米国・代替医療への道 2000

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性機能回復剤バイアグラのその後と代替ハーブ
米国では40歳以上の男性3千万人が悩みを抱えているといわれる性的不能 (erectile dysfunction=ED)だが、ファイザー(Pfizer)社のバイアグラ(Viagra)は そうした男性の救済者として98年4月の販売開始以来、99年8月までに12億ドル を売上げた。また、1999年の海外売上も10億ドルを超えたという。高齢化社会を 背景にこうした性機能回復剤の需要は高く、最近ではポストバイアグラとしてユー プリマ(塩酸ポモルフィン)などが挙がっている。一方、こうした医薬品の副作用を 懸念し、代替ハーブ(薬草)を求める動きも高まっている。バイアグラのその後と米 国で注目されている代替ハーブを報告する。

  女性版バイアグラを開発中、高齢者の性をビジネスターゲットに

性機能回復は従来の痛みや腫れを伴うED治療がほとんどで、バイアグラのような 経口タイプへの移行はまさに革命的と言える。Pfizer社の報告によると、現在Viagra の吸引タイプを開発中で、さらに素早い効果を狙うという。また、同社では対象者を 男性から女性に移して、女性への有効性も研究しているといわれる。

American Urological Association(5月1日開催)で行われた研究発表では、平 均年齢50歳の女性35人にViagraを6週間与えたところ、性感や満足度がかなりア ップしたことが報告されている。性への渇望は男女とも変わらずといったところで、 高齢者の性をビジネスターゲットとしてとらえ始めた。

ニトロ治療を受けていない患者に有効

ところで、Viagraについては、心臓病でニトロを使っている男性患者のViagra利用 では、心臓発作や死にいたる場合のある副作用がこれまでに指摘されているが、 販売後も有効性や安全性に関しての研究が各所で進行している。

ボストンの研究者グループはViagraに関する研究82件を分析、Viagraの安全性を 指摘している。この分析調査では、Viagraを使用の4千497人と偽薬を与えた3千 136人を比較した。これによると、心臓発作・死亡件数がViagraグループで21件、 一方の偽薬グループでは12件だったが、さらに長期の使用を調べたところ、両グル ープとも数に差がなくなった。

また、心血管系疾患(CD)患者のViagra使用に関する有効性と安全性を調べた 研究がAmerican College of Cardiology会合(3月14日)で発表されたが、これで はEDを持つCD患者(ニトロ治療は受けていない)224人にViagraあるいは偽薬を 12週間与えた。Viagra投与量は50mgから初め100mgまで調整していった。

有効性検査では、Q3(勃起力)とQ4(勃起維持力)を勃起機能指数(IIEF)を使い、 等級を1(全く無い/殆ど無い)から5(いつも/殆どいつも)に分類した。この結果、 勃起力が改善したと報告した患者は、Viagraグループで71%、偽薬グループで は24%だった。また副作用報告では、ほてりが17%(Viagaraグループ)と2% (偽薬グループ)、頭痛(15%、1%)、消化不良(4%、0%)などだった。これによ り研究者は「ニトロ治療を受けていないCD患者へのED治療としてViagraは有効 性がある。勃起力、維持力ともかなりの改善を見せている」と結論付けている。

心血管系疾患による副作用死がほとんど

一方で、心臓疾患の副作用を調べる研究も行われている。同じくAmerican College of Cardiology会合で発表された調査によると、主要副作用1千473件を 調べたところ死亡が522件で、過半数が心血管系疾患によるものだった。死亡者 の70%がViagraを標準の50mg飲んでいたが、3分の2が服用後4~5時間以内に 死亡しているという。

発売開始から2年、お祭り騒ぎの時期を過ぎViagra治療を冷静に見ようとする専門 家も多くなっている。ある専門家は「性的不能をただ物理的問題としか見ていない 場合、事態を悪化させる可能性が多い。夫婦間のトラブルや金銭事情など精神的 問題が介在している時にもViagraに頼ろうとするケースは多く、その結果期待はず れの声もあがってきている。効果が得られなかったばかりかそれ以上に症状を悪 化させるなど、多くの危険をはらんでいる」と警告している。

また、「トレーニングを受けていない医療関係者がむやみに処方箋を出しているこ とも多く、薬を与えた後のカップルのケアまで至らない現状」も危険視している。「性 行為はあくまでもパートナーの意思が大切。女性の同意が得られないなら使用す べきではない」と強調する心理学者もいる。さらに、ある専門家はViagraが50歳以 上のグループのエイズ感染率上昇に拍車をかける恐れがあると警告している。

ユープリマなど10数件の性機能回復剤が開発中

ED治療市場に食い込もうと、現在少なくとも10数件の新薬開発研究が進行中。そ の中で、FDA認可を受ける最も近いところにいるのがTAP社のユープリマ(Uprima)。 FDA諮問委員会は4月10日、7月までにUprima認可を決定するよう勧告を行った。

FDAが諮問委員会の勧告に待ったをかける例は稀で、Uprimaの国内販売はほぼ 確実と見られている。ただ、Uprimaも吐き気、嘔吐、めまい、発汗、睡眠障害など 軽いものから場合によって失神といった重症の副作用が指摘されていることから、 ラベルには太文字で「服用で失神する可能性」を表示することも勧告している。

Uprimaは、症状の一つとしてEDを伴うといわれるパーキンソン病の治療薬、 apomouphineを新しく調合したもの。性器への血流を増加させるViagraと異なり、脳 の化学物質ドーパミン濃度を上げる働きを行う。TAP社の報告によると、舌下で使用 し服用後15分から20分で効果が現れるという。

カリフォルニアの研究者グループが行った研究によると、Uprimaで服用の男性60% が満足を示し、勃起維持の時間も平均13分に達したという。 

代替ハーブでは、イチョウ葉が安全性が高いと評価

性的不能を薬に頼らずに改善しようとする自然療法の分野でも多くの研究が行われ ている。例えば、食生活。プロテイン摂取が落ちると男性ホルモンのテストステロン 濃度が低下、性的欲求も減少するといわれる。また、高いコレステロール値も性的不 能を引き起こすという。26歳から85歳までの男性3千250人を対象にした研究では、正 常のコレステロール値(3.63~5.18mmol/liter)を上回ると性的不能の危険性も増大 することが分かっている。

さらに、ビタミンなど各種栄養素もホルモン分泌や性機能に深く関連してくる。 特にビタミンE、C、亜鉛、必須脂肪酸は男性の性機能を維持するために重要とされ ている。前立腺には高濃度の亜鉛が含まれているが、亜鉛が少なくなると精液の量 も減り、同時にテストステロン濃度も低下することが指摘されている。女性ホルモンと ミネラルのホウ素との関連も深いという。

更年期の女性に毎日ホウ素を補給すると、女性ホルモンのエストロゲン濃度が上がる。ただ、ホウ素が多すぎると骨粗しょう症の 危険性もあがるので、この摂取は医師との相談が必要。米国で性機能を促進するハーブとして注目されているものには以下のようなものが ある。

○ ヨヒンベ
樹皮のエキスを主に使用。Herbal Prescriptions for Better Health によると、神経組織の特定部分を刺激し性器組織への血流を増加させることによ って性的反応を活性化する。性的不能患者の5分の1がヨヒンベ使用後完全な回 復を見ているという。純正ヨヒンベには、血圧上昇、震え、頭痛、吐き気、嘔吐な どの副作用が報告されている。また、シベリア産ニンジンやノコギリパルメットと 併用すると、性的欲求を回復するのに有効だという。

※過剰摂取は体力減退、麻痺、過労感、胃腸障害などを引き起こし、最悪の場 合死亡するケースもあるとして米食品医薬品局(FDA)は使用を注意している。

○ ギンコビロバ(イチョウ葉)
血流を増加させる働きをもつ。副作用報告は稀で、ヨヒンベより安全性は高い。あ る研究では1日に60mg与えたところ、性器への血流が増加したという。被験者60 人のうち半数が半年以内に性機能を回復させている。

○シベリア産・韓国産ニンジン
高いエネルギーを生み出し機能を改善させる作用。勃起力と維持力を取り戻す。

○マチン(Strychnos nux vomica)
中枢神経組織を刺激。性的欲求を高め、力を取り戻す。ホメオパシー療法でよく使 用される。中枢神経を刺激することから、嘔吐や下痢、筋肉痙攣などの副作用があ るため、使用に関して専門医の指導が必要。

○スギナ(Horsetail)
前立腺肥大による性的不能に有効性がある。

○ノコギリパルメット
前立腺のホルモンバランスを維持。これは、正常な性機能に必要。