米国・代替医療への道 2000

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HIV感染と代替医療
人気プロフィギュアスケーター、ルディ・ガリンド(30)がつい先日、HIV感染を公表 して世間に大きなショックを与えた。ヒスパニック系アメリカ人で、早くから自分がゲ イであると告白し、話題を呼んだスケーターだ。近年はマスコミにもエイズの情報が 以前のように頻繁に登場することもなく、一見落ち着いたかに見えるエイズ蔓延だ が、マイノリティー(少数民族)間のHIV感染は決して勢いを衰えていなのが現状。 特に日本人、日系人を含むアジア太平洋系は最も感染の低い安全グループという 迷信からほとんどマスコミの話題にのぼらないが、そんなアジア太平洋系の感染状 況と、慢性病としてエイズとの共存に焦点を当てる代替医療によるエイズ治療情 報を報告する。

  米国では93年をピークに年々減少

米国疫病対策予防センター(CDC)によると、米国のHIV感染者は推定65万人から 90万人といわれる。HIV感染者発生数は93年の10万2千412人をピークに毎年 減っており、98年には約4万人。比例して死亡件数も減少している。99年6月30日 現在、CDCには71万1千344件のエイズケース、42万201件の死亡が報告されて いる。

感染率の高いといわれる危険な性行為をしている人が多い割にデータに出てくる 感染率が低い――アジア太平洋系のエイズ感染について語る際に必ず指摘され る矛盾点だ。これはHIV抗体検査を受ける人が少なく、また感染者の多くが外国生 まれで感染が分かると帰国してしまったり、既存医療ではなく東洋医学に頼るため データとして出てこないなどの理由があげられる。

感染不安高い、アジア太平洋系人種

HIV予防に積極的に取り組んでいる北テキサス大学のチー・ライ・チャン教授が、 ダラスの同性愛コミュニティーなどで男性同性愛者302人を対象に行った1999年 調査報告によると、過去に少なくとも一度はコンドームを使わずに感染率の高い性 行為をしたことがあると答えた人は51%で、人種別で見るとアジア太平洋系が最も 多かった。

対象のうち23%がすでに感染していると回答、人種別では黒人30%、アジア太平 洋系27%、ヒスパニック系23%、白人16%の順だった。また、「自分が感染してい るかどうか分からない」と答えた人の中に危険な性行為をしている人が目立ったほ か、非感染者、外国人の場合は米国滞在の長い人の方がコンドームを利用すると いった安全に心がけているという。

ロサンゼルス保険局の流行病学者、トゥリスタ・ビーングハム氏は、94年から96年に かけて同性愛者の多いといわれるハリウッドなどで、ロサンゼルス郡在住の15歳か ら22歳の男性約700人を調査、うち601人が同性愛だった。ここでもアジア太平洋 系のハイリスク行為が目立った。

全体の73%がこれまで抗体検査を受けたことがあ ると答えたのに対し、アジア太平洋系はわずか56%。にもかかわらず、「そのうち感 染すると思うか」の問いに「はい」と答えたのは、全体の9%に対してアジア太平洋 系は16%と高かった。ビーングハム氏は「これはあくまでも自己報告によるもの」と、 調査の信憑性について付け加えた。

アジア太平洋系、検査率低く「隠れ患者」増加

99年6月30日現在、ロサンゼルス郡のアジア太平洋系累計エイズ件数は763件で 男性705人、女性58人。生存しているエイズ患者は324人だった。エイズと診断さ れたアジア太平洋系の3分の2は外国生まれだという。感染経路は、男性は同性愛 間の性交が91%、女性は異性間の性交が55%とそれぞれ最も多かった。また、98 年に抗体検査を受けたのは、アジア太平洋系が男女ともにアジア太平洋系が最も 少なかった。

医者の中にアジア太平洋系は感染者の少ない安全グループという偏見があるため、 患者が感染を疑い検査を受けたいといっても、医者が「必要なし」と検査しないケー スも少なくないため、アジア太平洋系の検査率が低いという指摘もある。また、アジア 太平洋系は既存医療ではなく代替医療中でも東洋医学に頼る人も多いことから、医 療データに現れないことも「隠れ患者」を増やしている要因と見られている。

各種代替医療によるエイズ治療~何がエイズに有効か

西洋医学が体内からのHIV排除にエイズ治療の全精力を注ぐ一方で、感染により 生じるさまざまな症状を改善し、免疫力を高めできるだけ健康な状態を保つことに 焦点を当てているのが代替医療だ。エイズが不治の病といわれている今、ビタミン、 ミネラルといった栄養補助食品、ハーブ、針療法、ヨガといった代替療法で、「エイ ズと共に生きる」と前向きに病気と戦う人が増えている。

○栄養補助食品

◇ビタミンCメガ投与など

葉酸、セレニウム、亜鉛、鉄分の欠乏、また食欲不振などから生じる栄養不良といっ た栄養面での問題をかかえるHIV感染者およびエイズ患者は多い。しかし、人によ って何がどれだけ不足しているかが異なるため、治療のための標準摂取量というの はない。感染者および患者らによく摂取されている栄養補助食品は、アミノ酸、必須 脂肪酸、ビタミンA,、B複合、ビタミンE。中でも、B1、B2、B5、B6、B12は特に、弱った 免疫力の補強に効き目があると定番だ。

また、ビタミンCも酸化防止、ウィルスとバクテリア抑制、免疫強化に効果があることか らよく摂取されている。患者にビタミンCをメガ投与した結果、リンパ腺の腫れがひき、 カポシ肉腫も消えたという報告もあった。

ほかにも、摂取が望ましいといわれている栄養補助食品は、葉酸、ポタシウム、マグ ネシウム、アミノ酸、ω(オメガ)-3、(オメガ)-6など。いずれも、最大限の効果を得る には、専門家の指導のもとに正しい組み合わせで摂取すべきといわれている。

◇サプリメント、運動、瞑想などの複合療法

プリエストゥリー医師の報告書によると、必要な栄養補助食品を点滴で週に3回、大 量のビタミンCを毎日服用、B複合を注射で週に1回、さらに錠剤ガーリック、シベリア ンジンセン、亜鉛、アロエを服用、さらに運動、瞑想、針治療を併用したところ、患者 の体重がまたたくまに40ポンド増え、T細胞数は相変わらず低いものの、開始前より も感染によるさまざまな症状が緩和したという。

症状のひとつに、神経障害による手足の痛みや麻痺感、しびれがある。女性感染者 のための支援団体「ウエメン・アライブ」のニュースレターは、神経障害の防止・治療 としてカルシウム、マグネシウム、ビタミンB6の摂取を勧めている。効果を裏付けるデ ータはないものの、医者、感染者からは「効果があった」と報告されているという。

○ハーブ(薬草)療法

栄養補助食品と同様にエイズ代替療法として定着したハーブ。利用度の高いのは、 抗バクテリア、抗ウィルスの働きのあるエキナセア、甘草、ゴールデンシール、ガーリ ックのほか、HIVの活動を抑制するとという漢方では、「bitter melon 」「monolaurin」 「lentinan」などがある。バッジリー医師の報告によると、カポシ肉腫と診断された患 者が、エキナセア、レッドクローバー、chaparral、タンポポ、sasparilla、pau d' arco を煎じて服用したところ、食欲が回復し、体力も向上したという。ハーブは摂取量お よび組み合わせで「毒」にもなるため、必ず専門家のアドバイスを受けるよう頻繁に 強調されている。

○針治療

針治療に通うHIV感染者、エイズ患者は多い。免疫強化に効果があると数々のデー タで立証されているためだ。大半がハーブ、栄養補助食品と併用しており、「わずか 四、五回の針治療で、疲労感が緩和され、発汗異常も改善、下痢もおさまり、皮膚 病も治った」という報告も出ているほど。また、体重増加、体調改善といった効果も 報告されている。

エイズ治療を目的とした針治療の時間はだいたい45分。ニューヨークでエイズ患者 200人に針治療をしたところ、日和見感染症が緩和されたという。同じくニューヨーク のリンカーンメモリアル病院では、患者27人のうち20人が「針治療を1週間から3週 間受けた後、疲労、寝汗、下痢が緩和された」と報告している。また、ボストンの病院 では、カポシ肉腫治療の副作用緩和に効果が見られたという。

○高熱療法

HIVは熱に弱いことから、注目されている療法。体温を長時間にわたり平熱以上に 上げることで、免疫力を高め、ウイルスに冒された細胞が作るたんぱく質で、ウイル スの再生を防ぐ働きのある「インターフェロン」を増加する。熱い風呂に入った後、腹 部に湯を入れたボトルを置いて、体を乾いたブランケットでくるみ、数時間そのままで 大量の汗をかいた後に冷たいシャワーを浴びる。

これが自宅での高熱療法。施設では、電波や超音波を使ったハイテク機器で体温 を上げている。高熱療法で「寝汗をかかなくなった」「日和見感染症を発症する回数 が少なくなった」「治療の後、体調がよくなる」といった結果が報告されている。体内 のHIVがゼロになることはないものの、数を減らす効果には目を見張るものがあると いう。

ちなみに、華氏107・6度の風呂に30分つかっていると、HIVを40%不活性化する といわれている。ただし、時として腎臓、肝臓にダメージを与える恐れがあるため専 門家のアドバイスのもとに実施することが好ましい。

○マインド&ボディー

ストレスが免疫力を下げるように、決して切り離して考えられないのが、「心と体の健 康」。HIV感染、エイズ発病についてまわる、後悔、不安、怒り、絶望といった感情が、 大切な免疫力を低下させてしまう。そこでこういったネガティブな感情を少しでも軽 減する、ヨガや瞑想、グループカウンセリングも、エイズ治療によく使われている。