米国・代替医療への道 1998

「食」に不安、栄養補助食品に期待かける米国 / 過熱する健康情報メディア、問われる信憑性 / 膨張する米国民医療費、高まる予防医学への期待 / 米国のがん罹患率、1990年から毎年0.7%減少 / 糖尿病人口急増、予備軍含め1,600万人 / 食餌と「キレ」る行動との関連 / 米国・ぜんそくアレルギー患者の実態 / 米国におけるアトピー・アレルギー人口の現状 / ミネラルウオーター人気依然根強い、米国水事情 / ホルムアルデヒドなど、米国で深刻化する室内空気汚染

「食」に不安、栄養補助食品に期待かける米国

  1994年「栄養補助食品教育(DSHEA)」法成立以降、ビタミン・ハーブ産業活性化

油いっぱいの大きなステーキ、フライドポテトにピザ――典型的なアメリカ人の食事だ…だったのだが、最近食生活の形に変化が兆し始めている。ベビーブーマーも中年期を迎え、この勢力は、これまでのアメリカの食生活では長生きできないのではないかという不安に陥り、さらに相変わらず馬鹿高い医療費に嫌気をさしたこともあいまって、健康志向に走り始めた。 各研究機関はこのブームを待っていたかのように、病気に対抗できる様々な栄養素の研究成果を続々と発表し始め、さらにブームを煽る。

1994年、「栄養補助健康教育法(DSHEA)」が成立。医療・健康業界の解釈に、医薬品でも食品でもない栄養補助という新しい分野を作り上げたことが決定的となり、ビタミン・ハーブといった健康食品を扱う産業に火をつけた。これ以後、同業界はもとより食品、さらに生命科学を扱う医薬品系業界なども参入して、食品に含まれる要素で病気を予防、あるいは和らげようというテーマの下にし烈な競争を繰り広げている。

ガーリック、柑橘類など栄養素の疾病改善作用が数多く発表

1985年、「The Foundation for Innovation in Medicine」が、爆発的成長中の栄養補助剤を初めとする分野に「Nutraceutical」と命名。以後、この他に「Functional Foods」、「Designer Foods」といった用語で呼ばれている。同分野の定義には、まだあいまいな部分が残されているが、医学的あるいは健康的に有益性がある食品並びに食品要素で、病気の予防、治療に力を発揮するものを網羅すると考えられる。例えば、個々の栄養素から栄養補助剤、生鮮食料品、ハーブ類、さらにシリアルやスープ、飲料などの加工食品に至るまで幅広く含まれる。つまり、現在心臓病への有効性が注目されているビタミンE、葉酸といった栄養素から、風邪をひいた時に飲むチキンスープまでということだ。

最近の栄養学と病気の関連性への関心はこれまでにないほど大きなもの。個々の栄養素が特定の疾患への有効性を持つことを証明する研究発表の膨大な数は目をみはるばかりだ。研究者の中には2025年頃の医療体系を想像して「病気になったらまず栄養士を訪れる。栄養士は患者のDNAやメディカルレコードなどを検討して、病気に有効性ある栄養素を含んだ30種類ほどの食品を使ったメニューを処方箋として与えるようになるかもしれない」と述べている。例えば、現在がんへの有効性で注目を浴びるのがphytochemical。1989年、ハーバート・ピアソン博士は米国立がん研究所(NCI)のプログラムの下で、ガーリック、柑橘類、大豆などどれもphytochemicalを含んでいると思われる野菜の臨床研究認可を勝ち取った。現在、同博士はインターロイキンが含まれるというガーリック・エキスを研究中。がん、エイズへの有効性を調べている。また、乳がんに有効と期待される、大豆などに含まれるphytoestrogenも同じく研究材料だ。

各企業が機能性食品の開発進める

こうした栄養素やビタミン、ミネラルなどに食品会社が注目し、これらを使用、あるいは添加した食品の開発に本腰を入れ始めるのは当然の成り行きといえよう。脂肪やコレステロールの低い食物繊維を強化した食品群、多くの栄養素が配合されるスポーツドリンク、さらにエネルギー生成を狙ったニュートリシャン・バーなど。既に多くの商品が店頭をにぎわしている。穀類を生産するCeapro社は、オート麦を中心としたFunctional Foodsを開発した。例えば、Ostar Bran。ベータ・グルカン(溶解性食物繊維)を16%以上含み、コレステロール値を下げ心臓病の危険性を減少させるという。Ostar Starchは、医療用グローブ、入浴パウダーなど皮膚科分野での評判を狙っている。また、Reliv International社が開発したArthred(TM)配合の製品、Arthaffectは関節炎など関節機能障害や炎症への有効性が期待されている。ドイツでは既に多くの関節炎患者に使用されており、安全性での研究も数多く報告されている。

勿論、この分野はまだ新しいことから手探りの状態であり、健康志向だからといって出せば全ての商品がヒットするとは限らない。Quaker Oats社のシリアル製品でも、売上げが伸び悩み販売戦略転換を余儀なくされたものもある。Nestle社もベータカロチンを強化したジュース、Fruitionのテスト販売で思うような結果が得られなかったため、そうそうに市場から引き上げた。他に、この分野への進出は時期早尚と見ている大手も数社ある。

同分野進出に慎重な企業が多いのは、①規制条項の手直しが必要/ラベル表示でも、今のところ、「心臓病やがんに効く」といった表現は許されない。②栄養素などの研究成果に特許権がない/例えば、心臓病の危険性を下げるビタミンEという研究成果は一社が独占できるものではない。③消費者は常に安全性を気にしている/安全性を証明するためには、長期的、大規模な研究が必要。新興会社がすぐに手をつけられる分野でもない――などが壁となっているようだが、これ以外にも多くの課題を抱えている。その一方で、高騰する医療費、多い医薬品の副作用、こうした現状が解決されない限り、さらに成長を続けるだろうと同分野へ寄せる期待は大きい。