米国・代替医療への道 1999

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アルツハイマー対策の栄養および代替医療
ロナルド・レーガン元大統領が、アルツハイマー病であると告白したニュースは今でも記憶に新しい。米国には今、彼と同じ病気を抱えた患者が約400万人いるといわれている。初老期痴呆の代表的なもので、原因はよくわからず、治療法も確立していない。 米国のアルツハイマー病現状と、脳細胞を活性化し記憶力改善に効き目ありと話題の「ブレインフード」と総称される健康・栄養食品、生活の質の向上に役立つとナーシングホームで使われている代替療法を紹介する。

  米国では65歳以上の10人に1人がアルツハイマー病

1906年、A・アルツハイマーがはじめてこの病気を報告し、E・クレペリンがアルツハイマー病と名づけた。この病気になると脳が全体的に萎縮し、大脳皮質に特異な老人斑が現れ、神経原線維に変化が起こるといわれている。

米国にいるアルツハイマー患者の数は約400万人。60年代には、稀にみる病気と思われていたが、研究が進むにつれ初老期痴呆の代表的なものであることが分かった。一般的には60歳を過ぎて病気になるケースが大半を占めるが、中には50歳前に発病する珍しいケースも報告されている。

米国では65歳以上のアメリカ人の10人に1人がアルツハイマー病に罹っているという。65歳から74歳の間では全体の3%、75歳から84歳では19%、85歳以上は47%と、年を重ねるごとに病気になる確率は上昇する。

米国も日本と同じように高齢化社会を迎えており、85歳以上の人口が急激に増えている。このまま予防法が発見されなければ、2050年までに、65歳以上の15%がアルツハイマー病に苦しむと予測する研究者は多い。流行病を研究する学者が、アルツハイマー病を「今世紀の病」と呼ぶゆえんである。

アルツハイマー病に大幅な予算、治療に進展みられず

アルツハイマー協会の調べによると、米国で現在、身内または友人がアルツハイマー病になり、その世話をしている夫または妻、身内、友人は約270万人、身内に患者がいるという人は約1900万人、病気になっている人を知っているという人は約3700万人、ナーシングホーム(特別擁護老人ホーム)入居者の約50%はアルツハイマー患者あるいは別の老人性痴呆症患者である。このことから、アルツハイマー病が患者だけでなく、介護する側の大きな負担になっていることが容易に想像がつく。

専門家らの推定では、アルツハイマー病による生産力の低下、および医療費、介護費など合わせると、800億ドルから1000億ドルと莫大な金額にのぼる。自宅で介護した場合の平均的な費用は年間約12、500ドル、施設に入れた場合は42、000ドル。このように施設への入居費は高く、また政府の高齢者向け健康保険制度は介護費用をカバーしないなどの理由から、患者の70%が自宅で介護を受けている。

診断されてからの余命は7年から10年が最も多く、長期にわたる介護が必要なことから、最も高くつく病気の第3位にランク付けされている。ちなみに、アルツハイマー患者が亡くなるまでに必要な経費は平均すると、1人につき17万4000ドルにも達するという。

連邦政府はここ10年、アルツハイマー病研究にかなりの予算をさいており、今年は4億ドル以上を投じているが、予防・治癒に向けての画期的な進歩は見られず、今のところ、病気の進行を遅らせ、症状をどう対処するかに、治療の焦点が当てられているというのが現状だ。

注目される「ブレインフード」

そこで、「脳の栄養素」といわれる健康・栄養食品に人気が集中している。老人性痴呆に限らず、学生は「勉強がはかどる」と、健康食品店でよく売れているのがギンコ、セリン(ホスファチジルセリン)、レシチン、そしてこのギンコとセリンを合わせた栄養食品がちょっとしたブームになっている。

脳に入力された情報は「神経細胞」の樹状突起から受信され、これが軸索の先端のシナプスから次ぎの神経細胞へと伝わる。この個々の軸索と樹状突起を増やすことで、情報伝達の働きを高めることができる。「ブレインフード」は脳細胞の活性をはかり、情報伝達を高めるといわれている。特にアルツハイマー病に関連して注目されている「ブレインフード」を紹介する。

◎ギンコ(イチョウ葉のエキス)
「スマートドラック」「脳のビタミン」などと呼ばれ、飛ぶように売れているのがイチョウ葉のエキス。ボケ症状を改善する効果もあることからアルツハイマーに効果ありと近年、話題を集めているものの、既存医療に携わる医者の間での関心は極めて薄い。

ヨーロッパはこのイチョウ葉のエキスに関する研究に積極的で、ドイツ、フランス、イタリアなどの国々ではイチョウの青葉の製剤化が進み、エキスが医薬品として承認されており、病院でボケの治療薬として用いられているが、米国では健康食品として個人購入の粋を出ていない。

アルツハイマーになった、ならないに関わらず、年をとることで脳の血行は確実に低下していく。血行不良から細胞は栄養や酸素が不足した状態になり、そのまま脳細胞が死滅すると、ボケが進むといわれている。ヨーロッパのいくつかの研究報告は、イチョウ葉のエキスに、血液の流れを促す働きがあると指摘。

また、本物の薬と、それにそっくりの ニセ薬を使った二重盲検法によって、脳血管痴呆症だけでなく、アルツハイマー病にも有効なことが確認されている。こういったヨーロッパでの研究が米国に飛び火して、ひと足遅れで今、大ブームになっているといった状況だ。

◎レシチン
大豆に多く含まれているレシチンは、正確にはホスファチジル・コリンといい、体内でアセチルコリンという物質に変わる。このアセチルコリンが、シナプスから隣の細胞のシナプスへ運ばれる神経伝達物質の役割を果たす。

アルツハイマー病は、脳におけるアセチルコリンのレベル低下と結びついていると考えらていることから、レベルアップに一役買うレシチンがギンコ同様に脳の栄養素のひとつとして栄養食品店で売られている。レシチンは、血管にこびりついたコレステロールを血液に溶かす、また、血管壁を強くするといった働きもあることから、動脈硬化、高血圧の予防としても人気の商品だ。

◎セリン
ホスファチジルセリンは、レシチンと同類のリン肪質で大豆から抽出される。脳の神経細胞膜に多く含まれ、脳内エネルギー代謝やさまざまな機能を高めるといわれている。また、高齢者の記憶力、認識力、集中力の低下抑制および回復にも効き目があるといういくつかの研究報告から、ギンコと並ぶ売れ筋「ブレインフード」。健康食品店によると、ギンコと組み合わせた「ハイヤー・マインド」といった商品もよく売れているという。

◎カルニチン(acetyl-L-carnitine)
「Lysine」と「 methionine」の2種類のアミノ酸から作られた「カルニチン」。いくつかの研究から、アルツハイマー患者の失認症の進行をスローダウンさせる働きが報告されている。ヨーロッパで数々の研究報告が発表されているが、米国内では、ニューヨークの神経学研究所が92年、問いかけや働きかけにある態度答えられる中程度のアルツハイマー患者30人を対象に、ニセ薬または、「カルニチン」を3カ月ずつ1日に2.5g、3gと投与したところ、6カ月後の結果は、ニセ薬を飲んでいた患者に比べ「カルチニン」グループの失認症の症状が改善されていた。

また、ピッツバーグ大学の研究員が95年、アルツハイマー患者12人を2組に分け、5人にニセ薬、7人に1日3000mgの「カルニチン」を1年間にわたり投与したところ、アルツハイマー病の進行状態をはかるテストの結果、ニセ薬組に比べ、「カルニチン」を飲みつづけた患者の症状の進行が明らかに少ないことがわかった。こういった朗報から、「カルチニン」に期待が寄せられている。

◎酸化防止剤
血管や脳の老化を招き、動脈硬化やガンの原因といわれる過酸化脂肪。活性酸素の過剰発生により生み出されるもので、アルツハイマー病にも大きく関わっているといわれている。そこで、活性酸素を抑える働きのある、ビタミンA、C、E、セレニウム、β-カロチンにも熱い視線が注がれている。

中程度のアルツハイマー患者173人に6カ月、酸化防止剤を投与したところ記憶力の改善が見られたほか、既存医療で使われているアルツハイマー治療薬との併用による 症状改善効果も報告されている。

アロマセラピー、音楽療法、ペットセラピーなどがアルツハマー治療に人気

アルツハイマー患者の入居施設では、患者のQOL(生活の質の向上)に大きな効果があるとして、アロマセラピー、音楽療法、ペットセラピーなどが人気だ。中でもアロマセラピーを取り入れているナーシングホームは多い。しかし、記憶力や認識力を高めるといった治療効果に期待しているのではなく、あくまでも生活の質を高めるという目的で補助的なものとして使っている。

コロラドのナーシングホームで88年、抗精神病薬を服用している末期のアルツハイマー患者6人にアロマセラピーを併用したマッサージを、1週間に2回、40分ずつ5週間にわたり試みたところ、抗精神病薬なしでも落ち着きを取り戻した。

また、アルツハイマー施設で毎朝、レモンの芳香剤を使ったところ、患者の目覚めがよくなったという報告もある。アルツハイマー患者に対するアロマセロピー効果は科学的には立証されていないものの、はいずりまわるといった多動傾向が改善され、家族や社会との交流もスムーズになり生活の質の向上面で目を見張る効果があったという、現場からの声は多い。

また、芳香剤なしに、マッサージだけの効果も指摘されている。ブリティッシュ・コロンビアのアルツハイマー施設で、患者57人を、1日に6分のマッサージをするグループとマッサージなしの2グループに分け3日後に比べたところ、マッサージを受けた患者の徘徊といった問題となる行動が以前より少なくなっていることがわかった。短時間しかも短期間で、このような効果が見られるマッサージは、アルツハイマー病とは直接の関係はないが、雑誌や新聞の紙面で大きく取り上げられ、予防医療の観点から一大ブームとなっている。