米国・代替医療への道 2001

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米国代替医療の急先鋒、ホメオパシー療法の最新研究成果
ここ数年、米国で代替医療(西洋医療以外の医療)を求める傾向が強まっているが、 栄養療法とともに、人気を博しているのがホメオパシー療法。病気への抵抗力を 引き出すことにより効果をあげるというもので、1820年代にヨーロッパの 医師が米国に広めたといわれる。日本では明治期以降、東洋医学が西洋医学に にとって替わられたが、同様にホメオパシーも西洋医学の圧力により傍流へと 追いやられた。それが、西洋医療の行き詰まりの中にあって、再び脚光を浴びて いる。2000年の伝統をもつホメオパシー療法の現況を報告する。

  ホメオパシー療法の歴史

ホメオパシーは、ドイツの医師であるサミュエル・ハーネマン(1755-1843)によって1800年代に確立された医療体系で、「健康体に対してある種の症状を起こす物質は、その症状に類似した症状の疾患を治癒する」という理論に基づき"類似の法則"を提唱。"Homeopathy"は"類似"を意味するギリシャ語の"homoios"と"苦痛"という意味の"pathos"からハーネマンが唱えたもの。こうした理論は既に古代ギリシャのヒポクラテスも打ち出しており、マヤ、中国、ギリシャなどの文明の中で好んで使われたことも分かっているが、これを医療体系として組み立てあげたのが、ハーネマンだった。

ホメオパシー医学の勢力拡大に怯えた薬品業界が圧力

ホメオパシーの確立にあたってハーネマンは、マラリアと同様の症状を引き起こす Peruvian barkの希釈液を、熱や震えなどの症状が出るまで何度も自分に試した。ホ メオパシーの目指すところは、疾患の症状を抑えることではなく、体が自ら持つ自然 治癒力を引き出すことにあった。

その後、ホメオパシーはしょう紅熱やコレラなどの伝染病を始めとする様々な疾患 に有効性を発揮し、欧米、その他各地で人気が高まった。しかし、そのことに脅威を 感じたのが一般医療を代表するAmerican Medical Association(AMA)であった。

ホメオパシーに転向する医師が増え、1860年から1900年にかけてAMAのメンバー が減っていった。こうしたホメオパシーの勢力拡大に怯えたAMAや薬品業界は、ホ メオパシーの資金源などに圧力をかけた。その後、閉鎖するホメオパシー関連学 校が増えていった。

AMAは威厳を保つことができた。しかし、ホメオパシー医学は絶えることなく存続した。 フランス、イギリス、ドイツ、ギリシャなどのヨーロッパでは相変わらずの人気を保ち、 特にフランスでは一般の40%がホメオパシー療法を利用、内科医の39%がホメオパシー 薬剤の処方箋を書いているといわれる。また、ドイツでは医師の20%が実際に利用し、 45%はホメオパシー療法が有効であると考えているという。

ホメオパシー薬は本来"医薬品"、医師あるいは薬剤師の処方箋が必要

一方、米国でも、一般の医師の中でホメオパシーに興味を持ち途中で勉強する者、 また最初からホメオパシー医療を学ぶ者もいた。本来、ホメオパシー薬は"医薬品"と 考えられているため、治療を行ったり処方箋を書くには医師あるいは薬剤師の資格が 必要となる。

しかし、ホメオパシー薬の多くは一般に市販されており、医師や薬剤師の資格がそれ ほど役に立つということはない。また医師などの監督の元なら、資格がなくても治療 を行うことができる。

米国では、1970年代にホメオパシー専門医は50~100人を数えるのみだったが、1980 年代半ばになると、約1千人に増えていった。こうした増加はヨーロッパに匹敵するも のではないが、それでもF.D.AConsumerによると、1970年代末から1980年代始めの間 に、ホメオパシー薬の売上は1000%の上昇を見せたということで、さらに今後の伸張 が期待されている。

個別的療法のため、治療前に医師の診断が必要

ホメオパシー薬はハーブやミネラル、動物性物質などの素材をアルコールなどで薄め ていき、機械的に混ぜて出来上がったものを与える。例えば花粉症患者を治 療する時、涙目や鼻の炎症といった花粉症と似たような症状を見せるAllium cepa (タマ葱)を使う。このホメオパシー薬は、薄めるほど力が強くなると考えられ、1C、 2C、1X、2Xなどというのが希釈度を表す目印となる。

この時のXとは1:10の割合、つまり原料1に対してアルコールや乳糖が10ということ。Cの場合は1:100となる。 この作業で出来上がったものをさらに同じ要領で2回、3回と薄めて使われる場合多 い。この場合に2X、3X、4X…と表示される。通常使われるホメオパシー薬は6X、12X、 30X、6C、12C、30Cだという。

このようなホメオパシー薬は現在、ヘルスショップなどで市販され、家庭でも使用 できるようになっている。ただ、ホメオパシーは個別的な療法のため、治療の前に 医師の診断が必要といえる。

つまり、風邪といっても全てが同じではないため、その 患者が寒気を感じるのか、熱っぽいのか、鼻水が出るのか、それとも詰まるのかとい った具合に、面接で事細かに聞き取り調査をする必要がある。そこで、その患者に一 番適切と思われるホメオパシー薬が使われることとなる。

ホメオパシー療法の最新研究成果

25年にわたる臨床研究を分析、対照研究107件のうち81件が有効性示す

ここ数年のホメオパシー療法に関する研究は増加の一途をたどっている。1991年 British Medical Journalに掲載された研究によると、オランダの研究グループ が25年にわたるホメオパシー療法の臨床研究を分析したところ、対照研究107件の うち、81件が有効性を示した。また、有効性が見られないとするものが24件、 結論が出ないものが2件あったという。

内訳を見ると、呼吸器感染の治療を調べた研究19件のうち13件が有効性が認めら れた。その他の感染治療研究7件のうち6件、消化器系研究7件のうち5件が症状 の改善が認められた。またリューマチ疾患研究6件の4件が治療で治癒力改善が認 められ、痛み・腫瘍治療では20件のうち18件がプラスの結果となっているという。

喘息治療で82%に症状の軽減

1994年のLancet誌に掲載された喘息治療に関する研究では、グラスゴー大学の研究 グループが患者24人にアレルギー反応を起こす物質、あるいはプラセボを与えた。 治療グループは30Cの希釈剤が与えられたが、その結果、治療グループの82%に 症状の軽減がみられたという。プラセボグループは38%だった。

1994年のPediatrics誌に掲載されたものでは、子どもの下痢治療に関する研究を 取り上げている。ワシントン大学とニカラグアの研究グループは子ども81人にホメ オパシー治療剤かプラセボを与えた。それによると、治療グループはプラセボグル ープに比べ、症状緩和があらわれるのが20%早かったという。

また、1991年のBerlin Journal on Research in Homeopathy誌に掲載されたイタ リアで行われた研究では偏頭痛患者を対象にした。研究者は被験者に偏頭痛の回数、 度合いなどの聞き取り調査を行い、30Cの治療剤かプラセボを4回、2週間にわたっ て与えた。その結果、痛みの緩和を感じた患者はプラセボグループの17%だったの に対して治療グループは93%あったという。

多動障害児の治療にも使用

2001年のBritish Homeopathy Journal誌に掲載された研究では、子どもの急性中耳炎 患者230人にホメオパシー薬を与えた。痛みの緩和が6時間たっても見られない場合、 別のホメオパシー薬が与えられた。さらに6時間後に緩和がなければ、抗生物質が与 えられた。その結果、最初の6時間後に痛みの緩和があったのは、39%。12時間後で は33%あった。この有効性が見られた時間はプラセボグループの2.4倍早かったとい う。

また、同誌に掲載された研究では、多動障害の子どもを対象にした。多動障害には一 般的に薬剤、Methylphenidate(MPD)が使われている。この研究では、MPDとホメオ パシー薬の有効性を比較した。3歳から17歳の患者115人(男子92人、女子23人)は、 多動障害の目安となる指数CGI14以上が選ばれている。被験者にはホメオパシー薬を 与えるが、改善率が50%に達しなかったグループはさらに個別化しない治療に関する 研究も様々に行われている。

また、フランスで最も人気の高いインフルエンザのホメオパシー薬はAnas barbariae の200Cで、Oscillococcinum?という名で販売され、アメリカでも人気を博している。 この他、1989年British Journal of Clinical Pharmacologyに掲載された研究では、 インフルエンザ患者478人にホメオパシー薬かプラセボを与えたところ、48時間後に 効き目が現れたのは、プラセボグループに比べホメオパシー薬グループでは2倍だった。