米国・代替医療への道 2004

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世界保健機構で代替療法利用に関するガイドライン発行
西洋医療以外の有効性が明らかな医療、代替医療を求める動きが世界的な潮流 となりつつあるが、先頃、WHO(世界保健機構)は代替療法の規制が不十分な 点や安全でない使用について警告を発し、世界の保健機関が信頼できる情報を 消費者へ伝達できるようなガイドラインを発行した。こうした背景には、もはや 代替医療を求める国民の高い意識に呼応し、西洋医療の補完となる代替医療の 利用を正式に認めざるを得ない状況に差し迫られているということでもある。 ガイドラインの概要を報告する。

  代替医療による有害事象報告、90年代に比べ倍以上に

WHOの報告によると、代替療法の利用による有害事象報告が急増しているという。 例えば、中国では2002年だけでも9,854件の有害事象が報告され、その数は 1990年代に比較し倍以上になっている。

WHOの伝統医療コーディネーターは「自然物質は元来安全なものではあるが、 その適正な使用法についての知識が欠けている。多くの国々ではハーブ製品 を管理する規制がなく、90カ国以上で市販されている」と述べている。

ハーブ、ビタミンなどを利用する栄養療法や伝統伝承医療(TM:トラディショ ナル・メディスン)および補完代替医療(CAM:コンプリメンタリ&オルタナ ティブ・メディスン)は今や、世界的なブームとなっている。消費者の使用が 驚異的に伸びるにつれ、TM/CAMに関連するトラブルも何かと世界を騒がせる ようになった。

グローバルレベルで保健・衛生を統括する世界保健機構(WHO)は、TM/CAMの 危険性をできるだけ回避するため、TM/CAMの有効性および正しい使用法を消費 者に理解させることを優先事項とし、医学界全体、関連業界、教育界など幅広 い範囲を対象としたガイドラインを作成した。

「Guidelineon Developing Consumer Information on Proper Use of Traditional,Complementary and Alternative Medicine」と題されたガイド ラインの作成にあたり、WHOはイタリアのRegional Government of Lombardy、 Government of Swedenなどから財政的、技術的援助を受けた。さらに、世界 102カ国以上の研究者、専門家、政府関係者など290人以上、そして国連関係 機関、非政府組織の協力を得ている。

TM/CAMが正しく使用されるために

このガイドラインが目指すところは、国連加盟国が状況に合わせたTM/CAMの 適正な使用を促進する消費者へ情報提供ができるよう支援するため、技術指導 を与えるもの。その目標として、

1)適正なTM/CAM使用を保証するため、ヘルスシステムに組み入れられる消費者 に直接つながる重要な要素の概要を提供すること。

2)TM/CAMに関する信頼できる消費者情報作成のための基本方針および活動を説明 すること。

3)適正なTM/CAM使用を奨励する情報作りで、考慮されるべき重要な要素を大まか に指摘すること  ――を掲げている。

またWHOは、TM/CAMが正しく使用されるために、各国政府およびその地方自治体が 全面的に参加する消費者自体の教育・指導の重要性も強調している。ガイドライン は以下のような構成となっている。その概要を紹介する。

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①一般事項

現在、TM/CAMは、経済力が低から中程度の国では、国民の最大80%が使用して おり、また高い経済力を誇る国でも65%が利用していると報告されている。 こうした広がりに呼応してWHOは、「WHOトラディショナル・メディスン戦略: 2002-2005」を確立した。

この戦略では、
1)方針の枠組み作り
2)安全性、有効性、品質の保証
3)入手機会の拡大化
4)TM/CAMの適正使用促進を目指している。

■TM/CAMの利点…特に経済力の弱い国々では、TM/CAM利用が一般的に広く行き  渡っている。

その理由として、通常療法に比べ比較的副作用が少ないこと、高額な費用が 必要となる最先端技術医療が手に入らないなどが挙げられる。例えば、WHO Roll Back Malaria Programmeが1998年に行った調査によると、ガーナ、 ナイジェリア、ザンビアなどの諸国では、子どもの高熱の処置に60%以上の 家庭がハーブを使用しているという。

その他、エビデンスに基づくTM/CAM治療には、ハーブのセントジョンズ・ワー ト、ソー・パルメット、鍼療法などが人気である。特に、鍼療法に関して、 National Institute of Health(NIH)は通常治療に比べ副作用が少ない ことを指摘するまでになっている。

■TM/CAM使用に関連する危険性…TM/CAMは通常、セルフケアとして使用され  るが、規制されていない国も多い。

そのため、TM/CAM製品の安全性・品質がしばしば問題になる。薬草の属種の 誤りや不純物混入などの問題が報告されるが、こうしたことはGood agricultural and collection practices(GACP)やgood manufacturing practices(GMP)を遵守することによって防げる。また、アドバイスや処方箋 は必ず有資格のTM/CAM医療従事者から受ける。

■消費者の適正なTM/CAM使用…TM/CAMの適正な使用を促進するには、消費者  を始めとし、政府、医療関係者、NGO、企業など全範囲の参加が必要である。

特に消費者は、TM/CAMを使用する前、次のような点をチェックする。

A)その療法は症状の治療に適しているか。
B)その療法は症状を予防、軽減、治癒するため有効性があるか。さもなければ、健康の改善に役立つか。
C)その療法、あるいはハーブは資格のあるTM/CAM従事者、もしくは適切な技術を有する医療関係者から提供されたものか。
D)その療法、あるいはハーブ製品は品質が保証されているか。E)その療法、あるいはハーブ製品は適正な価格で取引されているか
――など。

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②消費者情報の発展

■文化的影響…各国には文化に基づいた独自の医療知識、経験がある。そのため、 TM/CAM製品を海外市場で取引した場合、消費者が自国の体制あるいは経験に基づ いて使用するとトラブルが生じる場合もある。

■ヘルスシステムの確立…WHOでは、TM/CAMに関して

1)統合ヘルスシステム(中国、韓国、ベトナムなど)
2)包括ヘルスシステム(オーストラリア、カナダ、ドイツ、北米など)
3)容認ヘルスシステム
の3種を認識している。

■利用…TM/CAMの利用法は加盟国によって様々である。

WHOでは、
1)プライマリーパターン(一般医学が制限されている地域では、TM/CAMを初期 治療として使用している)
2)デュアルパターン(中国、ベトナムなど一般医学と平行して利用する)
3)セレクティブバターン(巨大国では、一般医学の代替療法として利用)

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③TM/CAM情報を保証するための基本方針と活動

■信頼できる情報作り

適正なTM/CAM利用を促進するため、貴重な情報のまとめ、伝播に重要な役割を 果たすのが、各国政府、地元自治体である。そのため、各機関の意見交換、 協力が必要となる。

■情報の伝達

1)TM/CAMインフォメーションセンター 情報の伝達、配布にはTM/CAMインフォメーションセンターが有用である。 各国のTM/CAM関連規制条項、TM/CAM提供者の連絡先情報、保険が適用される 療法などに関する情報を配布する。

2)TM/CAM監視システム TM/CAM療法の安全性改善、有害事象に関する情報入手などにこの監視システム は欠かせない。様々な報告体制(例えば、医師など医療関係者が医薬品安全性 監視センターに報告/患者や消費者が医療関係者に報告/製造元や輸入業者が 情報を開示など)を確立し、活用する。

3)メディア 消費者への情報伝達で誰よりも重要な役割を果たすのがメディア。このため、 ジャーナリスト、特に医療ジャーナリストは正しい情報にアクセスするよう 努める。ジャーナル、リポート、書籍、パンフレットなどの印刷媒体、また ラジオ、テレビ、新聞などのマスメディアを十分活用する。

4)その他の情報活動 消費者への情報伝達、教育・指導を推進するには、学校を利用。若年層を ターゲットに、ビデオなどの教材を通じて正しい情報を伝える。また、地方 コミュニティの会合、ヘルスセンター講座、人形劇、電話サービスなども 利用する。

■情報・広告の規制メカニズム

TM/CAM療法への規制に加えて、関連の情報・広告コントロールも必要。情報の 信頼性、倫理性を監督し、不正な宣伝コピーや扇情広告を排除する。また、 正しいラベル表示を保証する。法的処置の確立が求められる。また、消費者は、 インターネット上の広告・宣伝は管理・規制がよくされていないことに注意を 払うべきである。

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④適正なTM/CAM使用を促進する情報をまとめるために考慮すべき事項

TM/CAMに関する長所・短所に関する情報・教育は、消費者が自ら判断し選択 するためのキーポイントとなる。 こうした情報には、診断・治療法、利点、危険性、治療方針などが含まれる。 しかし、TM/CAMの取り扱いに関しては各国の姿勢によりかなりまちまちとなる ため、情報内容も様々になりがちである。

例えば、ヘルスシステム構造やTM/CAM 利用度は、消費者の知識レベルにかなり影響を与える。各国政府や地方自治体は、 情報内容にどのTM/CAM療法を盛り込むべきかを判断する必要がある。また、 TM/CAM療法の受け入れ度と共に安全性、品質、有効性に関する事項の選択にも 迫られるだろう。

■一般的情報

TM/CAM提供者など医療関係者には、TM/CAMおよび通常治療に注意して、患者特有 の要望にあわせ危険な相互作用を防ぐような最良の治療戦略を立てる必要がある。 また、製品の品質には留意して使用する。さらに、必要に応じて保険でカバーする TM/CAM治療を検討する。

■信頼できる情報の入手先

TM/CAMの提供医師、提供医療機関/特定の出版物、あるいはウェブサイト

■情報の信頼性を確認する方法

TM/CAMの情報収集は主に政府がカギを握っているが、場合によっては消費者個人 が収集するようになることもある。従って、その情報を評価する方法を消費者が 理解できるようなシステムが必要である。WHOでは、「Medical products and the Internet:a guide to finding reliable information」というガイド ラインを発行している。

■TM/CAM薬剤療法

主にハーブ療法、ホメオパシー療法、ダイエタリーサプリメントなど。

□1)治療効能書き/製品の製造元やTM/CAM提供者が掲げる効能書きは、科学的 根拠が無いものもある。TM/CAMが医学のメインストリームではない国では、研究 に基づく情報も少ない。

TM/CAMの有効性は幾つかのカテゴリーに分類されることもあるが、例えば「WHO monographs on selected medicinal plants」によると、薬用ハーブの情報は

A)臨床データに基づく使用
B)薬局方および医学伝統システムで表明されている使用
C)実験、臨床データに基づかないが伝統医学で表明されている使用―の3カテゴリーに分けている。消費者は、有効性には違った段階、また薬用製品にもそれぞれの法的な分類があることに留意する必要がある。

□2)品質/GMPスタンダード、製品登録番号など、消費者にはTM/CAM療法・製品の質の確認方法に関する手引きが必要。

A)製品に関する情報/製品および主成分についての詳細確認が重要。消費者は 主成分のラテン名を含む化学物質名に留意するべき。薬用ハーブでは、種属の 確認も重要。科が同じでも属が異なると、生物学的作用に違いが出てくる。 また、使用される部分、例えば根であるか、葉の部分であるかによっても違い が生じる。

B)品質スタンダードの認識/全国的あるいは局所的な品質スタンダードを設定 してあるところもある。品質スタンダードの登録および資格認定システムも 消費者が高品質の製品を選択するガイドとなる。品質保証がされない場合は、 公認TM/CAM提供者が必ず製品に関するアドバイス・推奨を行うこと。 C)保管および有効期限D)原材料の品質保証

□3)注意/消費者には、前もって使用に危険性が伴うことを通知する必要が ある。

□4)有害事象報告システムの確立/消費者は、明らかになっている有害事象は 知らされる必要がある。アレルギー患者は特に、薬用ハーブなどの使用でアレル ギー反応を起こす恐れがあることに留意すべき。また、有害事象あるいは過剰 服用の疑いのある症例報告では、

A)重複を避けフォローを容易にするため、消費者および患者の確認フォームを作成すべき
B)年齢、性別、病歴などを把握C)TM/CAM治療の詳細。例えば、薬草ハーブ療法
では、植物の属科(ラテン名、学名、通称名などと共に)、主成分、使用されている部分、調合法、原料国、有効期限、製造元などを明らかに。
C)用量、投与タイプなどを明らかに。
D)副作用の症状の詳細。
E)併用した薬剤療法の詳細
などを明記。

ガイドラインではその他、
5)TM/CAMの効力あるいは毒性
6)他の療法との相互作用および禁忌
7)用量
8)投与法
9)セルフ・メディケーション、TM/CAM費用および保険などのテーマが取り上げられている。