米国・代替医療への道 2002

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”肉”から”サカナ”へ~米国で進む”魚食”化現象
ミート・イーターからフィッシュ・イーターへ―アメリカ人の食生活にそんな 異変が起きている。以前だったら「生でサカナを食べるなんて気味が悪い」と 言っていたアメリカ人たちが、「アイ・ラブ・スシ」と大の寿司好きに変身。 とにかくちょっとおしゃれな街に行けば、数10メートルごとに寿司屋があると いってもいいほどだ。移民が増えすぎたなどの理由から外国人の就労ビザがと りにくくなった今でも、スシ・シェフをはじめ寿司がらみのビジネス関係者に は年間、約1000件のビザが発行されているという。脂肪分の多い肉の食べ過ぎ は心臓病のもとと脅かされ、「健康のために少なくとも週に二回はサカナを食 べましょう」という健康団体らの呼びかけで高まった「サカナ・フィーバー」。 そんなアメリカのシーフード市場を報告する。

  米国シーフード市場、国産・輸入もの合わせて2000年は前年比2.3%増で過去最高

The National Oceanic and Atmospheric Administration(NOAA)によると、 アメリカのシーフード輸出額は昨年、32億ドル。輸出先のトップは日本で全体 の37%、二位がカナダで21%だった。また、輸入額は112億ドルで、シーフー ド別でみると、トップがシュリンプの36%で、次がサケの9.3%、カニの8.8% と続く。寿司ネタで最も人気のマグロは7.1%。

アメリカ国内でのシーフード消費量は、NOAAの最も新しい資料によると、 国産・輸入もの合わせて2000年が、前年比2.3%増の43億ポンド(1ポンド= 0.4536kg)で過去最高を記録した。

一人当たりの消費量は15.6ポンド。うち、フレッシュまたは冷凍ものが10. 5%と最も多く、次が缶づめの4.8%、燻製などの保存食が0.3%。シュリン プの消費量は一人当たり3.2ポンドで過去最高を記録した。

チリアン・シーバス(Patagonian Tooth fish)、パシフィック・レッド・ス ナッパー、サメ、さらにシュリンプは種類によって、あまりに消費量が多くな ったため、このまま捕獲し続ければ絶滅の危機に瀕する恐れがある―と、一部 のレストランはメニューからはずしたほどだ。

人気の秘訣は、おいしくて健康にもいいから

脂肪分の多い肉よりもサカナのほうが体にいい―。健康志向が高まるアメリカ でこれはいまや常識。いつまでも元気でいたければステーキやハンバーガーを 食べるより、長寿の国、日本を見習って魚をいっぱい食べましょうと、寿司 などはヘルシーフードの代名詞にまでなっている。

そんなサカナ・ブームにさらに拍車をかけそうな研究結果がつい最近、二つ 発表された。ともにハーバード大学のもので、サカナに含まれるDHA(ドコ サヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)が心臓病予防に効果をが あると結論づけている。DHAやEPAは「オメガ3」というタイプに分類さ れる脂肪酸だ。

ひとつは、女性を対象にした研究で、サカナを食べている女性に心臓病が少な いというもの。16年間にわたり調査したところ、1カ月に数回でもサカナを食 べている女性が心臓病で死亡する率は、ほとんど食べていない女性より20%低 いことが分かった。さらに1週間に数回という女性の場合は、30%も低かった。 すでにサカナをよく食べる男性に心臓病が少ないことは報告されていたが、 女性に関する研究はこれがはじめて。

米国心臓病協会でも心臓病予防にサカナを推奨

別の研究は、健康な男性を対象に17年間にわたりDHAとEPAの摂取量を調 べたところ、摂取量の最も多かった男性グループが突然の心不全で死亡する率 は、最も低いグループより80%も低かった。毎年、約25万人のアメリカ人が 突然の心不全で死亡していることから、関係者らはDHAとEPAの予防効果 に大きな期待を寄せている。

こういった科学的裏付けをもとに、「一回につき約3から4オンスのサカナを 週に二回は食べましょう」と呼びかけているのが米国心臓病協会。なかでも、 シャケ、サバといった色の濃いサカナに「オメガ3」が多く含まれていると 推薦している。   

妊娠中の女性は長寿のサカナを控えるように

健康のためにサカナを食べようという動きの中、食品・医薬品局(FDA)が昨年 はじめ、妊娠中の女性に警告を発した。サメ、メカジキ、サバなどの寿命の サカナは、水銀で汚染されている可能性が高いため、妊娠中の女性は胎児への 影響を考え摂取を控えるように―と。

長生きすれば汚染された環境に長い間いることになる。当然、人体に害を及ぼ す高い濃度の水銀が蓄積されてる可能性が高い。

そんなサカナを妊娠中の女性が食べると、水銀に非常に敏感といわれる胎児の神経系発達に障害を与える恐 れがあるという。「プロテイン、オメガ3、ミネラル、カルシウムなど体にい い成分を豊富に含んでいるものの、妊娠中および授乳中の女性は食べないほう がいい」と指摘。これらの長寿魚のかわりに、短命の貝類、海に生息する小ぶ りのサカナ、または養殖魚を食べるよう勧めている。

The National Academy of Sciencesによると、妊娠中の女性が安全基準を超 えて摂取すると、生まれてきた子供の記憶力、集中力、運動神経、言語力など に問題が生じることがあるという。

現在、米国で消費されているサカナの3分の1は養殖もの

安全性、そして天然ものの不足からここ10年ほど盛んになっているのがサカナ の養殖。といっても、パッケージに「養殖です」のラベル表示は義務付けられ ていないため、ほとんどの一般消費者は天然ものと思って食べているのが現状 だ。

The United Nations' Food and Agriculture Organizationによると、世界 の養殖漁業規模は過去10年で二倍に成長、現在、3560万トンを養殖する。アメ リカでも1991年以来、成長率は40%。今アメリカで消費されているシーフード の三分の一は養殖ものだという。

魚別でみると、アメリカ人が食べているシャケの60%強、ナマズ、マスのほと んど、シュリンプの三分の二は養殖場育ち。4月14日付のロサンゼルスタイム ズ紙によると、現在の一人当たりの消費量15.6ポンドが2025年まで続けば、さ らに10億ポンドの養殖魚が必要になってくるという。

養殖もの人気で、遺伝子組み換え魚の研究進む

カリフォルニア州だけでも120カ所ある養殖魚。今後ますますシーフードの需要 が高まることで、養殖漁業が盛んになるだろう。そこで、一部の環境保護団体の 中から、「政府が養殖魚の安全性をきちんと取り締まってほしい」という声が あがっているものの、一般消費者の間では、養殖ものは「育ちもわかっている から安心」それに「天然ものより安い」と人気だ。

ところが、需要に追いつこうと同じ目的で、天然ものより早く育つ遺伝子組み 換え魚の研究が進んでいるが、こちらは「フランケンフィッシュ」などと呼ば れて、環境団体はもちろん一般の受けも非常に悪い。市場にお目見えするには まだまだ時間がかかりそうだが、現在、通常36カ月かかるところを18カ月でフ ルサイズに成長するシャケのほか、早熟のピラニア、ナマズ作りの研究も進ん でいるという。