米国・代替医療への道 1998

「食」に不安、栄養補助食品に期待かける米国 / 過熱する健康情報メディア、問われる信憑性 / 膨張する米国民医療費、高まる予防医学への期待 / 米国のがん罹患率、1990年から毎年0.7%減少 / 糖尿病人口急増、予備軍含め1,600万人 / 食餌と「キレ」る行動との関連 / 米国・ぜんそくアレルギー患者の実態 / 米国におけるアトピー・アレルギー人口の現状 / ミネラルウオーター人気依然根強い、米国水事情 / ホルムアルデヒドなど、米国で深刻化する室内空気汚染

食餌と「キレ」る行動との関連

  ブドウ糖レベルが思考・行動に影響

子供たちが精神的に不安定なのは砂糖のせい――。そんな食餌と子供の行動との関係がアメリカで議論されるようになってかなり経つ。その道の専門家は、さまざまな資料をもとに食餌関与の肯否論をそれぞれ展開している。 
小児科学誌1996年2月号に、「子供は大人に比べブドウ糖の摂取量に対し顕著な反応を示す」という研究報告が掲載された。

血中のブドウ糖レベルが下がると、興奮剤ともなるアドレナインが分泌されるのはよく知られている。血中のブドウ糖レベルが標準値を下回ると低血糖症を引き起こし、体の震え、発汗、異常な思考・行動などが症状としてあらわれる。

70年代に食品添加物と異常行動との関連を指摘

研究報告によると、子供のブドウ糖のレベルは大人に比べ高い値、また低血糖症とみなされない血糖値ですでにアドレナリン分泌が始まるという。特に精製された砂糖や炭水化物は血液中に急速に吸収されるため、ブドウ糖レベルを一気に高める。 こういった研究報告を踏まえ、アドレナリン値を安定させる繊維質、たとえばオートミールや麦、バナナなどを食べることで子供たちの精神状態は安定すると指摘する専門家も少なくない。

また、70年代の研究報告や記事の中には行動と食餌との深い結びつきを取り 上げたものが目立つ。ベン・F・ファインゴールド医師は74年出版の著書「なぜあなたの子供は異常なほど活発なのか」の中で、食品添加物などの化学物質は子どもたちの心身に悪影響を及ぼすと指摘。米国そして世界の医療業界に大きな波紋を投げかけた。今でも子供の行動とダイエットを語るうえでたびたび引き合いに出されている。最近では、ファインゴールド氏の本に最新情報を加味したジェン・ハーシー著書「なぜわたしの子供はちゃんとできないのか」で、食品添加物の摂取による集中力の欠如、いらいら、攻撃的、おおげさな反応など精神不安の問題がとりあげられている。

米国立試験所(NIH)など、「砂糖」による子供の異常行動を否定

このように食餌、特に「砂糖」と「食品添加物」が子供の行動に大きく影響するといわれる一方で、「全く関係なし」という見解もある。ジャクソンビルに数軒の小児クリニックで栄養士をするリンダ・ルッセルさんは「ハイパーアクティビティの原因はわからない」と言う。よく砂糖が原因といわれるが、それを立証する科学的なデータはないという。

「ペアレンティング」誌も、アイオワ大学医学部とヴァンダービルト大学の研究員による94年の調査報告をもとに、砂糖を原因とみる考え方を否定。調査では、子供約50人を対象に甘砂糖、サッカリン、低カロリーの人工甘味料を3週間ごとに切り替えて甘味に使ったところ、行動には何の変化もみられなかった。子供の行動に問題があるのは他の理由によるものとしている。研究主幹のマーク・ウォールレイク教授は「砂糖や人工甘味料が子どもの行動に影響を与えるという説を裏付ける証拠は何も発見できなかった」と話している。食品添加物と合成着色剤が活動過多を引き起こすという説も70年代には主流だった。しかし、National Institutes of Healthは82年に「科学的な根拠はない」と結論づけている。