亜 流ではなく今や主流になるほどの勢いを示している。1997年、ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerのデービッド・M・アイゼンバーグ博士が2千55人 を対象に電話で行った調査によると、代替治療医師の門を叩いた患者は前回の調査 (90年)から47%もアップ。ざっと見積もって6千万人が何らかの代替治療を受けて いる。こうした波は成人医療の分野から始まったが、現在では小児科の領域にも波及 しているという。

サウスカロライナのWayne StateUniversity School of Medicineなどが行った新しい 調査でも、小児科医の50%が患者に代替治療の紹介を考えていると答えた。代替治療 の人気上昇は、医薬品による副作用や高騰する医療費といった現代医学に対する不信 感が要因の一つになっていると、専門家は指摘している。

ハーブや栄養補助食品産業の急伸が代替医療台頭にはずみ

従来の現代医学ではどちらかというとタブー視されていた代替治療だが、ハーブ、栄 養補助食品産業など関連産業が急成長するに及んで、無視できない状態となってき た。最近では代替治療コースを設置する医科大学も増え、医療保険会社でも保険がき く代替治療分野を広げ始めている。

また、中には積極的に代替治療を取り入れる、あ るいは通常の治療などと平行して使用する一般医も増加してきているが、多くは今だ 懐疑的態度を崩さない。

その理由として第一に挙げられるのは、代替治療のどの分野 をとってもその多くが安全性、有効性に関し研究不充分であること。「自然」である ことが必ずしも「安全」と言えない点を指摘する。これまでにも、ハーブのエフェド リンやメグサハッカ使用など自然治療が原因と見られる死亡事故が数件報告されてい るからだ。

600人以上の開業医を対象に行った調査でも、3分の1以上が代替治療によって何らか の問題を起こしたことを報告した。副作用報告291件は軽い症状ではあったが、96件 は命にかかわるものだったという。第二に、ハーブやビタミンは他の医薬品のように 肝臓や腎臓で代謝し排泄されるため、他の処方箋または市販の医薬品との併用では危 険な相互作用を導くケースもあることなどを指摘している。

代替医療は医療関係者と患者との協力体制が必要

代替治療に対する周囲の熱に煽られて一度は試してみたいと思うのが人情だろうが、 では代替治療を有効に利用するためにはどうすればいいか。最も大事なことは医療関 係者と患者との協力体制だという。

つまり、代替治療について医師と腹を割った話し合いをすること。これに関しては対応が遅れており、今だ両者の間の溝は深い。 最近の調べでも、止められることを恐れ主治医に代替治療の使用を告げる患者は40% 以下という結果が出ている。

さらに、医師側でも4分の3は使用に関する質問を患者にしていないという状況。十分な話し合いや納得が得られないままでの代替治療は、時 として命にもかかわる危険なことと専門家は警告している。

前述のアイゼンバーグ博士も、こうした「don’t ask, don’t tell(聞かない、言わない)」風潮を打破すべきと主張する。

そのための双方へのアドバイスとして―
①最初の診断で、患者は症状をできるだけはっきり説明する
②正確な診断と適切な治療
の説明は医師の倫理的、法的責任であることから、血液検査やX線撮影など一連の検査は必ず行う
③患者は、症状の程度、起こる回数、また治療が始まればそれに対する反応などを記録するため日記をつける
④患者が代替治療を考えているなら、躊躇することなく正直に医師へ伝え相談する
⑤数種類の代替治療を考えている場合、試すのは一度に一種類にする⑥代替治療医師は必ずその分野の資格を持った医師を選ぶ
――などを挙げている。

心理療法によるストレス緩和など、ストレス社会を反映

現在、注目されている代替治療は次の通り――。

① Biofeedback(バイオフィードバック)
コンピューターを使って、自分自身の脳 波、血圧、皮膚温度、心拍数、筋緊張度など生体の神経的・生理的状態を計測データ として取り出し、それを手がかりに身体機能のコントロールを学ぶ方法。糖尿病の主 要原因はストレスだと考えたカナダの研究者グループは、タイプI糖尿病患者18人に 対し、通常の治療に加えてストレス対処としてバイオフィードバックを試みた。これ によると、対照グループと比べ、脳波や心拍数が落ち着いている(休みの状態に入っ ている)時にはグルコースも低下していることが分かった。

② Guided Imagery(誘導イメージ法)
生理学的状態に影響を与えるようなシナリ オを患者にイメージさせる。例えばがん患者には、がんの腫瘍が免疫システムの攻撃 を受け溶けて消えて行く状態を想像させる。今のところ、同方法自体の治療効果を証 明する研究成果は発表されていないが、リラグゼーションとしての効果は指摘されて いる。スタンフォード大学が行った研究では、同方法を行った乳がん患者の生存率が 対照グループと比べ約2倍になったことを明らかにした。

③ Hypnotherapy(催眠療法)
患者をリラックスさせ、病気に対する不安感などを 取り除き痛みをコントロールする。バージニアで行われた研究では、慢性の腰痛患者 17人に対し催眠をかけながら氷水が温まる感じをイメージさせる。同療法を続けた患 者では、痛みが減少あるいは無くなったことが指摘された。

④ Acupuncture(鍼療法)
最近、鬱治療や痛みコントロールの有効性への期待が高 まっている。アリゾナ大学で行った研究では、鬱病患者33人を1)鬱をコントロール するツボに鍼を打つ2)それ以外のツボに鍼を打つ3)鍼治療を行わない――に分け8 週間続けた。これによると、的確なツボに鍼治療を受けたグループの約3分の2に鬱症 状の緩和が見られたという。

この他、多量ビタミン投与療法、ハーブ療法、カイロプラクティック、ダンス、さら に逆子に有効性が期待されている灸療法、喫煙者に対し煙草への欲求を抑えると最近 の研究で指摘されたマッサージ療法などがある。