米国・代替医療への道 1998

「食」に不安、栄養補助食品に期待かける米国 / 過熱する健康情報メディア、問われる信憑性 / 膨張する米国民医療費、高まる予防医学への期待 / 米国のがん罹患率、1990年から毎年0.7%減少 / 糖尿病人口急増、予備軍含め1,600万人 / 食餌と「キレ」る行動との関連 / 米国・ぜんそくアレルギー患者の実態 / 米国におけるアトピー・アレルギー人口の現状 / ミネラルウオーター人気依然根強い、米国水事情 / ホルムアルデヒドなど、米国で深刻化する室内空気汚染

膨張する米国民医療費、高まる予防医学への期待

  膨れ上がる国民医療費、1兆ドルも時間の問題

がん、成人病、ストレス、環境ホルモン――健康を脅かす材料には事欠かない現代。米国では誰もが何らかの病気を抱え込んでいるようで、年間の医療費では桁外れの数字が出ている。1992年には総額8千億ドル、また最近Boston Globe紙が伝えたところによると、1兆ドルを超えるのも時間の問題だという。1人あたりにすると3千750ドル、GDP比が13.6%と世界第一位を続けている。

連邦や各州が支払う額は総額の47%を占めるが、これはここ数年間で10%増となり、その他一般予算の中ではダントツの上昇率を示している。また、Nando Newsの掲載記事で、企業4千以上を対象に調べた調査では、10人以上の従業員を抱える会社は年間、1人あたり平均3千924ドル(1997)支払っているという。

米政府は財源の枯渇から民間の健康保険への移行を奨励

このように高騰する医療費負担を少しでも軽くするための健康保険だが、米国の公共保険は、社会福祉制度(Social Security)の一環で、65歳以上の市民、永住者、さらに腎臓病や身体障害を持つ特定の者に与えられるMedicare(メディケア)と低所得者層を対象にしたMedicaid(メディケイド)の2種類。メディケアには約3千700万人が、またメディケイドには同じく3千600万人が加入しているという。メディケアには、①Social Security受給者である②まだ申請はしていないがSocial Security受給の有資格者――などの条件をクリアすれば保険料を支払わなくてすむPartAと月額保険料$43.80(1997)を支払って加入するPartBのプランがある。

最近の医薬品や関連医療費の高騰、受給人口の急増などで、これら公共健康保険財源の枯渇を懸念する政府は、民間の健康保険への移行を呼びかけている。その代表株がHMOと呼ばれる(Health Maintenance Organization)会員制健康管理機関。現在の加入者は約700万人以上、30を超える医療機関が契約しているという。HMOは一定額を先払いするシステムを取っていることから、医療機関は限られたコスト内で医療行為を行わなければならないため、医療費削減にかなり貢献していると評価されている。

また、HMOは治療以前の予防医学にも力を注いでおり、このことでも医療費を抑制している。ただ、近年HMOでは①満足な治療を受けられない②完治しないうちに病院を追い出される③医師を自由に選べない――などの苦情が増加したが、現在では改善されつつある。

鍼、アーユルベーダ、ホメオパシーなど代替医療を保健プランに組み込む動き

健康保険プランが充実してきたとはいっても、総人口の13.7%は貧困層(1996年国勢局調べ)という米国だけに誰もが保険に加入できるわけではない。ここ数年のうち、さらに各保険会社の保険料は総じて値上がりするだろうとも予測されている。96年で保険に加入していない18歳以下の児童は千6万人を数え、前年の980万人に比較するとかなりの上昇率だ。全体的には、国民の15.6%に当たる4千170万人が保険を持たないといわれる。

高騰する医療費に対抗して、近年は比較的安価な「Alternative Medicine(代替治療)」に人気が集まってきている。例えば、一般医学と代替治療との差をNewsweek誌(1995年)は次のように掲載した。①心臓病/バイパス手術(30~40万ドル)-Ornish社ダイエット・ライフスタイルプログラム(5千500ドル)②花粉症/Seldane(100錠=103ドル80セント)-Nettles(【イラクサ】90錠=9ドル50セント)。さらに、代替治療の核となるコンセプトは、病気を寄せ付けない強い体質作りと疾患に罹っても体が自然に治癒する、つまり免疫システムの強化を狙うことから、医療関係者の中でも利用する割合が高くなっている。こうした傾向や利用者の要望の声を受けて、最近では代替治療も保険プランに組み込む保険会社が増加してきた。例えば次のようなプランが販売されている。

① American Western Life Insurance Wellness Plan/65歳以下を対象に、主にカリフォルニア、ユタ、コロラド、アリゾナなどで提供される。カバーされる代替治療には、カイロプラクティック、ホメオパシー、鍼、アーユルベーダ、マッサージ治療、栄養治療など。同プランでは、入院、処方箋医薬、テストなど主要医療行為をカバーする。ただし、年間全体として12通院までしか認められていない。

② Alternative Health Plan(Alliance for Alternatives in Healthcare,Inc.)/一般医療、また鍼、アーユルベーダ、ホメオパシー、カイロプラクティックなど代替治療のどちらもカバー。ビタミンは対象に入っていないが、ホメオパシー治療薬、ハーブの処方箋剤は年間500ドルまで支払う。12通院までしか認められていない。その他、Blue Cross Washington/Alaska、 ohn Alden Life Insurance Co.、Mutual of Omahaなどもプランを販売している。また、HMOも大半でカイロプラクティックをプランに組み込み始めたという。